2010年12月1日水曜日

KUREMUTU CLUB 2010/11/30 (後期7)

 11/30頃、コメントがすぐに削除されてしまうという不都合が発生しましたが、ブログの設定を調べてみても、それらしい理由が発見できません。どうしたんでしょう?ひょっとして、地震の磁場変化の影響かなにかかな?大地震が近づいているとか?それとも、ウィキリークスみたいに攻撃されているのでしょうか???

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KUREMUTU CLUB 2010/11/30 (後期7)


               
逢桜カイン

いざ行かん時は戦国出陣じゃ!!二足3900円(ザンク)の特大セール

いざ行かん時は戦国出陣じゃ!二足3900円(ザンク)の大売出し

朝早く重いまつ毛でいってきます夜中パンダでただいまですよね

本当は元気なロリータ今のハニーとか言うのがもう恥ずかしいんだよ

で、彼女ハーフみたいなドールの様な可愛くてそう、天使(以下略)

おしるこが食べたくて会えなくて苦しくてあぁモチに(以下略)

私からおさがり貰った弟のおさがりを今私が着てる

★★★

うっすらと滲む痛みは頬の色ゆるゆる流れる河のはじまり

くれぐれもあなたに恋をしないよに私は父を母を愛すの

自己愛の結ぶみず子の夜泣きゆえ我はいわゆるノイローゼだね

ゆゆしきと云いながら見る対岸の火事にざわめく隣国の火病

(この歌は朝鮮半島の件の前に詠んだもので、ニュースを見てびっくりしました)

識ることの果て無き快の泥沼へ我罪深くも友を落とさん

しろきてのにくらしげなるつめのさきかむをもつてかにばりずむとす

甘すぎるミルクティなど舐めながら辛い辛いという弱音聞く

立ち枯れの白骨のような林から赤いケープの叫ぶ女が

悲しみはあの子の正義の報われぬことを知らない暗い幼さ

チルチル冷たいあしらいチルド便にゃーにゃー中身は失せてたかぎづめ



影山間

あたくしの不覚に残った口髭からキュートを読み取るあなたの力量

あのころは星のかしまし夜ごとに非科學世界の幕が上がった

我量れずさきなき娘に怒(いか)る母の言葉にどれほど心があるか

花霞ホームがにじんで溶けるまで瞬けぬほどあなたを思う

みぎひだりちっちゃな頭でメトロノームきみの夢見るガタンゴトンガタン



たわしにパジェロ

どうやら投稿場所を間違えていた模様なので

家を出ていつもの自販機こんにちは 青でも赤でも貴方一筋

靴に穴 気分落ち込む帰り道 どんぐり出てきて秋を感じる

いい見本 電車の空調私には 帯に短し襷に長し

携帯のカメラを通せばあら不思議 リアルもフェイクもパシャリとな

~~~~~~~

左手に右手に両足総動員 観客0のエアバンド大会開催中

イヤホンを通じて届くユートピア 心通えばなんでもござれ

お住まいは? 真顔で答える「ヴァナディール!」忘れないでね、警備の仕事

歳とれば 涙もろいといわれるが 泣くのはいつも漫画とゲーム



若松”おかず”太郎

山中で敵の気配を察知して力の限り走れ逃げ切れ

新緑の雑木林でセミが鳴く抜け殻だらけ匍匐前進

この泉敵のワナかも知れないな飲んだら最後人格チェンジ

窓の外火星人基地目に入るふと門の上目光る般若

戦隊は日々の訓練欠かさないケインコスギはカクレンジャー



ゆるり

ぼくは猫。甘えさせてよ膝の上。ぼくを撫でてよお腹が空いた

夢を見ようひわいな夢を三日三晩君は逃げない内緒の秘密

一滴も血は出ないのに叫んでも痛みは消えないのに君はいない

悔しいと泣いていうんだその少女僕は髪の匂いを嗅いでた

手のひらに落っこちといで赤いネオン六本木から流星群よぶ

(第二ヴァージョン)

手のひらに落っこちといで赤いネオン六本木から流星群よぶ

僕は猫。甘えさせてよ膝の上。僕を撫でてよお腹が空いた

悔しいと泣いていうんだその少女。僕は髪の匂いを嗅いでた

夢を見ようひわいな夢を三日三晩君は逃げない内緒の秘密

一滴も血は出ないのに叫んでも痛みは消えないのに君はいない

あの部屋で君の憂いを抱きしめたほくろに三度口づけをした



ふぢゆう

乳房撫ぜ内出血に抗議するほうれん草のごまよごしばかり

爪先の剥げた朱色に匙を置く そうか卵液にぎくとするのは

そして三脚の《headache》アシをいつぽん折つた前例さえも!

目医者の妻がきんとき豆を含む時うそとほんとはつながつてゐる

どうしてもひとり暮しの室温に蟄居マイマイ蟄居マイマイ

ざ・えんど ゆめとなだめる背におもう 果汁の数字はむさぼるくせに

2010年11月29日月曜日

KUREMUTU CLUB 2010/11/09 (後期5) + KUREMUTU CLUB 2010/11/16 (後期6)

 新しい無線子機を買って、家のワイヤレスネットワークを拡張しようとしたら、電波の干渉が起ったらしく、ワイヤレス環境がめちゃくちゃになってしまいました。非常に不便な状態で、いま、更新を行っています。まだまだ問題が続くかもしれません。どうなることか。

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KUREMUTU CLUB 2010/11/09 (後期5)               



逢桜カインさんのコメント...

藤色の指先こすり白い息貴方を待つのに温みは要らない

ツンと冷えし空気に目を見開けば黒い瞳に白きヘキサゴン

夜長く暁待ちつ西の空君は夢見るミルキーブルー

甘い物が食べたい夜夢現つ甘露は白馬の垂らす小水

冷える足つま先眠りけんけんぱ痺れ倒れりゃああ骨の折れ

2010年11月9日2:44



藤助さんのコメント...

相変わらず時間もお金もない私。



歯がうずき白菜噛んで歯が抜ける 「なんじゃこりゃあ」とひとり殉職

とりあえず「いいですね」とは言ってみる 中古ベンツとバツ一の叔父

二日酔い治らないまま三日酔い 酔って良い宵 四日目も酔い

眠れずに悪心(おしん)の声を聞き流す 夢と現(うつつ)の狭間に臥せる

そうだった 厄年なのを忘れてた 神社の鳥居を眺めたままで

2010年11月9日11:59



ふぢゆうさんのコメント...

こんにちは。



別珍の帽子被つて白黒の歩巾(ほはば)でとなえる べっちんべっちん

kitchenはなべて溶かすと十年間呪詛煮こぼすも喰うに喰われず

よるべない乳歯が何処かへ消えたとてそれはこどものしたことですから

2010年11月9日15:24

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KUREMUTU CLUB 2010/11/16 (後期6)

         



maya. さんのコメント...

古澤です。投稿ここでいいんでしょうか・・・


10月の終わりから入院したりして大学にいけませんでした。


16日からまた授業行きます。



ミルクティー胸焼けするわ昼下がり次の恋まで走って何分?

もう少し秋が過ぎてくその前にキミに言わなきゃ最後のサヨナラ

たまにはね甘~くしてね朝食のオムレツの味と私の評価

片道の切符しかない恋だから、何処が終点?教えて欲しい

君みたい。凍える季節に咲いた花触れれば最後白く粉々

2010年11月14日0:35



ゆるりさんのコメント...

久々に、早速。


ゆめをみることが怖くて現実派のふりがうまくなった24

ごみ箱をひっくりかえして紙くずの中にみっけたビビりなわたし

からみつく龍は三匹天に咲く祈りのようだきみの右うで

このまんま時が止まるか生命の音がおわってハグの体温

ここ、危険。わたしの有頂天の先に立ってみおろす真っ黒な谷

2010年11月15日15:32



逢桜カインさんのコメント...

今回は多めです・・・作り過ぎた感。


金の輪と透明な石とくちづけを君にあげるよ今日は晴れの日

君の髪きれいだねぇとくしを持つ「切らせないでね」切らせないとも

ねぇどうか僕が死んでも泣かないで未練が残って死にきれないから

君がこぐ自転車でゆく夜の海こらえきれない想い満ち干き

愛らしい歌娘たちの唄う歌を流しながら今日から気張る

おうちまで急げや急げ走り出す猫が帰りを待っているから

寄りかかり触れて気付いて身を起こす寝てて良いよと囁けたらなぁ

隣人は温泉の匂いをまとう外人さいとしーいんぐなう

逢いたくてとりあえずまず目を閉じる売れてる歌手のアート(苦笑)なセンス

文字という塵の積もった暗い森埋没するキミ掘削するボク

ホットミルクの膜をそっとすくうだけ、それで僕らを知ったつもりか

美しくなんて生きられなかったな。子供の頃の僕が眩しい

親友と前の彼女と姉と叔母、知人親戚みんな病んでる

霊園で君とさいごのかくれんぼ僕はしぬまで鬼をつづける

鳥かごが欲しいと君は微笑んだ。鳥は要らない、我を欲すと

睡魔とは年の数だけ付き合った相棒であり宿敵である

★★★

神父様そのケープ暖かそうね。わたしは女の皮しか着てない

おまえなど埋もれて自由を奪われろ。私の胸に私の腕に

浅ましく何度も何度も食い下がる何度も何度も恋の病に

はらはらり目眩を覚えてしゃがみこむ渇いた渇いた目が渇いた

ねぇあたしを大事にして!忘れちゃう、あなたの恋文あの子の写真

2010年11月15日22:54



やまもと めーとくさんのコメント...

今期から参加の山本明徳です。

初めて投稿します。


徹マンで賭ける指運をラス牌にアサがきてきて雀と踊る

大雨で逢えないのならば3次元行けばよかったトルコ風呂

米炊いて業を背負いに銀玉遊び私を待つのはジャーの福音

コーヒーカップの蓋の文字かわいい顔文字ほほえむあの娘お仕事でやってるだけだけど

深夜3時の赤い羽募金小銭を入れるはトルコ風呂帰りの俺(ありがとうございました!)

2010年11月16日3:16



すづきなをさんのコメント...



塵は塵に還って見回す大広場正しくなったら空も見えない

大丈夫紅茶と麦茶とウヰスキー四捨五入したら一緒だったし

渋滞しひしめき合って排気ガス 存在証明 クラクション

ユートピア ばかだなんてあんまりだおまえなんかになのるなもない

あらいやだウサギなんかいないじゃない いつになったらみんな気づくの?

2010年11月16日4:06



ふぢゆうさんのコメント...


南京豆の脂(し)乱暴に拭うユビ記号化された曾祖母の膣

スカッチの日本語訳は浅傷と知つた故哲学するCHELSEA

××(ペケペケ)党のつよくかかげる非暴力パロディとしてのもつの反芻

2010年11月16日15:09

2010年11月1日月曜日

KUREMUTU CLUB 2010/10/26 (後期4)

11月2日は休講にします。ご注意!


以下は、10月26日に検討をはじめた作品です。まだ途中ですので、次回もプリントを持ってきてください。


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KUREMUTU CLUB 2010/10/26 (後期4)




ゆるりさんのコメント...

ゆるりです。



しろいしろい野菊になろうあしたにはきみに摘まれてゆっくり枯れて

目でなめる寝汗のかおるシュミーズの夢遊病したボロアパートで

さざ波がたつ晩秋の白うなじつっとふれればひんやりかのこ

鍋の中水をはじいて競いあうサラダ油はただ生きるため

ひまわりを描いた絵描きはどうしてる?私は枯れた花畑にて

ぶざまでもバニーガールの右足にすがってみたいいのちのかぎり

きのうから馬場二丁目経済の香りまとった美女が下車する

あきちゃんのふっくり膿んだかなしみにふれてふるえた赤いハロウィン

その声を夜中にこっそり捕まえて小瓶にいれてずっと飼うのよ

あのひとのあばらの浮いた胸にそう犬になりたい豪雨の路地で

たかいたかーい。ばぁばは知恵と理性とをおそらのうえに放ってなげた

2010年10月25日22:05



逢桜カインさんのコメント...



うる、うる、と黒い外套濡らす髪夜空が泣くから今日は生きてる

このままでいつまで走ってられるかな。なんか知らんが涙出て来た

がらになく化粧して来た恋人の我が父に会う覚悟が愛しい

ろうそくの灯りに浮かんだ暖かき家庭は見ず知らずの家庭

着て帰れ。今夜は急の雨だから。彼女の肩にジャケットを掛け

外国の漁師町の絵を見せられて気付くと何故か胸が熱くて

2010年10月25日22:11



すずきなおさんのコメント...



立ち上がる覚悟があればうろたえぬ 裸の王様ぼくには見える

箱と箱極彩色の4回戦おててばんざい光が弾ける

長い糸ばらばらばらして整える ほどいたほうが好きなのに

へいわっさけいたいなんか捨てちまいな始めましてのご挨拶

重い空やるさやるともやらいでかひっかかってるてるてる坊主

布きれの端に滲みし錆の跡 気づけばつんと匂ひがのぼる

2010年10月26日3:05



ふぢゆうさんのコメント...

こんばんは。

ごちゃごちゃです。



つま先に朱肉滲ます片脚の午后チヨコレイトとたたむ銀紙

shangri-laあおのよかんのゆうぐれに埋没してゆく早生みかんだだだ

葡萄狩りにんげん蛙(がえる)と化すおなか ぐれぷ、と呼吸するきみ猟奇

ぐるぐると伏した睫毛の延長にわんぱくがすぎる4!(よんのかいじょう)

知つててもはぢめてみたいに頷くしあたしの事件もわらつてゆるして

たわむれに白湯したたらす糸よわく子宮のほつれ目 ねむれわるいこ

2010年10月26日4:59

2010年10月20日水曜日

KUREMUTU CLUB   2010/10/19 (後期3)

10月19日に検討した作品です。
ゆるりさんと若松“おかず”太郎さんの分は、来週もう一度検討しますので、プリントを持ってきてください。

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KUREMUTU CLUB   2010/10/19 (後期3)




藤助

夕空に跳ねる光を見て気づく 世界の果ては神のみぞ知る

神無月虫の音聞けぬ夜更け過ぎ なぜうことかと酔いの呟き

寝過ごして諦めて読む新聞に 経る日々を知る月曜の昼

今日もまた時の速さを思い知る 友も明日も待ってはくれず

衣替え見知らぬ服に独りごつ つゆも覚えぬ去ったひととせ

あなかしこカバンに物差し入れる子ら 世界と己の距離を知るらむ


時を無み家へと続く坂道を 雪崩れ落ちぬる早き黄昏

秋月の雲も侍らぬ藍の空 清しき風に哀の残り香

いみじうもかみのみことばうけたなに さもありなむとやさしきわざよ

時去って心まにまに時を追う 昨日と今日の夢をば知らめ



あいじ

窓辺にて きみのひとみをのぞきこみ 愛をもらった  愛をかえした

ここからよ いまここからよ めをあけろ ただひとすじの 光たどって

あいにいく あなたにあいに いきたいな このままの 顔みてください



逢桜カイン 1

なんとなく、高校生たちに贈る。

ら抜きとか言ってる堅物の脳天直撃天誅セイバーアタック(コマンド→AR)

三成は関ヶ原へと舞い降りた墮天使とか言ってみるテスト

語呂合わせ(794)鳴くようぐいす平安京。(1582)イチゴパンツの本能寺の変

僕の安ッちいプライドと同じくらいキーゼルバッハ傷つきやすい

かさぶたを剥がすと痕が残りやすい。ニキビも潰すと痕が残るよ

あっちゅー間どんどこ過ぎてくものですよ、ディケイドなんてまじあっちゅー間




逢桜カイン  2

プロポーズ早くしてよね待ってるわ。縁を切るのに良い機会だし

お揃いの手彫りの指輪悪いけど芋版みたいでマリッジブルー

刈り取れよ摘み取れ集め収穫祭たわわ知恵の実うっかりボトリo... rz

クロノスの残酷関数n+1。nを教えぬ姉バースデー

サンタさんプレゼントには未来日記を。禁煙成功って書き込みたいぜ

パキケファロ!唸れ頭蓋よ脊椎よ踊らずぶつかれ欲減らしの鐘

飼育員声優博士プログラマー……どれも一瞬憧れたもの

海賊王仙人博徒デュエリスト……どれも一時憧れたもの

ビビデバビデ媚びる声音ぬるりぬらりあなたなんてまさにインキュバス……
(音読時にはワルツで)

星が好き届くことない物だから。貴方を好くよりよっぽど楽で

数え歌唄う老婆がぼんやりとただ北を見てソ連と呟く

ベリベリィ甘くて甘い姫御前の唇からする果実の気配




ゆるり

赤羽でいちにちためたためいきをこだしに吐いてたのむ並盛り

ひとはだが恋しくなってまるまってふとんのなかに偽のぬくもり

リーマンになったあんたは早すぎるヌレオチバシンドローム予備軍

たまらんとキャントストップラビンユーかいねこを抱くみそじのga-ru

マリオよりひとつ年下24の五黄の寅には牙とかエロティカ

まじ本気頭痛が痛い春だものベロキラプトルけしかけちゃうyeah

ねぇムスカ尾崎豊の息子とか娘息子だらけ人がゴミのようだ

マッスルなでんでん太鼓はたたく尻大きくおなりとああもみじ腫れ

とびたった濡れ羽色ならあのおんな。はちきれんばかりのキスをくれと

おいおまえ天衣無縫なあのメガネかければ年収2000万とか

かちかちに重炭酸ソーダをいれてふくらめはじけろカルメの悪夢

水密桃なんか世界の天敵だ。あまいあまい汁したたかにアピール

乳濁の耳をみようよあしたまで冷めちゃいけないうさぎのうぶげ



逢桜カイン  3


初恋の醸す香りと微熱とが肌に触れてはミルフィーユなの

君が僕を諦めたと知った時僕はなんだか負けた気がした

目眩呼ぶあなたが私と云ふときの普段僕と云ひしあなたが

まつろわぬ我らを神と畏れるはおもに貧しい心の持ち主

微睡みの間に見ていた変な夢。僕は還った。知らぬ子宮へ

黒猫の舐めたる腕の生臭さ彼が生きんと食んだものゆえ

ざりざりきゅっ眉を舐められ噛まれたり子猫なりに毛繕いせん、か

嗚呼欲しいあの子が連れ行く幼き子胎こそあれど我嘆くのみ

花終りこぼれ落ちたる朝顔の種から新芽、親にまつわる




若松”おかず”太郎


カリブ海どこにあるのか知らないが森を抜けると岩場広がる

夕食は浜辺のデッキで肉料理箸で食べたいちょちょちょっぷすてぃっくす

勘違いでかいザリガニロブスター水揚げ量はこの国三位

四日目にはアイアム立派なカリビアン慢心たたり迷子のアジアン

SMAPの新メンバーに火星人ビストロスマップ当面休止

音速の桜前線やって来る弾丸ケイン届け指先




逢桜カイン@機関銃モード  4

我が魂は腐つてしまつたのですよハゲ萠え熱気に晒してゐたから

我の手口には欠かせぬキーボードお茶を飲まされやたら寡黙なう

あぁ機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)よ驚きの急転解決よかったよかった

エプロンを着て台所に立つそれは嫁の仕事と思っていたけど

2010年10月16日土曜日

KUREMUTU CLUB 2010/10/12 (後期2)

10月12日に検討した作品です。 


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KUREMUTU CLUB 2010/10/12 (後期2号)




  

ゆるり

握る手の弾力ぬくもり湿気指紋。秋雨の日に距離はちぢまる

一秒と一秒の間に横たわる思考停止の音をきく午後

いて当然いなくちゃ困る頼むから消えちゃいやだよ大好きな君

忘れない宇宙色したあの声は私の景色を塗りかえる声

いつもそうあなたは嘘を嫌うからわたし戸惑うきらいきらいきらい

思春期は終わったよねと笑いあうこんな日がまさか来るとは苦笑  (←そのまま苦笑と読んでください)

何もない日々におびえたあの頃のわたしは何を恐れたのだろう

上がってんの下がってんの雨ふってんの?今朝もあきこにふりまわされて

一滴のインクを垂らしモノクロの世界を宇宙の色にそめるよ

ハゲタカは胸にスピカを隠しつつ僕の妹さらっていった

忘却の小箱をここへ置いていこう。過去の墓標の前にて誓う

とうとつに母になったというきみはなんともなんとも母親のかお

よんかいめあなたはおなじことばかりいうけどきくわ夫婦のゆうべ

(以下、別表記バージョン)

握る手の弾力ぬくもり湿気指紋秋雨の夜距離は縮まる

何もない日々におそれたあの頃のわたしは何をおそれたのだろう

一滴のインクを垂らしモノクロの世界を宇宙の色に染めるよ

はげたかは胸にスピカを隠しつつ僕の妹さらっていった

いて当然いなくちゃ困るたのむから消えちゃいやだよだいすきな君

忘れない宇宙色したあの声は死んだ景色を塗り逢える声



惡櫻カイン

カンカンカ——誰かが爆ぜて——ンカンカン——監禁される——カンカンカンカ——

ずぶ濡れのどぶねずみ達とあぶく銭まぶしいネオンにあぶなげな脚

戯れにインク流したらステルス履歴書に棲む悪しきペルソナ

んだてめぇあにせってんだぁおぉおらはこっからよぉまっつぐかんおけよ
                    (なんだお前何してんだ俺はここからまっすぐ棺桶よ)

青林檎海空信号ポリバケツ春に大将青ってなあに

囚われろ言葉の沼の亡者の手全知全能笑ってみせろ

伝わらん#000000この記号黒本当に黒



逢桜カイン(「惡櫻カイン」よりの改名第一作)

あの子のお母さんが僕のお義母さんになればいいのにと妄想

秋来たり!猫が葉を食う其の樹には魚卵のようなオレンジの花

常の花樹齢二十四桜の木道無き思いの交差点に咲く



影山間

かあさんをあのこがぷうぷうふくらませていっそにそらまでつれてったんだぁ

混ざりもの 野けもの化けもの縁起ものものものしいからものくろにしろ

からホチキスカチカチカチカチからホチキス綴じる(べき)ドキュメンタリは厚く

明け方の 呪いは触れねど馨しく  おみみの裏がわ   しずか、に、    (こきゅう)。

すくってねん☆あの娘は金魚鉢の中きらぴらまって天のポイ待つ

白白と白日白自転車とったのよ白目きよいこ自白もきよい



ふぢゆう

はんかちにそと載せ眺めてゐる母の赤い耳輪とわたしのCHELSEA

驟雨(とてもしづかな)毛皮(とてもつめたい)地下鉄は血管のやう
                          ※( )の中も外もそのまま読みます

浴槽にしずむ制服およぐRibbonどうしよもなく生命体だね

おやすみの檸檬エツセンひと滴 すわる尼僧(にそう)も ゆれる南瓜も

☆■◆○▼△UFO◇●□★▽▲
       ※☆★:ほし ○●:まる □■:しかく ◇◆:ひしがた ▽▼:した △▲:うえ

2010年10月6日水曜日

KUREMUTU CLUB 2010/10/05 (後期1号)

 2010年10月5日の授業で検討した作品です。
 
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KUREMUTU CLUB 2010/10/05 (後期1号)



惡櫻カイン 1


あの人に黙って噤んで忍び愛人魚の足に口止めされて


香を焚き衣に纏い春を待ついつも彼の人鈍色コート


媚びりつく化粧(けわい)を厭い丸素肌被る仮面は真っ白き愚者


春過ぎて夏きにけらし白無垢のアイスブラストフィルターを噛む


鍵失くし我は帰る場所が無いたった一本失せた鍵ゆえ


ドア越しに猫がなくなく我を待つそれを知る我はしばし立つ



惡櫻カイン 2
 

わがたまのいきどほりのほとにそなたのうみのしたたりあなかぐわしや


いとわれしごうのやまいをおひたるをぜひなくだきたるきみぞこひしき



ゆるり

熱いのか?悪寒か?怒りか?悲しみか?何もわからぬしみる虫の音


猫の鼻みたいに濡れる僕の肩。傘は電車でただ車掌を待つ


過去と未来僕を引き裂く要因に君は笑うか?笑顔が見たい


どこまでも☆★ランナーズ・ハイ!!★☆進め、ただ。☆★ランナーズ・ハイ!!★☆途方もない道


疲れたとアトムの子供は世界の前に立ち尽くして泣いているのか?


声枯れて届かぬ両手、暑い夜。希望は遠く家はすぐそこ


君の勝ちだ。安息日が来ようとも。つくつくほーし。塵になろうと




惡櫻カイン  3

プラトンは別にそんなの言ってないほんとは僕のがうつなだけだし


気付くよねある時ふっとああだめだ僕はとっくにつんでるんだって


すみませんもじうつだけがとりえですはんせいはとくにしてませんが


鈴木 直


突き刺さる前に気づいて大通り三寒四温五cm


最寄り駅三回回って無計画 足腰立たないお遍路参り


小学校プラスチックに夢乗せて無限軌道で水平線へ


被り物正体不明の紙袋なんだかスーパー神々しい


枯れ草に浮かんだ然しもの屋形船 後ろの正面丸い影



ふぢゆう


うつ血した茗荷におもう乳液と謂つたきみとの0.14


控え目にねだる子どもの翳ゆがむ唖唖(ああ)痲疹の日の昏きかすてら


絲をひく箸先で犬犬(わんわん)と哭くのをでたらめに攪拌してゐ


everybody不潔不潔の女生徒のしずむ黒髪すり、ぷたをたを


甘夏をがさつに碎(くだ)く踏切とかなしいままにしてくれる肘


十月のうす紫の自転車の手動式なるその十月の




佐藤穂高

真っ青な空にめくれたシャツの裾ちらりと見えた肌色の夏


台風を待つ星空を見上げてる首を落とした太陽の花


身震いし軽い体(たい)「てや!」ハイキックしてしまうよな抜ける青空


星空は千年前の煌めきと知って想うの幼い君を


晴れた空見上げて青と感じたりごはん美味しと言える気持ちで



藤助

長月の彩の川原に咲く芭蕉 過客の花とただ渡れやも


出し抜けの豪雨に襲われほくそえむ 弾む心に猛ける稲妻


友の声ながく聞かずば電話あり もう秋だなと残暑の夜に


金木犀香ってくるのはいずこから 汗の滲んだ厚手のシャツで


あてどない旅を感じてさぁどこへ 素寒貧でも知らない街へ

2010年9月29日水曜日

2010年度秋期、開始です。

 ここのコメント欄に作品を投稿してください。
 一週間分の作品を編集・印刷し、毎回の授業時に合評します。
 作品というのは、毎週うまいぐあいに出来るものでもありませんが、できるかぎり投稿を!
 作品数が少ない週には、過去の秀作短歌を読んだりしましょう。
 9/28には荻原裕幸、小中英之、河野愛子、斎藤茂吉、永田和弘の作品を読みましたが、そんなふうに。


 投稿の際は、本名もペンネームも使用できます。ペンネーム使用の人は、あとで本名を教えてください。

2010年6月30日水曜日

7/13や7/27のこと

 7月の終わり頃の授業に関して、ふたつのプラン。
 (1)13日にはやめに切り上げて、お酒でも飲みに行こう。そして、離れ孤島の27日は休講にしちゃおう。
 (2)27日に打ち上げをかねて酒宴にしよう。教室に集まってしばらくしたら出発だ。
 …さて、どちらがいいでしょう?
 6日にでも決めたいと思います。
 今期とっていない人も参加OKですよ。

2010年4月13日火曜日

2010年度前期のはじまりです

 ここの下のほうにコメントを投稿するところがあります。
 そこをクリックして、作品を書き込んでいってください。
 書き込み方はむずかしくありませんが、迷った場合は、これまでの投稿のようすを参考にしてください。
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2010年2月27日土曜日

くれむつ和歌集・続(2009年秋冬)

 二〇〇九年九月から二〇一〇年一月、前期に引き続き、早稲田大学第二文学部表現芸術系演習三十四の参加者たちは、ネット短歌会KUREMUTU CLUB(http://kuremutu.blogspot.com/)に作品投稿を続けた。やはり、初めて作歌に手を染めた人たちばかりにもかかわらず、作品は五〇〇首近くに達し、質的に高度なものも多く、斬新な挑戦も少なくなかった。大学の演習での実作としては慶賀すべき稀な事態であったといってよい。詩歌の道は経済的繁栄に遠く、地味で報われることも少ないものだが、これらの歌の数々に明らかな才能の可能性を示し得た人たちは、今後の生の中でも、ぜひ詩歌にかかわり続けていってもらいたい。今回の成果を記念し、歌を作者別に並べ直し、全作品をここに集成する。配列は作者名によるあいうえお順とした。 なお、著作権は個々の作者たちに存する。著作権に関わる事務は制作者・駿河昌樹が担当する。

二〇一〇年二月二十七日                          

編者   藤原夏家
制作    駿河昌樹




くれむつ和歌集・続(秋冬)

青木佑太
イパネマで CIDADE DE DEUS のバス見たり オレンジの文字がくっきり光って
イパネマの娘よりもアルゼンチンの娘の方が可愛いと云い
たまごごはん食べたい食べたい食べたいたまごを買いに行く夜の二時
燃えるトマトラーメンのスープをもってここから始まる、今日、不死の歌
嵐吹く東京の空に訪れる一つや二つの命など知らぬ
左耳耳鳴りのする母親の右耳に告ぐ最終告知
真夜中のローソクをすべて切り捨てて、サンバを踊れば見える見える
北東の土より来たれカリオカのリズムに揺れる第八ポスト
冬夜から帰った部屋でいつ聞きし雨粒の音は今でも響くか?
塩を入れパスタをゆでる境地からダンスが生まれる私の秘密
しっとりと石のくぼみに耳つけて反対側で鳴るカバキーニョ
新宿のすきま風を聞いているコンクリートの秘め事を見たり
Liberdade 隠された記憶の如く地球の反対で食うたこ焼き
ふわり軽くキャッチコピーのように空一つ、飛行機がすべって消えた
空(くう)を見て天とは何か考えて吸い込んだ息は僕だけのもの
風にひと筆書きで書いた夢散るも散らぬもとるに足らない
寂しさや右も左も人だらけ浮世の友を今日も忘れる
疑えば疑うごとに深くなるホワイトシチューの味を夢見る
究極のカレーのレシピを裏返しねつ造する夜はウピピピ
雨の音ひとつぶひとつぶ連なって減三和音がひびく午後の末
雨止んで雀がにわかに鳴くころに待ち人はふと来るのだろうか
夕焼けの色がそのたび違うこと誰にも言わずにひっそりと見る
雑踏のひときわ大きな声の主にも聞こえている日の暮れる音
外灯の明かりに吸いよせられて来た子どもたちの言う未来完了
ごめんねを言われてもごめん分からないそのときの気持ち忘れたから
冬凍る!きゅんきゅん甘い鉄橋で‘I love you’をネコたちが叫ぶ
恋の歌だって歌えない僕らでも百人そろえば奇跡は起こる?
情けない三桁台の死をぬけて恋の聖士(まだ生きている!)
虹色の鱗(うろこ)がキラキラ美しい君にあげたい恋スルチカラ
気がつけば濡れることなどへっちゃらで 夕立の中まりあを連れて
ほらaikoが歌っているよ木の上で(きっと僕のためなのだろう)
○今朝の君・笑った数:5
・寝た数:2
・僕を見た数:2かたぶん3
一瞬でつめたい水を浴びきって君のほっぺをつねりに行こう
「毎日が、自宅‐会社の往復で・・・」そんな彼らの妻たちに唄う
塾帰り森できのこを食べていた子どもらがまだ帰ってこない
探すのをやめてしまったオニの背を影からずっと見続けた冬
雪の降る聖夜新宿東口一人で食べるキムチリゾット
通勤のエスカレーター階段が希望者を乗せ空まで伸びる
六甲の『意外とおいしい天然水』飲んでけっきょく今日もがんばる
静かなる呼吸を乗せたきみの手が僕を掴んだ夜明けのダンス
暗がりで蔑められた目を開く涙はかくも美しきかな
キラキラと視線Xかわしつつ背後でそっとささやくような
口をつく「変態だね」という言葉寂しき二人の合い言葉にする
繋ごうと差しだした手をはねのけて明るく笑うバイバイまたね
気がつけば返さずにまだ持っている『リルケ詩集』に挟まれたメモ
突然の電話をずっと待っている誰も知らないブエノスアイレス
きみの手が素早く背骨をなでたとき時間は逆に流れ始めた
耳元で風が微かにゆれるたび後ろできみが話した気がする
つばを飲む音が聞こえてくるような台詞を言った三時間前
泣けばいい そのために皆屋根裏で生きのびてきたはずなのだから
ねえ速くもっと激しく回してよ ぐちゃぐちゃになる私は綺麗
もうすぐで夜が明けるから眠らずに朝焼けを見るために抜け出す
寂しいときみに向かってつぶやいたことを取り消すための電話
もう二度と会えない人を思い出す事ばかりしている訳じゃない
上がらない原稿ばかり増えてゆく 最後のプリンを食べたのは誰?
平気だよ達也がいなくても私ひとりで鐘をついてみるから
みんなみんな粉になってしまったね子供ごっこをしているうちに
髪型を同じにすれば同じ顔の兄弟姉妹がホームに並ぶ
ひそやかに寝息をたてるカリオカの肌にゆっくりロウソクを立てる
寝る前に睡眠薬を飲んでいる妻の殺意に子供の寝顔
五年目の皆勤賞を受け取った同僚のする離婚相談
本名も血液型も知っているきみに尋ねる「お名前は何?」
いつまでもタイミングばかり計ってる人生だったと最後の言葉
部屋中にレモンタルトを焼く香り溢れさせたら幸せになる
夜更けても返ってこないソナー波。油断してると涙が溢れる
すれ違う裸の心を寄せ合って一夜限りの星を見ている
教室の机の隙間に挟まってチョコを一緒に食べようよ
とめどなくNutellaを食べてしまう夜きみが突然尋ねてくる 夢
いいんだよ我慢しないで言っちゃえよfuck青春!fuck人生!
夢に出たギターを背負う女子高生 例えるならばティーンの匂い
高校の授業パスする二時間目 今日はきみとの青春ごっこ
帰りぎわメールアドレス聞けなくて戻ってこないブーメランする
いつまでもトライアングル鳴らしてる「何かあったの?」って聞いていい?
「すべて」とか「ぜんぶ」とかついまとめちゃう(でも、世界は単純かもね)





ゆっくりと流れる夜と日曜日ささやき止めない電光掲示板
強がりと派手なネオンが響かせる鋭い足音あぁ靴ずれした
白い手に固く握った通告書か弱い背骨に触れてみる
つぶやきさざなみさばの缶詰毎夜開催愛憎会議
真夜中に冷蔵庫の中オレンジ一つみずみずしい夢切ってみる
終電でむせる香水アルコール好きも嫌いも発車しちゃった
目がさめて朝日がやさしくなぞるのは君が残した枕のへこみ




礒部真実子
公園のベンチに座り手をつけばこの町は今朝雨降りと知る
靴投げて占う天気予報では晴れの確率九割七分
あくびして瞳を閉じている間にも伸びる飛行機雲の白線
窓際の席だけ埋まるファミレスで深夜零時の人影を見る
秋深し今年初めて耳にする西高東低冬型配置
足揃え爪切る母は丸くなる まるでサナギの抜け殻のよう
気の抜けたぬるいコーラの温度より生温かく頬伝う汗
マニキュアが乾くあいだに眺めてた地図の上から探す町の名
ふわふわの耳当てつけた少女らは雪降る国へゆくのだろうか
沸き上がるやかんの湯気が白くなる ひと足早く知る冬の色
温かいスープの缶を包み込むその指先が触れる北風
眠くても眠くなくても寄りかかる人が隣にいる冬の夜
サボテンを枯らしてしまう私でもできるのかしら 恋というのは
近寄って初めて気づく先生の黒い眼鏡のレンズの厚み
背中から少しはみ出たランドセル背負う子どもの振り向く笑顔
日が暮れて窓の外には寒空に響く子どもの「バイバイ」の声
夕暮れの街をせわしく交差する散りばめられたマフラーの色
口開けた通学かばんからのぞくふくらみ過ぎた赤い筆箱
終点の駅で降りゆく乗客を幾度見送る置き去りの傘
帰り道電車のなかで分けあった白いイヤホン片耳の音
君のこと忘れたくない忘れたい 触れてはならぬかさぶたのよう
電車から降りるあなたの背を見つつやさしく塗ったリップクリーム
居酒屋の忘年会の旗揺れる忘れたくない年もあるのに
すこし前最年少と言われてた選手を今はベテランと呼び
手を振るといつも後ろを確かめる 探してたのは君のことです
私より高いところのつり革をつかむその手に触れてみたくて
地下鉄の窓を見つめる人々は黒い景色に何を見るのか
手を伸ばし耳からそっと取る眼鏡 触れないように起こさぬように
ぴかぴかと点滅してる信号は君といる日は「止まれ」に変わる
足音が響く廊下をまっすぐにかかと踏んづけ駆け抜ける春
オレンジのお道具箱の底に住む羽をたたんだ折りかけの鶴
背もたれの上にはみ出る新聞の同じ文字追う朝の飛行機
図書館でひそひそ話す乙女らが両手広げて見せあう手相
私とは違うところでアクセント置く君が呼ぶ私の名前
「乾杯」と口にしてから近づけるグラスの先が触れるためらい
頭だけきょろきょろ動く警官が街を見渡す交番の前
布団からすこしはみ出た足の指 夢を集めるアンテナのよう
水銀の体温計を振りながら額にそっと置かれる右手
行列の一番後ろ知らせてた看板遠く離れて見えず
「愛」よりも「哀」の言葉が先にある国語辞典を眺める夜は
金髪の男子生徒が手に握るやさしい色したいちごポッキー
鍵盤にゆっくり触れる調律師 音の狂いを拾い上げてく
花束を抱いた男の行く先にどんな笑顔が待つのだろうか
透明なビーズの粒が弾け飛ぶ雲ひとつない芝生の上で
急行の止まらぬ駅で待つ人の時刻表にはのらない電車
黒猫が良い夢見せてくださいと魔法使いにおねだりしてる
水彩の絵の具が並ぶ画材屋で水平線の色を見つける
冬の朝眠たい顔に吹きつける地下鉄の風ぬるく気だるく
図書館に下巻が残る文庫本 遠い手のなか始まる話
乗りこんだバスの座席は前向いて今夜最後の主人を探す
無機質な茶封筒の左上 真っ赤な色の花咲く切手
グーの手と同じぐらいの柚子の実も冬をめがけて黄色く染まる
音たてて閉じる聖書の右ページ 昔誰かが語った奇跡
道端に続く行列追いかけて地下の世界の入口に着く
年末の本屋に並ぶカレンダー 暖簾のように吊り下げられて
意味なんて知らないけれど手をつなぎ歌うキャロルは聖夜に響く
店先で告げる時刻にあらわれる時間通りの焼きたてのパン
玄関で整列してる雪だるま 「ただいま」の頃また会えるかな
マス目から飛び出しそうなひらがなで夢が書かれた作文用紙
境内のいたるところに飾られた絵馬の数だけ願いは揺れて
沈黙のエレベーターに乗る人の視線集める階数表示
町はずれ閉店近いケーキ屋の前を過ぎれば目につく苺
いつからか切符売り場の前に立ち運賃表を見上げなくなり
今ここに私がいないこと示す宅配便の不在届けよ
目の前でスポーツ新聞めくりだし男は読めと言わんばかりに
替え歌を披露している通学路並んで帰る冬の夕暮れ
片手にはのらない数の歳になる節分の日の豆を見ながら
春近し口をとがらせ子どもらが口笛吹いて真似るうぐいす
新学期最前列で披露する美脚自慢の集合写真
身長を測るみたいに背を伸ばし壁にもたれて口づける夜
終電で家に着くころオリオンは屋根の真上の夜空にあって
言い訳を考えながら乗るバスは今日に限って各駅停車
取れそうでぶらぶらしてる右腕のボタン気にしてつかむつり革
ペン並ぶ売場で残す試し書き誰かの「あい」に付け足す「してる」
もうすぐで電車が入るホームにて鳩が並んだ白線の上
押しつけた本を光が飲み込んで機械は紙に写し吐き出す
手芸屋のボタン売場の引き出しをすべて開けたし冬の日の午後
開かない自動扉の前にいてとっさに浮かぶ呪文のことば
真夜中の公園にあるブランコを自由に揺らす冷たい夜風
子どもから大人に変わり増えるのは心のなかの疑問符ばかり




うぐいす
朝一にパソコンつけてテレビつけ機械に追われ時間に追われ
暇見つけメールの返信いそしむも打てば友から暇人だねと
食欲なく虚脱感あり暮れてゆく今日も一日無為に過ごせリ
人恋し秋のしづけき夜長にはメールのやりとり尽きることなく
定刻の来ぬバスを待つ十月の陽射し厳しき駅前のバス停
青き空広がる秋のさやけさを仰ぎて歩む夕暮れの道
ダイエットさらさらする気はないけれど今日も今日とてバナナ一本
太極拳無駄な動きを省きをりリラックスして呼吸をつなぐ
軽妙にうつす重心運ぶ足慣れとは言うがたやすくはなく
風邪をひき分かる自分の脆弱さ元気のないのは心の方だ
誘われてまんまと罹るインフルの猛威をしばし抑えよタミフル
熱が引きふしぶし痛む関節も徐々にやわらぎ咳も落ち着く
木も草も生きる力に前向きで愚痴も言わずに育っていく
爽秋の胸張る空に白い雲銀杏並木ゆるりとすすむ
ラッシュアワー三ヶ国語が軋みあい談話が走り文化が揺れる
           (西武線の混雑時、仏語に英語に韓国語が飛び交っていました)
暖房のめっきり恋しき朝夕は冬の到来吾に知らしむ
銀杏の匂ひ好まぬ君なれど暮らしの糧と拾ひ歩けり
儚くも紅葉といふ退廃は朽ちてゆくたび艶めきを増す
色づいて妖しく踊るイチョウの葉 秋の遺言その身で奏で
「北風と太陽」寓話思ひ出す十一月の日陰と日向
巡りゆく季節の中の一舞台 落ち葉の輪舞曲(ロンド)輪廻の催事
ゆるゆるとブランコ揺すれば軋む音ただ懐かしく園に響けり
門前で吾を見据える番犬の威嚇のかまへ微動だにせず
不思議にも帰宅がわかる飼い犬の喜び勇む影に和みぬ
仄かなる甘栗の香の誘惑に尻尾で応ふる犬の正直
怠惰なる生活リズムしみついて冬の多忙をおそれつつをり
手相には未だ知りえぬ相手との破局の相が色濃く映り
皆が皆オアシス探し彷徨えり東京砂漠に住む吾もまた
川の面に洗い出したる大根のしずくきらめく秋の夕暮れ
駅前の商店街はいつの日かさびれて露地に風吹き抜くる
捨てること出来ず片付け滞る幼きころの絵画数枚
故もなく心重たく疲れたり今日の終わりにメガネを外す
見え透いた嘘をつきつつ生きる日々誠意はあるか誇りはあるか
吾が夢を語る友なく一人ただ牛丼かきこみ店をあとにす
意地っぱり素直になれぬ親の前「見合いせよ」との声を無視して
恋をする回路が壊れ幾年も復旧させず「そのままでよし」
眠るだけそれが出来ずに悩みをり犬の寝顔をじっと見つめる
濁り無き澄んだ犬の眼見通せり吾の孤独の深きなること
自殺とは涅槃の最期欲捨てて来世に堕ちる甘き業なの
「いつ死のう」答えなき問い空に消え枯れし涙は今日も応えず
一過性人身事故は他人事舌打ちされる命の尊さ
籠揺れる色んなものを抱きながら 時には命ひきずりながら
泣かないで精一杯に微笑んで生き急がずに吾は死にたい




大沼貴英
   大学最後の夏休みに寄せるうた十三首
起き抜けのラブホの部屋のカラオケで歌う自分の下手なこと下手なこと
俺はキス君はちゅーという認識が違っていたんだね甘かったね
二十二の命からがら誕生日どこへ行ったか知れぬ性欲
からだからだ愛せ愛せよ傷つけることしかできないどの道だから
窓枠をゴールポストに見立てては見はるかす過去のベランダから
ふるさとの訛なつかし駿河湾地震を指して「いーかん揺れた」
「驚ぇて卓袱台に潜っただけぇが、頭だけしかへぇらなかったや」
裏庭に灯籠の倒れたるを見て女系家族の男の肩身
就職を間近に控えた金曜日わりとマジ「あと二日の命」
世捨て人でもワーカホリックでも何でも。我らサーカス一座なり
右手をあげて左手をあげて万歳のかたちになりぬ死んでしまいぬ\(^o^)/
両手あげプロペラのごと回りつつ先輩「おまえ歯車になるのか」
「仕事は恋人」とか言ってるけど実際そうだけど、なぜ、いま恋なんか
  金木犀の季節に寄せるうた五首
知らぬ間に俺たち誰に負けたんだ? のぶれすおぶりじゅ五百万くれ
木犀の馥郁たるを聴きながら大宅壮一文庫への道
「この匂い、でんぷんのりに似てるね」「え?」平成生まれには通じぬか
「忘れ物ない?」って訊いたのに忘れた君の髪どめゴムの色気なさ
ラーメン屋のカウンターの隅に置かれた髪どめゴムの重なりつやめき
  恋愛の「でも」に寄せるうた七首
君からの一通目がきたら明日は俺から送っていい免罪符
「恋愛て変な字だよねでも読者(ひと)の目を引くんだよ」編集会議 
昨年のイヴに当時の恋人と行った銭湯が理想体重 
どうせ湯は別々なんだし独りでも今年も行ってみようか銭湯 
アイポッド爆音で聴くと時々ねステレオがウザくなる時々ね 
草食系男子が好きと言う君は森ガールゆえ去勢された僕 
昨年のスキニー履いたら履けちゃってまだいけるでも去勢された僕
   誰かがマスクの裏で落とした言葉に寄せるうた三首
花も実もしょうもないヒマ耳年増ひねもすはねトビひもねすハモネプ
呟く。インターネットはさまざまな可能性を言い訳にして。
冬物は柄があるけど絵はないと主張してみるセンスもないのに
  ゆりかもめに寄せるうた四首求めたら頬をすり寄せ何もせず夜が明けていく基礎知識とす
ゆりかもめ/妙に姿勢の良いサボり/ビルに移り気/空中散歩
リクルートスイーツ君とゆりかもめ夢を語ったっけなあ螺旋で
エクレアのなつかしい歌詞おもいだし、メルシー僕。メルシー雨。
  愛のかたち、あるいは撥音の正しい使いかたに寄せるうた四首 
エイズの日タダより高いゴムはなくセーフセックスレスはなおセーフ 
君の手で髪を撫でられる一瞬が不連続する微睡みのなか 
海外ですごいPK止めたって日本人選手の後頭部 
モーラ数 句の終わりの「ん」 はみ出した「ん」 前者は1で 後者ははんぶん
   卒業に寄せるうた四首 
日曜の夜にシュガーベイブを聴いて泣くなら感傷ごと愛せよ俺 
赤いカルボナーラとミルフィーユ。この相性も信じなきゃ嘘だよ。 
夏なんです。秋なんです。冬なんです。卒業なんです。春なんです。 
文学部四年が小学国語を教え「一番つまんないのが答え」




北寺瀬一
始めまして 季節外れの転校生です 残り短いですがよろしく
我先に 群がるクラスメイトの山の 隙間に見えたメタルフレーム
まさか君が 眼鏡でハイジャン?陸上部なんて 見下ろす放課後の教室ひとり
ごめん男とか女とかそういうの抜きにしたって きもちわるい
「かわいいと好きをごっちゃにしちゃダメですよ、先輩」そうかお前は
彼の言う「優しくしないで」は理解不能。無理矢理奪えば違うと言うし!
蝉の死体見つけて埋める背中に告げる「明日、かえるよ」 ジーツクツクホーシ
カッターシャツ開いた襟ぐり伝う汗項鎖骨肋骨その先
君からは聞きたくなかったそんな告白「明日の学祭までに俺は忘れる」
後悔は今更だって身に染みる十月の夜は思いの外冷える
火曜五限倫理のテーマは「愛について」ねぇ先生なら答えくれるの?
屋上給水タンクの影に隠されたい君と誰かが永遠の十七才
暗闇を好いことに生まれては消えるシートの間に白色矮星
隣席の灯初心な君には眩し過ぎ瞑る目澄んだ耳に
天声天上の彼の人が説く夏物語いけない逢瀬とミルキーウヱイ
教卓の真ん前の席で爆睡できる君の諸々うらやましいです
校長の「えー」の回数数えてる彼は今年で十九のウワサ
先生のイスで待たされ十五分底冷えのする理科準備室
並び立つ爪先の色が違うので先輩はやっぱり先輩ですね
「放課後、指導室へ来なさい」なんて期待するなという方がムリ!
F鳴らぬギター背負って音楽室へ(君はもうすぐ運命に出会う)
駅前でブレザー二枚押し込んで駆け抜ける真冬のシモキタ
レジメンタル元は規律を取るためのそれをゆるめて笑う三月
屋上のフェンスの向こうで踏み出す青 春終わらせぬための選択
ギターより君から借りたニルヴァーナ ケースのヒビ割れ撫でる指先
「俺ギター弾くからお前、アレ買えよ」僕がベースを始めた理由
柑橘の色と香りが通過した中央線と踊る黒髪
ブレザーじゃ第二ボタンに意味はなく、こころに近いなにか下さい
   (詩と反歌)
終わりに向かってさまよう船の中で
薄い酸素が見せたスローモーションの物語も
そろそろ燃え尽きようとしているのに
こんな穏やかな気持ちで小さな窓の外を眺めている


いつ訪れるとも知れぬ断罪の時を待つ中で
「真実が常に僕にとって正しいとは限らない」
と言う君が
昔旅したという遠い星の
砂漠にある澄んだ泉の話を
もう何度も思い出したことだろうか


『その泉では、コブを湧水で満たしたラクダと
嘴の折れたハゲタカが暮らしていました。
先に死んだのはラクダです。さて彼らは幸せだったでしょうか?』
こんな謎かけで一体何を伝えたかったのか
答えをひとつ生むたびに君に近づけるような気がしていたけど
ありもしない希望を求めることにも飽きてしまった
どこまでも尽きることのないはずだったエンジンの
断末魔みたいな揺れに身を委ねているうち
遠退く


モノローグのない物語は最終章へ光の速さで駆け抜けてゆく


*


蒸気で白く煙ったバスルーム
曇った鏡に写る悲しい顔の君何かを言おうとしたところを
シャワーを向けて消したら
残像と自分の姿が重なって流されて
何も残らなかった


眠れない夜の
逃げ場のない密室で
僕を苦しめる鏡像
どこで間違ったかももう思い出せない


頬を温い水が伝って
排水口へ絡めとられていく
湿った空気で
やっと呼吸ができる
君をなくした夜の乾いた風を
忘れて僕は
訪れるはずのない朝を迎えるだろう


誰もいないはずの深夜のバスルーム家主はバイクの二ケツで死んだ




クロ
だれもいない私の人生生きた人できるできないやるのは私
声を聞き気づく事実に息をのみ追ってみるけどわずかに及ばず
出るものは音水空気感じるは浮かぶ宇宙と1人の不在
りんかくをつかめていると思いこみ手がとけこんで初めて気づく
かくせない考え思い知ればこそわかっていたのに動かなかった
最後にはにおいが残る犬を見て思い出したはあの人の香




炬燵
どれくらい混ぜればひとつになれるのか自問に自答のホテルロビーで
がんばって素敵な呪文をとなえようとバレバレなのがさかさまな魔法
ああキミはキミのライフスタイルばっかりじゃない? もっと楽しめるパーフェクトミュージック
思い出に迷わないでポップコーンチョイスです 過去が変わっちゃう年ごろなので
会うときだけでいいじゃないって迂闊からフレグランスも準備不足ね
この恋は終わったってときの大掃除ブログに書いてた君をからかう
理想との差まで愛せるところからスタートしててスピードゆるめ
テクノロジーぼくらのさみしさテクノロジーうめてくれるのふさいでくれるの
プログラムの愛に「それでも愛する」がプラスされてもなにがたりない
タイミング次第でかみあう四次元の2ピースだけのパズルの名前
愛とよりよい生き方をぼくたちに伝えて愛するシニアワールド
ワークライフきりとっているパートタイムぼくたちがいて
きみたちがいるきみに恋しているときのスタイルが笑えるいまのコーヒータイム
少し無理してやる気ふるい起こしたら知らない人とランチしましょう




SAI
小さいなそんな自分でいいからさ言ってごらんよ「えいままよって」
燃え尽きた灰をそっとねかき集め灯を灯すからもう一度だけ
天と地を貫いて立つ大樹のように育てよ若木強く優しく
人知れず小高い丘の上に立つ若木はそっと風に憧れ
根を下ろしここに在るからできることふらつきながらももう逃げないと
さあ終わりさあ始まりさ何度でも永遠のうた永遠のうた
堅い殻種春宿すノックの音闇は光を隠せはしない
分かってる弱さだってね分かってるでも分かってる強さだってね分かってるんだ 
見てごらんもっと周りを今ここにまだ見ぬ一歩は窓の外眠る
悲しみを飼いならしたものたちは今ここに立つここに今立つ
悲しみよやっと逢えたね悲しみよ私はずっと待っていたんだ
愛はただ人の心を満たすだけ溢れるだけの清らかな水
死にたいと思うあなたの本当は生きたいんだと他の誰より
いいんだよ弱さは弱さのままでいてそれがあなたの花になるから
弱いから大切なものに気付くんだたった一つのいのちの果てに
まっすぐだだから挫けもするだろうでも開いてこう今のまんまで
不完全それがスタートいつだって永遠の歌探しに行こうよ
ビーイング支え合って生きてきたまなざしたちは見守り続ける
ありがとう出会ってくれたもの総て道に咲く花ともに生きよう




佐橋亘
今春に挙式する兄祝福す ポツリと我に「仮テンツモった…」 
メーテルが理想の女と言っていた 彼の背中は小さく見える
式あげる ただそれだけで300万 既に自分もマリッジブルー
酔い潰れ 病院起床でカテーテル そんな愚兄が家庭持つとは
葬式と結婚式の相違点 曰く「当事者の生き死にだけ」と
痣らしき 常は永久にぞ 右為の志士 寝ず見失しつる 冷めた抜き樺
(編者註~「アザラシ・キツネ・ハト・ワニ・ゾウ・イノシシ・ネズミ・ウシ・ツル・サメ・タヌキ・カバ」と読み得る)


時間
時ここに来てあらわに短く奪われたか長くも感じず流れ尽きてたゆたう
小松菜の根が重ねるように力強く寒さが地から這い上がる喜びと呼ぶか皮肉を感じて
ブロッコリー日に日に大きくなるのは冬かそれと同時に身体も浮くようになる
赤々と鮮やかな色に眼が冴えるずしりと重いトマトの色気よ
毎日が繰り返すように立ち去りて今日と昨日と明後日が漂いながれる
地に逆らうよう身体はずませ時の経過をおもんばからず前にだけ進めといった
夜更けて継続的に実をかじる指が求める怠惰に任せて
水を含む身体が洗われるが如く舞い上がりて中空へ放つ 
何もせず何も成されず辿り着いたは魚屋の面影吊るされた籠が気になる
目立つばかりを考えて朱色と銅像うなぎが二匹、只濃いだけでいいのか
葉がずしりと重くざわめく口にすると甘さ膨らむ緑の青さに吸い込まれゆく
雑草のような姿この黄色い花の少しの動物性をふくんで春になると際立つ
主として秀でるのではなく一つとして息ささやくそれとして意味深長となる
奇跡のカビかなにかの菌が形をふくんで形状と化すその歯ごたえは確かに
記憶は果てることなく回転すあるがままの姿はどこへ飛ぶのか
ふんわりとした甘さかそれとも繊維の密かすでにこの骨は知るのか
赤い鱗が綺麗にならぶ寒さに凍えてあざやかに光る昔のままでそこにいるのか
はちきれるほどの白さのなかに味噌がひそむ体の実は遥かにそれをこえる
三種類のそれぞれがほど良く合わさった皿にならぶと華やかなまで彩る
言葉はそこになくて音だけが箸を交じわす、わずかなわさびの香りがする 
茶の照りかかったその形の動きのない空とともに噛むと、現れるのは青
歩く足がそれぞれに進み、それぞれを進む、知らぬ所へとわからぬ時へ
同じように見える一つが束になって現れると、勢いをまして近づいてくる
虹が通りすぎたように揃えて三列となって眩しく、たんぽぽの花そこに咲くのか
下にいるのか上にいるのか、北から来たのか生きてるままに閉ざされた場所へは帰らず
部は想像をこえ全は見えず、そのままを見てそれとするのか遥かをのぞくか、足の形は現れるのか
同じように見える一つが大きくなって現れると、恐ろしいほどの物になる
包丁の音、冬の音、水の音、ざるの音、ビニールの音、葱の音、軽快な音、味の音
土のなか、足跡だけが増えていく、数が増すほど目がよろこぶ
真っ赤な鳥居を見あげると遠くに鳥の姿があった、見透かされたような気持ちになった
走っているようなオレンジ色が深い緑と色合いに見ている人を驚かす、夕方だった




澁谷美香
つくるだけ なれはしないと知ってるよ、カレーライスのようなひと
大学なんて行かないで叶わない夢追っている 君のほうがすごいよ
すてちゃえよ、童貞なんか 誰か言ってやってください
惚れたゼアンタのキューティクル!一緒にパフューム踊らないかい
ソーシキで死んだアイツが弾くギター ・・・死んだフリでしょ・・・?
黒人さんは笑いながら怒ります。つぶらなつぶらな瞳の奥で
23の夜に眠って25に起きるの、なんてナイスなアイデア!




シュクレ
「ほら ぴったり。あたしたち いっこだ。」 嘘ばっかり。ごめんね 私、君をだましてる。
通過する「特別快速 地獄行き」 乗らずに済んだ 武蔵小金井
強引にくちびる奪うウルトラCやっぱり君は魔法使いだ
「ここはどこ? あしたはどっち? 見えないの」「渋谷区松濤、世界の果てさ。」
インディゴに染まる葉月の空の下ジョッキの中は黄金世界
わかってる。きっとあなたはサイコパス。瞳がガラスで。映してあたしを
小雨降るトビリシ国際空港でトランジットの未だ見ぬ君よ




鈴木有
図書館を出たらすんげえ台風で石焼きビビンバ食べに行くのだ
小野小町で浮かべるものはなんですか ぼくは「遣唐使」と答えけり
小・中・高と授業のときに立方体ばかり書いてたノートのすみに




爆裂カレーライス
じゅぎょうちゅうせんせいにさされドストエフスキー流暢に言えなかったよ
電鉄の中で開いた携帯の首がぽろんと落ちてしもうた
「市川 という名字の人間は人を引っ張る力があるぜ」
朝食べるおぼんのなかで揺れていたネギをめがけてみそしるすする
二次会をどこでやるのかわからなくなってわたしは船にのってる




ほたるいか
台風の過ぎ去るのを待ち 麦茶から ミルクティでも沸かしての飲もうか
口紅も マスカラさえも 面倒だ 女の特権 面倒くさいだけ
キャラバンの らくだのような人生だ 休みたくても 荷物は重い
ぬくくって 満腹だって  さみしいの ぱんをほおばる ほほにも涙
クマの顔 鞄につけて 笑い合う 女子高生を 遠い目で見た
どうしてよ 死人に口なし 泣き言を おねえの墓前で 吐き出す自分
束縛と いう名の 入口結婚に あこがれ夢見る 一人の女
パリのカフェ シトロン水で 長居して フランスの風 髪をなびかす
見つからぬ 青い鳥を探すのも 気づけば幻 25の秋




マツクラ
釘を打ち続ける間脳内で君に釘付けなんてループさせ
座布団を腕に巻き付け枕です 王子の昼は昼寝で過ぎて
君の詠む君ってどこのクソヤロウ。僕の知らないコブ付きベイビー
ゴキちゃんを殺す道具はクイックルワイパーがベストと我開眼す
マッサージでいつも治らぬ肩痛を爆乳だからとおどけてみせ
水筒のお茶の代わりのお湯割りのアルコールが刺す目鼻の痛み
印籠を開始5分で出したなら残り時間でどーする黄門
隣から不良少女の声がする 雨粒程の声をしぼりて
どっかの部屋の水の音 垂直に落ちるエレベーター状の悲しみ
オレンジのバンダナ巻くとダサいけど蕎麦屋娘を蕎麦屋たらしめ
うつむくと泣いてるように見えるのを確かめもせず見つめてる




叉旅猫目
夏に日に置き去りにされたハブラシのふと見るとまるでひまわりのような
「いっせーの」二人で乗った方舟にあるのはカラータイマーみたいな永遠
12360402あなたがくれたまばたきの数
電気式ギターを初めて弾いたときから毛穴が息を息をしている
けどそれが?教室は今日も戦争ごっこわたしは見えない銃を手にして
酩酊しふと見る鏡の中の吾列車待つ家出少女の如き
男の子女の子たちただ外に出よ街は今××だから
怪獣のルーティンワークは食べること飲むこと寝ること涙すること
ℓのキッコーマンがぼくたちの間で揺れる日曜の午後
真夜中のスタッカートが合図八分音符は街を駆け抜け
ぼくたちは白いページを黒くするために生まれたわけじゃないもの




マナ子
年老いた女というわけでいじめられる会社の中の憎悪と白髪
「頭おかしいよな」男二人の陰口は喉をえがらせ足でにじって
透風に金木犀の甘香乗る花房探して振り仰ぐと空
蜜柑あげは蝶幼虫緑やわさに並ぶ棘があやうい
夏トカゲゴキブリわたしムカデクモ皆雄がおりまぐわう四畳
我知らずウッチャンナンチャン好きな友をセンスの無い奴と見下してゐる
「電車の中では話しかけないで」制服少女と「はいはい」と母
痛いのか憎いか辛いか悲しいか七十回目の死を死ぬ勇者
暇潰し流れて生きれば幾年か(早く人間になりたい!!)
ほの暗き臭気冷気のみ覚えおり休み時間の便所太宰の
                      (小説の内容は忘れました)
おかあさん父祖母弟友あなた 喜ばせたし傷つけたくなし
くたびれて愛する人の多きことに 夜道呟く「誰がわかるものか」
ちぢこまる幼虫がいる冬の流し 湯気をそちらに扇いであげよう
網戸なし暖冷房なし風呂もなし“貧乏ごっこ”のつもりで住めばよし
野良猫とお好み焼きパンわけて食べ また明日も会えたらいいね
雨の夜は窓を開け寝る雨の音溺れる夢を見られるだろか
誘惑が色とりどりの図書館で今日出会ったはイッパイアッテナ
                         (そういう名前の絵本のキャラクターです)
五股かよ!変わらずクズだねと笑えたり 別れてよかった元彼今友
                                  (むしろ仲良く)
カメレオンカツヲノエボシカナダガンくちに出したいカツヲブシムシ
                      (「ぶしむし」とか言いたいだけです)
新しい病名もらって強気なるいたわれいたわれ鬱病様だぞ
深夜二時、電話の向うで友が泣き半ば眠りつ相槌未練
名も知らぬ遠くの人が囁いている明けない夜を切り刻めツイート
           (webサービス「twitter」で発言することをツイートと言います)
姫林檎赤みを帯びて日に日にと我の届かぬ枝先に揺れ
起こしても夜中甘えてもうんざりとした顔見せるだけ猫の忍耐
鶏肉を切り分ける時ほど指先がかじかむ時は無いと思うの
カミソリは安全でない方がいい氷雨の夜にわたし眉剃る
はためいた瑠璃色砂絵もとうに散り運ばれていく冬の蝶の死
口笛の反響が痛い耳の奥 青春ドラマじゃあるまいしねぇ
凹凸が抱きあう二人の邪魔をする これが今夜のテイク・ファイブ
      (凹凸は「おうとつ」と「でこぼこ」とどっちがいいでしょうね。決めかねます)洋梨と五歳の君の「なーんだ?」優しいものとは答えは“ぼく”
紅玉の酸いも甘いも噛みわけて蜜は凍らぬ0°の朝も
闇の奥 星かと思えば手が届く おや、寝ていた やがて19時
桃色のくちびる左右吊りあげて香水瓶が乙女の形してる
逆光を背負った人が一人来る 似てはいるが待ち人と違う
さっきまで確かに覚えていた夢がもう気配もない白湯の冷める頃
早咲きの梅はめじろに啄ばまれ まだまだ咲くよまだ咲くよう
朝になる 喉がまたひび割れてゐる うすい粥をばのまねばならぬ
あたしのがずっとあいしてるんだからやさしくしなさいのぶれすおぶりじゅ
あの雲は竜のかたちと言う子供「今はカモメを食べているところ」
さみしさが溢れ過ぎててびしょ濡れで雫を撒き散らしてごめんね
春になってカメラもってお花畑へ駆けつけよ我が安直!
オレンジと白と黄色とやがて黒 溶ろけるチーズが餅の上
金色の光まっすぐ目を刺したネオン韻踏む学生ローン
出かけよう湿った髪もそのままで風が吹くのでもう帰らない




マルディ
骨壷に愛おしい骨溢れ出てトントンされておかしくもなり
可憐なる味トマトカレー興に乗ってモロヘイヤ入れおどろおどろし
このカフェは9:00amを過ぎるともうだめなの園ママたちが占拠するから
股ぐらに足下の犬来て丸まれば朝も来たこと思い出す朝
妊娠すカヒミカリィの憧れの華奢な身体が拡がっている
今宵またホロスコープに身投げして手繰る運命前世とか天職とか
数独を日がな一日窓辺にて解きたる君は鬱の最中に
三越のラデュレ窓際通されて眼下往く人/フレンチトースト
悪くなってカメラ重くて嫌になるよ“岸部四郎はウドンが重い”
来る来ない来る来ない来る今日は来ぬ、恋人は野良、来る来ない来る、
車窓映る酔狂の吾どうしても撮りたい首だケータイを出す
アスファルト埋まるオレンジの粒を見る 俯いている自分に気づく
カミーユが得意気に聞く教室で愛人の名は?「Elle s'appelle Camille(エルサペルカミーユ)」
美しき「受胎告知」が現前し 名前を、と男はつぶやいた
おめでとう、自分の声が耳に入って 受胎はやはり祝福と知る
哲人の墓地巡り楽し秋の夜『哲学者たちの死に方』今日はニーチェ
ベランダにのびるその枝百日紅(さるすべり)哀れくすんだ花を残して
示された番地丸めてそのままの冬のコートを奥よりいだす
カンパーニュ・プルミエール通りうろつけばフジタ?マン・レイ?住みびとが問う
どのようにここに居たのか我がきみの代替にする堀江敏幸
抱えた本に胸痛くなる箇所あって気付けば部屋に闇が来ており
ひらひらと舞い散る木の葉記憶にも言葉にもなり吾を惑わす
“『腕(ブラ)一本』1月2日の初夢”に吸われた午後の手写して遊ぶ
           (藤田嗣治『腕一本・巴里の横顔』講談社文芸文庫、2005年、246p)Rのためにきみが喉鳴らすたびに齧りたくなるそこの林檎を
人知れず太宰の墓にくちづける乙女のすがた茉莉が見ている
熱帯びるポケットの中握る鍵(キー)集約される今日の出来事
ただきみに五感捧げて果つ日々はまひるまにみるゆめに似ている
結婚の終始綯い交ぜ神無月黒紅白のお式があった
夕方は家庭の匂い嫌だわと言うお姉さまの手がきれい
駅前の書店2階のレジ裏にひっそりと在る“ニャンとかしよう会”
“バイアグラ”アーユルヴェーダの老医師の机の横にマグネット有り
冷蔵庫で干からびている切り抜きをつい諳んじる「自動エレベーターの…」
枝離れ土に転がるかりんの実 終の住処を定めるごとく
どうかしら?さしだす手の甲一瞬で愛の現場にかわるキッチン
さかしま。水たまりも杏ジャムも鏡になった水曜の午後
秋色がひかりのなかで燃えている もうじききみの記念日がくる
たちはそわそわしてるよその晩になにを飲もうかどう騒ごうか(きみとね)
開けるまえから香しい、セザンヌの林檎たちより…、重いダンボール
名前たち、こんなとこにも付いてたの。修繕屋さんの靴クリーム瓶
ちょっとプルーストに訊いてくる!駆け込んだオスマン通りはただただ黒い
リースないままクリスマス来ちゃうね笑う玄関の清清しさ
週末を迎えるために金曜の雨がしっとり街を緩める
グラビアで中谷美紀が眠ってる夜請け負うと言わんばかりの
思い出すことも忘れることもせずただきみ想う感情教育
息抜きの『正弦曲線』その紙に昇る朝陽で文字は揺らめく
わが胸ときみの腿にあるという傷の交歓いつの日か来る
クリスマス冥界からの電話待つあの娘が歌う主は来ませり
零れ落ちるピアノみたい 鳥たちが離れていった空の五線譜
ヘンリーが、~の、~は、アナイスの日記を満たすヘンリー・ミラー 恋っぽい熱で
なに求めなに恐れて我をただすの?きみ年若いヘンリー・ミラーね
なにひとつ望まぬ私のその横で日々立ち上がり消えていくもの
その線に従うように分解す鏡開きの日の空は透明
僕だって頑張ってると叫んでる黒南天の下でするキス
ポーズ(pose/pause)とる「苦しい時こそ深い呼吸」ヨガの教えをくり返す朝
人生は予兆、予兆に満ちている だから、いつも明日までは待って
2杯目のアルコール廻るときみたい我が身貫くきみのその声
隣りからサクランボ来た桜桃忌揺らし眺めつ回診を待つ(2009年6月の入院日記より)
すべてのきみ「きみしにたもうことなかれ」音は違えど私も晶子
きみ宿りわが教会に光射し 恋と信仰、学問を得る(2009年12月の日記より)




耳野
   連作・アンダー・ザ・レッドライト
札二枚忍ばせ浮き足覚束ず向くは赤き灯照らす異番地
箔入りし朱塗りの箸もペン軸も暗燈下では濡羽烏なり
暗橙の灯下で煙草更かしたるあの子もその子も影は歪物
彩声に囃され捻り出す万札見栄切る我の擦り切れ財布
赤燈の許に握りし白柔きその手に黒き血透けて見えたり
二十二の赤貧の描く愛などは薄紅桜と老人が云う
歪影に追われつ赤燈商店街逃亡疾走走馬灯のごと


うつくしき魑魅の棲む赤燈商店街
硬貨ひとつをひしと握りて
ぼくはウットリと青冷めていた
凛と鳴る冬の夜だった


田子ノ浦臨む工業地帯にて伸びゆきしぼくの灰色気管
我が咽に白熱光の迸り 嗚呼、グシャリ歪みし紅白煙突
竪堀駅高架下二時のササメキは白柔き脚より垂るる透液
月見草ひとつポッケに突き刺して機械めく宵の本栖湖を往く
灰色の硝子管を舌裏よりソッと突き刺す我が夜癖なり
東海道線降りて雪染む富士を背に我が胸にも貼る遺失物番号


    別訳・幸福概論
靴屋とは哀しき生業なりと云い木型研きし口は薄笑
靴屋より誂え靴を貰い来て二、三歩の挨拶我が浮舟よ
覚束ぬ我が足向きに苦笑せし君との喫茶でツイ脚を組む
右足の片側減った革靴で三日月灯下を滑ってもみるのだ
野分渦き藍染む夜更けは軽薄に滑空せよ我が脚我が背徳よ
綻びし革靴治しに来た我と廻り唄歌う靴屋の横顔
宙を舞う羊革のうつくし残像よ哀し幸福は確かに在りし
誕生日靴屋へ連れ立ちぼくと君ステキをひとつ誂えお呉れと


休日の午後 嗚呼、あの日のようだと
ぼくは思いつ きみを迎えに
靴はまわる 生き死にまわる
例い廻っても 君と居たらば 
ぼくは概ね 幸せ、なのだ


シベリヤを思わす耳帽顔埋め物思う東京はすべて吹雪く先
身にメスを入るる極寒哀惜にロマンチッカの焼き印捺して
紺制服纏う少年行進曲蜜脚でパチパチ空気を鳴らし
細密製巨大電波塔その許に磔刑となりし無数の冬よ
白昼の残響は音無閑々と幾ツ頃よりうつくしがらずや
臓物の黒陰は夜長のシリンダー目盛り浮く度疼き啼くなり
袖口より血と宝石とを滴らせ嗚呼我が瞼の少年仮面
白ケ空刺して聳ゆる新宿の伊勢丹は屈式ローマンス堂
蛍光三角二重にぶれて六芒星DJファウストの夜は輪廻し
白熱光のごとく枝垂れよ冬蜃気紅白煙突銜えるきみへ
靑印を捺した薬紙の幾重にも折られ縮れしノスタルジヤに、
詰襟を緩めし隣の襟足が我が心軸へと鉄杭討ちて
年毎にきみよ我が骨中埋むとも洞傷からは塵雪ばかり
天吊らる少年屍体と為りて猶我がキリストはいなかのじけん
密蔦に埋もれた喫茶の窓席でトロイカ鳴りし昔を知れり
今は亡き地下店でペン執る亡霊を訪ぬぼくもまた透明探偵
細工窓透かし視る黒きトレンチを纏いし彼の珈琲製血管
ダッフルの裾より伸びし白脚で駆くるきみに痴る午后の終わりを
薄氷色春一番を蹂躙し猫背少年の行列は往く
制服に拙ぬ唄声の横顔を仰ぐほど尊き我が情念よ
橙の窓辺より白き雪道と急くひと観て生きる今日は浮世絵
一瞬のセンタースポット浴びし後配送されしぼくは貸付屍体
緞帳色の泪だけ覆う仮面して肉曝すぼくらは青毒症だつた
声持たず食事せずとも息づいた乳肌のきみは創世主もどき
藍空に浮かぶ星採りては飴玉のよに呉れるきみよ成らなくていい




六等星
学校の感想文には載せられない彼女の尖った感性が好き
屋上に一番近い階段でスカートがあばくスカートの秘密
白髪もハゲも出っ歯も既婚者も校舎の中では花泥棒なの
放課後の渡り廊下に細長くスタッカートの異端の聖歌が
先生の気持ち悪さを笑う時、分け隔てなく皆豊かな少女
えっちゃんが日誌に引いた蛍光ペン今日の保体はセックスでした
英語科の二年のバド部のジャーマネがバド部の主将とデキてる速報
英語科のバド部の主将の本命はカナダに留学している続報
ソプラノのCからDが狂うのは朝練に来ない田村の所為でしょ
プリントを折る指の幹がまるで違う先生とずっと地図を折ってた
貝の端みたいな爪がチカチカと光ればあなたも不良のようです
先生が好きなあの子が昨夜未明、塾の男子と、ざわざわしました
シーユーと発音するK先生が勧める語学テキストのプリント
スカートの襞が散らばる春だから陰口もまるで木々のさわめき 
足音であなたが判ったあの子も主婦に、こめかみがきつく鳴るのね先生




くれむつ和歌集・続(2009年秋冬) 終

2010年2月26日金曜日

くれむつ和歌集(2009年春夏)

 二〇〇九年四月から七月、早稲田大学第二文学部表現芸術系演習三十四の参加者たちは、ネット短歌会KUREMUTU CLUB(http://kuremutu.blogspot.com/)に作品投稿を続けた。初めて作歌に手を染めた人たちばかりにもかかわらず、作品は六〇〇首を上まわり、質的に高度なものも多く、斬新な挑戦も少なくなかった。大学の演習での実作としては慶賀すべき稀な事態であったといってよい。詩歌の道は経済的繁栄に遠く、地味で報われることも少ないものだが、これらの歌の数々に明らかな才能の可能性を示し得た人たちは、今後の生の中でも、ぜひ詩歌にかかわり続けていってもらいたい。今回の成果を記念し、歌を作者別に並べ直し、全作品をここに集成する。配列は作者名によるあいうえお順とした。
 なお、著作権は個々の作者たちに存する。著作権に関わる事務は制作者・駿河昌樹が担当する。


二〇一〇年二月二十六日                          
編者   藤原夏家
制作    駿河昌樹



くれむつ和歌集





目を閉じて ゆりかごの中 夢の中 遠い空に 記憶はかえる
真夜中に 冷蔵庫の中 オレンジ一つ みずみずしい夢 切ってみる
スカートに落ちた りんご飴 広がり染まる 私の恋は 嘘みたいな赤
もうダメと つぶやき鏡に 泣いてみる マスカラパンダ目 悲劇のヒロイン




岩田壮一郎
笑ってと約束交わした日暮里駅一人涙するスカイライナー
困窮し働く時間もありゃしない啄木のような生活つらし
二本ある歯ブラシ一本捨てました心は軽いがならない電話
目覚ましを増やし続けて三個目だそろそろ鶏飼っちゃおうかな
香水を久々に見たら空っぽだドライつけっぱゴメンね環境
苔球も一日半でカピカピだドライつけっぱゴメンねおもいで
単位無い金もないし友もないこんなはずじゃぁなかった大学
悲壮感漂い始める残高照会売るもの探す何も無い部屋
シャンプーを詰め替え気付く月日の経過昨日七夕だったらしいね
テレビがねえ新聞とってねニュースしらねえ勧誘電話で知った解散
ペアリング鈍くなるその輝きに反比例する二人の時間
今起きた寝る前に届く超えられえぬ時差地球は狭くなってるのかな
知らぬ間に切れたミサンガベットの下何かいいことおこったっけか




臼井慶太
アスファルト湿った匂い雨の兆し今年もゲリラひそんでいる
丸氷回していくと融けてゆく悩みも解ければと望んでみる
酩酊し傾いた首傾奇者日本経済傾いている
政治家の私利私欲で動かすな高い税金払っているのに
戦国の武将のようなカリスマが今となっては草食男児
大学は授業料と単位を交換する場所なのです
次こそは決めてやるぞと頭の中BGMは威風堂々
携帯にwasedaにグーグルに実は私も住所不定?
雨、突然フォルテッシモ指揮者の狂ってしまったオーケストラ
乱高下不安と期待終わりの無い崩れかけのジェットコースター
パソコンは難解複雑でも実際0と1の集合体
(以下は作者が完成を自認していないもの)気になって 無心になれず 寝れぬ日々 もう一週 まだ一週
後悔を する度思う あの頃に 遊び過ぎてた つけがきたのか
G1の ファンファーレ 新緑に 儀式のようだ 馬に託す夢
なぜだろう スーツを着ると 雨が降る 嫌な予感を 何度も感じた
あと一杯 飲んだら帰る と言いながら もう一杯飲んで 気分良くなる
ブレーキを かけずに進んだ 今までの 勢いはどこに 行ったのだろう
年数を 重ねるごとに 愛着が わいてきたかな 
6年目六年間 通った校舎 取り壊し 村上春樹も 学んでいたのに
夕焼けで 赤く染まった 岩肌は 脳裏に焼きつく 美しき絶景
政治家の 私利私欲で 動かすな 高い税金 払っているのに
雨上がり 一服外に 出てみたら 蚊にさされた 今年もきたな
経済を 動かす者の 私利私欲 あまりに醜く 笑えてくるわ
突然の ゲリラ豪雨 吹きつける ビニール傘 また壊れた
パソコンは 難解複雑 でも実際 0と1の 集合体
弾く玉 回るデジタル 当たらない やってられるか パチンコなんか
戦国の 武将のような カリスマが 今となっては 草食男児
やってくる 忘れた頃に 今年も来た 住民税 高額過ぎる
大学は 授業料と 単位を 交換する 場所なのです
次こそは 決めてやるぞと 頭の中 BGMは 威風堂々
そびえ立つ 天に向かって 霊峰は 日本古来の 大和魂
針を置く 回るレコード プツプツと レコードプレーヤー アナログはいい
レバレッジ 膨れ上がり 破綻する 同じ過ち なぜ繰り返す
乱高下 不安と期待 終わりの無い 崩れかけの ジェットコースター
携帯に wasedaに グーグルに 実は私も 住所不定?
雨、突然 フォルテッシモ 指揮者の 狂ってしまった オーケストラ
80`s 流れていると 思い出す ギターを始めた 中学生を
もし今、 イエスとアラーが 出会ったら いったい何を するのだろう?


空目(うつめ)
春風に乗せて想いよどこまでも 飛んでしまえと呟いてみた
夢と希望決意に変えてしまうため 話し相手に呼んだの、君を
頭のさ、後ろに目があるのかしらね だって君は振り返らない
強さなど置き忘れたよどこかにさ だからここにいるのはわたし
繋がって溶ければいいと望むけど ずるりと離れて別々になる
左手をそっと開いてみてみれば 君の面影追えるはずかな
引き出しの奥へ奥へと仕舞いこむ 笑顔と思い出忘れた振りだよ
ギシギシと鳴らして歩く散歩道 君との会話つくるスカート
赤茶色、好みの色ではないけれど浮かぶ姿は笑顔の君で
桜花集めて飛ばして集めて飛ばす 恋する気持ちに例えられない
ずるりと離れ繋がり溶けぬ体がふたつ君笑みながら指絡みつく
恋人の愚痴を言い合う口元が緩んでいるのは自覚あります。
匂いたつ春が君とリンクして抱きしめたくてたまらないんだ
目がかすむ年齢のせいかと言う母よ 夜更かしパソコンゲームをやめんか
まんまるに少し足らぬと拗ねる君 膨らむほほを幾望が照らす
酒飲めば心の底の声聞ける出でてくるのは君の名ばかり
図書館で5月の陽だまり集めたようなあなたが私の初恋でした
清楚なる微笑みまるですみれ花つよき乙女は野道に咲くのか
物語食べちゃいたいほど愛してるあなたはそうだ文学少女
好きと言うならば殺したいほど焦がれてよ君は俺のサロメでしょうか
指先にちょこんと触れるそれだけの熱で伝わるみっつめの欲
来年の今日も一緒にいられるように君の手帳に書き込んでおく
好きだから好きなのになぜ好きかしら 言葉遊びか恋の遊びか
「出て行け」と言われないからここにいるそんな惰性が同棲3年
稼ぎありゃ結婚するよと午後のカフェいやそれ初耳だからいやまじで
真っ暗の窓に気がつき息つめる他人の君に似てる気がして
思い出をなぞる写真とゆびわとスカート君が触れた記憶は体に




大沼貴英
    春の嵐に寄せるうた四首
「明日から小学生だよどうするよ?」問うと弟「やるしかないでしょ」
事由欄「一身上の都合にて」と書くとき我の狭さ感じる
電柱になびくブラジャーどピンクに映える空の青、春一番
男三十、独身、趣味はカメラ、残像ばかり追ってきました
    美しい水に寄せるうた五首
「別れよう?」自分で言って泣いている女は勝手、俺は滑稽
別れぎわ借りた君の部屋のトイレそれでも立って用は足せない
閉まる戸に投げつけた傘、骨ひしゃげ 放置して去るとき雨、上がる
いつからか磨き上げられた便器を見るたび携帯で撮っている
別れると途端に君が凝ったこと スープコトコト、深層水で
    戸山公園に寄せるうた五首
フェンスぎわ猫背のアルトサックスに野良猫だけが寄っていく夜
足もとの「きもち」と書いた空き箱に『ビッグイシュー』と煮干しが二匹
カップルはブランコを漕がないのです 風に問う『恋とは何でしょう?(What Is This Thing Called Love?)』
自販機でほんの「きもち」の「BOSS微糖」買って戻ると猫すらいない
遠方の彼女の母にいただいた「カンコーヒ代」三万だった
    深夜特急に寄せるうた四首
色褪せた深夜特急のチケット「使わなかっただ」と祖父の言う
「ずいぶんと洒落た名前で呼ぶだぁね こいつぁただの夜汽車の切符」
あのころの僕には読めもしなかった夜汽車の向かう先の「指宿」
じいさんの夜汽車はついに出ただろか天国行きの切符ともなれ
    円に寄せるうた四首
「受け取ってくれよ」「いやいや」「頼むから」「いいよ」「いいから」そんな間が好き
別れぎわ胸ポケットに突っ込まれ野口英世は笑っていたり
遠方の彼女の母にいただいた「カンコーヒ代」三万でした
くれるのは嬉しいけどね一万と二千円也、明日の食費
    眼鏡の君に寄せるうた六首
箱入りの看板娘、眼鏡屋の眼鏡屋なのに盲目なんて
輪郭をひと撫で、あとは無駄話それで見立ては完璧な君
評判は良いのに当の本人は瓶底眼鏡、ずり落ちている
唯一の趣味はラジオ、ただ聴いているだけで完コピ、歌はプロ級
「どうしたらそんなに上手く歌えるの?」「普通に呼吸するのと同じ」
「産声をあげた昔に戻るだけ、私は筒であなたは水面」
    鉄道の旅に寄せるうた七首
満員の急停車「窓、開けてくれ」叫ぶ親爺に「はめ殺しです」
どの海を荒川線は渡るのか聴きつつ想う、はっぴいえんど
宇都宮‐湘南つなぐ快速が浦和駅前高架上、飛ぶ
朝五時に十八きっぷ切りまして午後五時、黄金の瀬戸内海
土讃線「おおぼけ」「こぼけ」「ごめん」駅、余所者だけが珍しがる名
一両のワンマン運転オーバーラン、のっそり行き来する運転手
左手に時刻表、右手には傷、スケボー抱え舟こぐ少女
    その音楽に寄せるうた七首
明日からボブ・ディランでも目指そうか夢の夢また夢に見た午後
病み上がり雨の日比谷の野音の「や、」すらない残響にしがみついている
噴水の先また先のとどめおく一瞬、夏をきらめきわたる
天高くリバーブかかる風呂屋にて浅黒い小田和正を聴く
二十四時だれの姿もない風呂でこっそり歌う、リバーブかかる
真夜中の路地に紛れてアイポッド爆音で聴く爆音で聴く
突然の三連符わすれてたたた男の不能さらけ出す夜
    あの音楽に寄せるうた七首
朝の駅ふいに和音を知った君アカペラでもおじけず歌えよ
十六分音符の裏の抜け穴に乳首の位置を透かし見る梅雨
俺たちのロックスターが愛を説き顰蹙を買うのもまたロック
冷え性の君が重ねた手の甲のうわべ掠めるポップンポップ
酸欠の渋谷クアトロ耳鳴りという免罪符もちかえる夜
臆病な友の後ろで発射台、モッシュにダイブさす仲直り
濡れ枕ふいに聞こえる弦楽を知ってしまった知ってしまったね
    定型の夜に寄せるうた五首
持ち越してゆく秒針に苛まれ切り刻む言葉の先は曇り
大丈夫だと責め立てるやつがぜんぶ繰り越していってしまった夜
窓のない部屋の壁すなわち痛み、ひとの心を吸って膨らむ
十六夜の月の明かりもご多分にもれず宵越しの気分は晴れ
思い過ごしだったというよ青春はぜんぶ、この夜そのままでいる
    初夏の憂鬱に寄せるうた四首
クールビズじっと見つめていた虫の死なぬのをじっ、と見つめている
ネクタイを緩める音の音飛びし、ああ疲れたと言える言える日
物欲がぐらり頭をもたげてき、そうだ何とか生き延びたい夏
髪を染め一人称を変え好きだった君は消えた、歌声よおこれ
    梅雨どきの恋に寄せるうた六首
降りしきる雨のなか夜の道を行く、あなたは想い出に傘さして
笑わない、けれどあなたはこの僕の諦め早いことを知ってる
濡れそぼる高田馬場にひとり立つ、あなたは想い出だけ手懐けて
恋は気を病むものですとものの本、ちくしょうすべて知っていやがったな
あかあかと燃える証しの灯を抱いてあかぎれた手であかつきを待つ
垢じみた昨日は捨てて明かしてよ、飽かず続いてゆく欲望を
    七夕の熱帯夜に寄せるうた五首
コーヒーを飲むと疲れる、東京に七夕飾りの大放物線
朝四時に寝酒を飲んで七時まで眠って起きて
最終面接最終と知らされてはいなかったけど予感がしたんだ社長がいる
確信が強すぎて思った以上に嬉しないのがちょっと嬉しい
内定を貰って気づく「おめでとう」よりも欲しい言葉「頑張って」
    一度きりの夜に寄せるうた四首
処女ではない君が気にする背の低さ乳輪の小ささこそを愛す 
戦争は遠きにありて思ふもの寝取り寝取られ人生と知る
オーガズムの旅に出たいと言う君の物言わぬ荷物持ちになれたら
男三十、独身、趣味はカメラ、残像ばかり追ってきました




柏の葉 
公園見ないふり きらきらひかる 薬指 どんな女(ひと)かと 思い巡らす
すっぴんを可愛いという君は近視がすすんで盲目ですね。
「じゅーろっこ。顔のほくろを数えてみました。」君嫌がることやりたがる私
ボルビッククリスタルガイザービッテルどれにも負ないじいちゃんちの水
青い筋ボーダー見ていて頭痛したそんな近くに寄ってこないでよ
ぐうの音も出ないと先生言うけれどおなか鳴ります鳴りやむまでは
むくどりのヒナは人をまだ知らなくてわたしはそっと窓をしめた
傘ふたつバスを待っている人がいて大人になってもトトロは来ます
梅の実をつぶしてかぶれた指先もいとしいものの一つならずや
道端のたそがれどきのねこじゃらし車のライトにぼうっと光る
コリアンダを摘んで匂う指先を不思議なもののようにもちいる
白雲が尾を曳きのぼる はじめたることどもなどを思いつつ来て
緑から赤らむまでの数日を黄金(きん)のりんごと呼んで恐れる
「よし」「よし」と運転手は言い 跳ねるように京浜急行緑を抜ける
表札の「江島」がオブジェの題になる気の向くままに樹々の茂れば
ちらっと見てあなたがいるのを確かめて自室に戻りにんまりとする




神澤一葉
他人の目の 張り付いた部屋 足元の 電源コードを 不意に手に取る
文字遊び 業深狂者の 排泄物 褒めよ讃えよ 大家が通る
美し富士の 懐深き 白樺は 何に食われて 腐って行きしか
人轢きて 遅れし列車に 苛立つ君よ 幾刻許すや 我が命なら
鎮痛剤 抗不安剤 睡眠薬 制吐剤 皮質ホルモン剤
アスピリン トリプタノール ハルシオン プレドニゾロン プリンペラン
アスファルト 飛び石 三和土 扇風機 古きラジオの ヤニのにおい
シャンパンに たかった銀バエ 殺したと にっこり振り向く 美しい君
代経れど 理想は同じと 人は歌ふが 毒蛾の一念 蝴蝶は知らず
ふるさとは 君ありてこそ 思ふもの 山河田園 いかでか恋はん
子らの側 躑躅は今も 咲けれども 蜜吸う我は いずくに居るらむ
十字架は 日ごとに重く 自らの 腹食い破りし 蟷螂の死より
温室の 花壇に溢れし 月見草より 葉桜似合ふ 逆さ富士かな
老ひし母の孫を呼ぶたび我が名呼ぶ赤子と変わらず泣くだけの我
夢に病んで魂は荒野を彷徨ひぬ38.9℃の肉塊
夢のごと光の瞳交ぜ交わし陰も知らずに戯れし頃
代掻きも頃合いなりやおだまきの伸びすぎたるに車輪の絡めば
導けと夢に言はれど羊の我も救えぬ君が血はや酸くなりし
   バイクに寄せる三十六首   
   バイクと愉快な仲間たち
女性諸氏今よりもっとモテたくば釣り自衛隊バイクがいいよ
デザインと反比例するルックスよ夜でも外せぬミラーシールド
流行りモノよく知らないけどまず批判乗るとビグスク意外に便利
持つならば全てをなげうつ覚悟はあるかバイク・嫁・核・個人情報
キシャヤスデ轢いて転げる木曾道のライダーハウスの泡つき麦茶
視聴率天気予報は100%飛び出すやつはスリック野郎
薄れいく意識の中ではっきりと我を捕らえる保険の等級
那須/茂原/首都高/周遊/大垂水さらに2ちゃんで煽り煽られ 
雨の日に笑顔溢れる見舞客止めれギプスにタイムを書くな
開けつつも周り気になる排気音シミシワタルミがこうさせるとふ
馬場口で擦ったエヌワン転けかけてた 真っ赤だったろ? あのコケリストかwwww   
    バイク、ライダー、自然
太陽の燃える季節にレプリカの我が懐に炎かかえつ
夏峠君にみとれし10R離るる緑に想い届かず 
紫陽花と濡草香る点描の道 あばずれ単車(おんな)よ機嫌を直せ
奥山にもみじ蹴散らし泣くタイヤ声きく時ぞ秋は悲しき
    ライダーと悪の組織との戦い
望むなら速さ味方に周遊はマスクパンダも趣味入ってる
オレ貧乏あいつ市原彼失業黙って支払うハゲの離婚者
白蠅のばらまく切符は警察署・簡裁経由の市原行き
交差するフルフェイスたちのピースサイン脅威障害オールグリーン   
    単車乗りの孤独
太陽を浴びずに枯れるは嫌だなと鎧の下の写真とお守り
蝉時雨ガソリンスタンド我も給油しばし楽しむ内股の涼
空仰ぐ少年でありし夏は遥か土下座バイクで今日しか見えない
すばらしさ教えたかったあの夏の若木の青さは目に焼き付いて
「嫁もらう」「会社に入る」奥多摩は世捨てオヤジとゆとりのみになり
宗教や芸術なくば生きられぬ人は解るかライダーズ・ハイ
この峠Uターンせず独り往けば行き着けるのに君の住む町
    バイクと命
奥多摩にユメタマ駆りて逝き人の名をも知らねば顔も知らねど
スピードの向こう側とは言い得て妙 不運(ハードラック)とダンスを踊る
ビバンダム天使の輪なきZX-9R(ユメタマ)が逝ったは地獄かまだ二十歳とふ
攻めすぎて人馬は共にオーバーレブ カムな弾けそ死なば諸共
大治郎・ノリックの次を賭けながらふと黙り込む騎上の四人
心地よい疲労感じつ降りようかふと考える朝練のあと
速かった誰もがそう言うGSX(ジスペケ)の義足はそれでもなぜ走るのか
帰り来てシャワーを浴びてベッドに入り震え始めるああ生きている
数多なる憂い憾みもこの美しき天地(あめつち)の元に還ると思へば
神様へ今日を駆け抜くライダーの全てにどうか明日をください  
    アクセルを握った時の歌
池袋醜く群れる歩行者よトラックだったら轢き殺してるとこ
白バイよお前が死ぬたび酒がうまいから飛ばす背中がゾクゾクしちゃうの
原付でNINJA煽ったら転けちゃって高尾病院で反省する朝
原付に煽られ転けて血だらけの君の表情(かお)が忘れられないの
アクセルを握ると人間変わるって?いえいえこれが地なんですよ  
    アクセルを握っていないときの歌
寄りかかる防音壁で背を白くして僕はピアノなんて聞いてなかった
穴だらけの音楽室で背を丸くして君はピアノなんて弾いてなかった
お祈りをしてから走るの?あれはただバイザー下ろしただけだったのか                           
                               *バイザー:フルフェイスヘルメットの透明なシールドの部分。
やわらかにホワイトノイズを奏でる雨に耳塞いだのはいつの日からだろうか
黒板に張り付いた夏草いきれ目を刺す青空掴めぬ空白
火をまとい揚羽は紋様鮮やかに小指の先まで縮んでいった
溢れ出す都会の唸り尾を引いてテールライトがカーブに消える
頑張って良い奴買えよもう疲れたよ次こそ死ぬぞ次こそ死ぬよ
美味しくて安いワインは見つけたが水割りエタノールの充実感がない




岸辺露伴
暁の月の姿は寂しげで田舎の祖母を思い浮かべり
鶯の鳴く声響く早天に安心感を与えられたり
とおり雨からだ通じて心まで洗い流して欲しいと願う
江ノ島の夜明けの海を前にして寄せては返る夏の思い出
マイケルが死んだと聞いて動き出すアイポッドの中、眠るスリラー
政治家を情けないと言い放つ父の姿が滑稽に映る
六月の雨に打たれて黄昏れて君と別れた日々、思い出す
周りから草食男子と言われるがそれでも肉より草が好きです
これでもかと言わんばかりに聳え立つ都庁ビルに憧れ抱く
新宿のネオン街のまぶしさで人の寂しさ隠蔽してる
に慣れた仕草で火を点けるそんな姿を彼は知らない
人生がマラソンのようなものならば何時になるかなランナーズハイ
「ナマケモノは二十時間寝るらしい」「だったらキリンをもっと褒めなきゃ」
ナマケモノが二十時間寝ると聞きホッとしてしまう怠惰な気持ち




北村仁美
小説と現実世界をうろうろといつの間にやら時間旅行
満開の桜を見上げそれよりも美しくおもう 足元を見て
金髪に白い目を刺す電車内 老婆が近づく 彼、立ち上がる
今から帰る、と 突然放つわがままに 出来立てごはんのあたたかさ
三年目これでいいのと言い聞かせ 枯れた涙とウイスキーの味
まっさらな青いお空を底辺に あしぶみをするおおあくびをする
ほろ酔いの赤いほっぺた気分良く 肥えた月さえまるまる歌う 




霧島六
夕暮れに冴え渡りしはチャルメラの豆腐売りさえ我より若し
目が覚めて桜吹雪の向こう側黒く蠢くリクルートスーツ
ひとり部屋日々を送りつ徒然と横目にバナナの黒ずんでゆくを
雀鳴く蒲団の外の大都会行かねばならぬ、離せ蒲団よ
鈍行を抜く特急に友の顔お前仕事か俺青春だ
幼子の旅立ち母の道しるべ、風よ吹かんやいま雪送り
騒がしき201号室の前にほこり被ったベビーカーひとつ
あの雲が魚に見えるか野良猫の髭を揺らすが日曜の風
帰省して夜も更けたれば猪口ふたつ白髪まじりの父に酌する
あの頃は何も知らずに済んだよねと幼馴染の吐いたマルボロ
冬服を仕舞う場所なく箱につめ実家の母とは無料通話を
ふと君が捨て紙で折った折り紙をもう何年も飾ってあるんだ
道端に仄香りたる濡れツツジ摘んで蜜吸うあの日は帰らず
食堂の中年女性に大盛りと注文めば彼女やけに笑顔で
午前二時マクドナルドで繰り返す男は「だから」女は「でも」と
新宿の昼下がりにハーモニカ吹く老人メガネ妖しく光れり
宝島探す話で盛り上がるいかにも我らが厭世同盟
プリントで切りし指舐め武器の味ぼくとあなたのホメオスタシス
這う虫を信号待ちに哀れみてやはり轢かれて鯨幕かな
この口は何であろうか欠伸して我が生活圏人のいぬまま
バルコニーに誰の涙か五月雨のピリオド一つ、二つ、三つ四つ
我が部屋の小国家なる混沌に窓を放てば神の嘆息
思ひ出を売れば幾ばくなろうかと全財産百五十円也
屹然たる戸山の裏手の研究所パンデミックの威圧的様




炬燵
取り替えたバケツの水の透明に絵筆を落とす彼をみている
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜は並んで歩く
君からの新着コメント赤文字をただ待つだけの生きものである
おそらくは彼に二物を間違って与えた間抜けな神様がいた
雨粒のようにこぼれる絵 涙のようにあふれる絵のような恋
クリスマスプロパガンダを秘密裏に指揮するのですセント・ニコラス
潮風と煙が染みた缶詰めに必要なだけ労働者たち
戦うと決めた者らを嘲笑うならそうやって朽ちてゆけ日々
両端の垂れた真白のバチストのネクタイに散る晩年の赤
彼が亡き王女のためのパヴァーヌにひっそり記したフォルテの理由
レプリカのエレクトロニカ聴き飽いてSHIBUYA-TSUTAYAでケッヘル番号(ナンバー)
自動的にビターヴァレーをゆれるきみJPEGにとじこめておいてよ
どうやったところで結局埋め尽くすオブセッションオブセッションオブセッションオブセッション
嘘に嘘を重ねてハートディスクまでハイクオリティなムービーで埋めてよ
また死んでるアート・アズ・アート商品性に負けたんでしょうと嘲笑う街
簡単じゃないときもある親切じゃないときもあるそういう感じ
マジキモいってことは知ってるけど君が欲しいとか俺死ね♡♡♡俺うぜえ♡♡♡
Re:Re:メール末尾の―END―が君からの本文よりも切なく光る
あなたには無意味でも僕には強く響いたのです 強く強く強く
君が好きといった少女コミックの中では君が恋をしていた
君の横顔が見られるポジションをすぐに見つける習性みたい
いつからか君に貸すこと考えてから本を選ぶようになってた
そこ俺も一緒に行きたいって言えなくてまたその話題に戻りたいんだ
君が来る日覚えてから最近は曜日感覚はっきりしてる
「この恋がいいね」と君がいったからその漫画みて努力はじめた




SAI
人ごみの内に映りし我が幻影 心苦しくともなお開きて歩む
はらはらと落つるよ花 君はゆく 我をおいていくな おいていくなと
星たちの夢 月のカーテン滲む入り江でまだ見ぬ宵を運ぶ船
風に吹かれてたなびいている 偽りを生きるのはもうやめた
旅すれど旅すれど変わらぬ内を抱えてどこぞ行く
移りゆく季節に咲きし永久の春 いのちめぐりてまたいつの日に
葉桜や散りし音等を敷き詰めて 君を踏み行く青々の道
青染める貫くようなスケールたたえ雄大世界展開する
しなやかに春風吹けば戯れて緑葉いのちのつややかなるを
ゆく船に積みし想いはいつの日の別の世界を旅し行きかう
太陽の裏 星たちの夢 隠されたストーリーは荒野を向かう
蜜のように甘い微笑みこぼすだけ心を溶かす優しい調べ
木の精がニコリと笑った雨の日の静けさのなか小さな出会い
最近流行不満体質改善方季節限定感謝体質
シラサギさん今日の成果はどうですか?まだまだですよと長伸びる影
雨の日に「にゃお」と鳴かないで夜知らぬ自販機住まう傷ついた猫
眺めやる瞳はいつの日の光正午の日陰老人は待つ
缶蹴りのどこかに忘れていた缶のふた開けるって約束したね
離れてもいつでも共にあるのだと何かのはずみあのふたが開く
耳奥にかすかに残るざわめきを閉じ込め眠る落日の鐘
雨音に負けじと鳴いてる君思い六月雨の街をスキップ
朝もやの薄霧のたつ芝原は雫の奏でる目覚めの歌ね
脱衣所のすっぱい臭い染み込んではるかなる日々湯気の向こうに
光もち母より出でてしばしの夜舞い散るいのち空かけてゆく
ひとつぶを重い口開けをつかみとる心の霞メロディになる
窓の外雨降りしきる灰色に遠くの音がはっきり聞こえる
砕け散る雨粒たちよどこへ行くこの降りしきる雨音の中
この場所に君はとどまり僕は行く呼吸し止まぬ海越えて
白き犬が海とたわむれる波打ち際にわれ昔友の逝くを見る
波の音思い出たちも一滴寄せては返す時の流れに
君の死はもうここにない血肉へと消えてしまったね共に生きよう
波際の寄せては返す音に入り命の呼吸に漂う泡か
靴底にいっぱいの夢すり減らしお姫様は大人になるの
ざわめきを靴底深くに閉じ込めてあの日を偲び眠るハイヒール
花々の散ってしまった残骸が大地を汚し蟲らは住まう
静寂の虚空を破る意志つぶて波緩やかに目覚める意識
雨滴たわむれた日は清らかに静かな音の空白残して




時間
バドミントン 勝っても負けても バドミントン 世に勝敗はなかりき
犬がいる 足 短いなと ひそかに思う つつじの花が綺麗だ
猫たくさん早稲田の街にはいるけれどすべての猫が皆親戚ではないのか
銭湯はとても気持ちがよいけれど年寄りばかりで眼の遊がせどころなし
五七五五七五五七五七五七七頭の中は俳句のことでいっぱい
あじさい祭り境内に賽銭箱一つ二つ三つ願いごとは宙を舞う
朝ごはん食べたら次は昼ごはん仕上げは夜の晩ご飯
六月は毎日メロンを食べました。七月はスイカだ。八月はなんだ。
アンデス タカミ クインシー アムスにアールス 六月メロン
吸ってないのに煙草臭い 八百屋の親父は超やばい 安全地帯はメロンだけ
六月は毎日メロンを食べたのか八百屋の煙草に慣れたのか
四方八方ギラギラ視線を放つゴキブリが見ているのは床
ありがとんぼ どういたしましてんとうむし ムシいないのに虫がいる
毎日毎日を日々平穏に過ごしていたら光が砕けた。マイケルが死んだ。
100円秋刀魚パサパサだ。500円秋刀魚はプリプリだ。同じ秋刀魚で何故こうも違うか
100円秋刀魚パサパサで500円秋刀魚はプリプリだ同じ秋刀魚で何故こうも違うか
人間を秋刀魚に置換えてみるならばやはり100円か500円か
私を秋刀魚に置換えてみるならばやはり100円か500円かいや、1000円か
100円秋刀魚プリプリで500円秋刀魚パサパサかも思い込めばそこは天国
500円秋刀魚に100円秋刀魚おれもプリプリ思い込みは世界を救う
5人と1人 5匹と1匹 イチローと俺 人間に区別があるないような不思議な気分
丑の日に蒲焼ばかり並んでる鰻の顔はどこへいった
丑の日に蒲焼ばかり並んでる鰻の顔はどこへやら
丑の日は牛食べないのにうっしうし鰻を前にうっしうし
捨てられ続ける鰻の頭いっそのこと身だけで養殖すればよし
夕暮れどき携帯に刺す茜色新宿の空は不気味に美しい
夕暮れどき鰻頭に刺す釘 身は不気味に光るにょろにょろ
夕暮れ時マンション屋上男女がふたり心震える高所恐怖症
美しい空をつくるは光化学スモッグ マンション屋上に男女心震える高所恐怖症
不気味な熱気渦巻く早稲田の街目立った者勝ちひげ、基本
早稲田の空不気味な熱気が籠ってるこれは人か犬か猫か天気か
どん どん どんどんどん どんどんどんどんどんどんどん 煙草をやめたら鰻のぼりのハイテンション
布団の匂い太陽の匂い良い匂いそれはノミダニの焦げたにおいだ
ばしゃばしゃばしゃ ばしゃバシャバシャ ばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃバシャバシャ 縦に泳ぎ続ける大人の集団
ばしゃばしゃ必死で泳いでる中年心が痛む青年
風もラジオもテレビもゆっくりしてる日曜日 自殺のための月曜をひかえて
風もラジオもテレビもゆっくりしてる日曜日 自殺の多い月曜をひかえて
おなかがすいたテーマは食べ物に自然と詩歌づくりは腹が減る一方
夕飯は何食べようかと考える秋刀魚に鰹ミョウガオクラとフルーツトマトデザートはメロンかスイカかこんなことでは詩歌は書けない
煙草くさいそれは自分が喫っていた大好きだった煙草の香り
スパスパと喫えば喫うほど喉イガイガ オエオエなくなる身体変化しつつ
カーペット洗濯するのは大変だ厚いし重いし乾かないし人生は汚れがたまる
半年ごとに汚れがたまる人生内臓は掃除することができない
半年前毎日楽しく過ごしてた半年後毎日楽しく過ごすだろうまたカーペットを洗いながら
暑苦しい汗が体中から流れ出るカキ氷で冷やす夏の内臓
暑苦しいオペラがラジオを流れるこいつは顔中ヒゲ面の獣だ夏の夜
暑苦しいほんとに顔が暑苦しい政治のイチロー 
暑苦しい存在OS暑苦しいあの唇を少し削れ
ビデオ屋に行ったらいつもの顔がいっぱい俺の名前は新作だ
コンビニに行ったらいつもの顔がいっぱい俺の名前はたまごスープだ
100円が財布にいっぱい溢れてる言ったらアンマリ面白クナイと
リモコンがうちにはこんなにいっぱい動きたくないのか動きたいのか人間
クリネックススコッティセレナーデ食べてもないのにすぐなくなるティッシュたち
かき氷もうすぐ祭りが終わっちゃうこんなに暑苦しくて苦しいのにブルーハワイ




渋谷 彰広
ひとあし、くずのはひらり ふたあし、くずのははらり ああここはそら
ざわ、ざわ 澄んだお空が さしこんだ あるくちおしさ こみあげてくる
だそうとも いでこれずもの 然れども にじみでるもの ここにありや
わだかまり はじけずとも、くすぶるは いつぞのいかり あまたのおもい
土塊を ほじくりふれる かわいてる 貸し出す先も 枯れた土地なら
現れる 限界集落 次々と ここは都か 姥捨て山か
ひしめいて ぎゅうぎゅうと 風の音 おきなとおうな 
たからかに 弱きをまもれ うっかりと よわきてのひら ふみつける
転ぶちご しかるははおや おにのよう ちごはしらずや あいされている
きず滲む つーっつーっと こぼれおつ ゆれるひだまり うつるすがたは
やわらかな まなざしといき なでるよう からめとられて かせかきずなか
ひとり住む 四割こえた ここはどこ ここはうつつよ こことうきょう
いつのよも かたりつがれる おやばなれ まちどうしいな しんやくエヴァ
ちごのかず ペットのほうが あまたをる ちごに取立て けもの払えず
たまごの値 ふつふつあがり かすみたつ デフレのさなか ぶきみさかすむ
日たかだか あかりあふれて 線消して。ひかげ褪せゆく こわい、こわい
ふとみると 異形の姿 ざら、ざら べたりごつごつ ハハこれわたし
父はよく 痛い痛いと 囁いて こもれびのよう かげふむわたし
大樹の しなりぐあいが まるでそう 父の腰沿う かたちのようで
ハァハァァ キュるるぐぐぐ おいおまえ! はぁなんだって? え・・めしまだ!
かなしみが その身を焦がし やきつくす 燃えゆく瞳 眼そらせなくて
かわいそう ことばあふれて わずかだけ なにもできない わすれないひと
水差しの湛える青に映る盆運ぶ思いはわだつみに注ぐ
水差しの湛える青に映る盆運んでゆけばわだつみにつぐ
いきずらき 飛び込んだ先 ジャパン。吐けど浸れど キックリターン
巷行く 文末泳ぐ 海馬 気づけば背伸び おもしろきかな
たつ霞 関所につけず 霧の中 どこか聞こえる まつりごとの音
焼けた肌 綺麗なうなじ ふふふ麩麩 特価品 美女木の店
水回り かまびすしきね じゃあじゃあ 子の口捻れば ぽとり、ゴメン




澁谷美香
一目惚れ はずしてほしいサングラス ガラスの奥の瞳が気になる
ステージででキミが歌ったラヴ・ソング 長澤まさみが好きなのね。
終わりだね 話すことばがもうないよ 残すはたった好きの二文字
エナメルのにおいが部屋からしてきたら 今夜の夕食準備はいいです
手紙ならすぐに返信くれるかな メール嫌いとつぶやくあなた
友達もその友達も知っている きみだけだって、気づいてないの
屋上から 高層ビルの隙間から同じブルーを見ている二人
新しい彼女が出来て就職した 劇団辞めた 君は変わった
角砂糖3つもいれたミルクティー アイツのことはもう忘れたわ
童顔の彼の残り香 汗 甘い香水 ラッキーストライク
君の顔照れてるように見えるんだけど 真っ赤な夕日のせいかなぁ
「みにきてよ」もらったライブのチケットは鞄の底でくしゃくしゃにする
オツカレサマ 形式だけの言葉しか言えない私はファービー以下
相手の立場考えないで行動する17才など卒業しました
カレーがね、作りすぎててあまってて…ハートを盗む泥棒のはじまり
弾くたび埃舞い散るレスポール 削れてくプレゼントだったピック
添削済みおたおめメール 先生いわく1日遅れがミソらしい
本当はお金も時間もあったのに チキンは当分肉食になれず
藍色のひと夏だけの浴衣着て 自分のためかあなたのためかなんて 考えたくない
水玉にインクを一滴落とすように今日をとじこめられたなら
左から右手にうつったピンキーリング みじかい夏よ さようなら
〝いつだって別々さ君がそう思うなら〟 死んでもそんな事思うもんか




拾語
いつからかタールのように噴き出したたったひとつの動的な何か
目の下の黒子と腕の宝毛は父親譲りの幸福の証
鏡台に並べた凱旋門とガスタンク引き出しの奥の野ばらの香水
雨が降る陽が降る葉が降る鉄が降る全部吸い込んで肺が膨らむ
君はなぜこんな夜更けに詩を吼える野犬の喉を刺す月、鋭利
君が君であるが故に破壊するダージリン香の残る揺り椅子
シュー皮の様なため息飛んで行く未だ幼い映写機の中
名も知らぬジンジャエールの銘柄を記したメモがどこかに消えた
君の頬の黒子が作る仔ぐま座を僕以外には誰が知り得る
日を追って高くなりゆくピンヒール厳つい街を踏み砕く赤




手鞠(てまり)
貴方の髪の 水玉掬う ドライヤーの 熱風が好き 布団寝転ぶ
牛蛙 蓮華 深池 貴方の声 ミルクみたいな 白い明方




藤岡文吾
色落ちて枝に残るは緑葉のみぬるい春風に揺られて漂う
人の渦 もまれてもつれて 一か月 抗いながらも 違う己に
地球紀行 行きたい自分は いるけれど 財布の中身 深いため息
眩しい空 きつい青さに 苦い笑顔 昨日の酒が 残る頭で
夕焼けに光る麦茶と水滴と赤茶に染まる君を見ている
いつだって私私は私私がなんで誰かになれるの
よる波が僕をさらって帰って行くぼくなんてもうどこにもいないのに
流れる雲を見ているとこう思うんだ世界なんて無くなれば良いのに
羽を割いたその感触は今も忘れないあの子が笑って踏みつぶした夏
誰かがいた電信柱に支えられた夜初めて知った人は優しい
あぁ蝉や声高らかに叫ばずともぬけがらはすべて潰してあげる
息をしないで身をよじり衣の上から触れ合えばああここにこそ人間を見たり




本間武士
この国で俺の家だけ石器時代何故か楽しげ笑う無精髭
約二分開け放たれた冷蔵庫貧相ながらも悩める喜び
狭い国自由気ままに飛び回り気づけば故郷ロシアより遠く
頭打ち歌を忘れて勉強家気づけば歩くことわざ辞典
成すは凡夫成さぬは英雄いつからかどこか狂った歩合制
しがみつき身を震わせるのは蝉よ明日の自分を思うのか蝉よ
清水に魚は住めずと知りつつも注ぎ込みたくなる漂白剤
雲を見て遠くへ往くと言った君動けないのは浮いた僕だけ
なるほどなこれはおそらく蜃気楼腕を伸ばさず理解した振り
もっと窓をもっともっと空気を!蟻塚で漏れた微かな呟き
金曜日ぶつかり合った傘と傘笑いかけても顔すら見えず
月曜日ぶつかりあった傘と傘睨み付けても顔すら見えず
日曜日昼か夜かもわからずに荒いすりガラス遮光カーテン
お世辞だとわかっているのについ笑顔何回言ったの素敵な顔ね
お花見と言いつつ枝は緑一色過ごした時だけ何も変わらず
今日だけは渋滞さえも流れ星飛び込んでみた高速道路
押入れにしまったテレビ置くラジオただ声だけを聞いていたくて
帰ろうかそんな空気の三人組ここに自分をもひとり足せたら
捨てたらどう 守るためには今日とて分別憂鬱な声背で受けながら
なぜ走るただ立ち止まる日を追い続け岩流の荒野吐く息は黒く




まある
夏風にざざめく稲葉の濃緑の海辺 汗にすける君の背をみていた
後輩がくれた別れのマグカップ茶渋の色に歳月を思う
梅粥の酸味に偲ぶふるさとの青梅つける祖母の手恋し
霧雨に相合傘をしてた秋 春の雨には2つ傘をさす
霧雨に濡れてあでやか赤松のさかむけた肌 哀れ女よ
「わかれよう」言うと決めた電話だけ 限ってとってはくれぬ君
高原でこのもや雲よと教えるとふわふわしてきたと笑う十八
銀座道 プラダ、シャネル、ルイヴィトン 「およびでないし」ツンとすまし顔
曇天に映える馬場道看板街 これもまた好き第二の故郷
おいときたい心のどこかにブルーレット おとしてくれぬか水底黒ずみ
五月晴れ春色スカートふくらまし風がはっぱとくるり輪を描く
蒔かぬ種の花の色を語るより固い大地に鍬いれる勇気
ひだり前ぬすみ見ている君の肩 ふと目があうことを切望している
好い声 耳は澄む ため息もひろえる 君は、遠くにありて聴くモノ
雷鳴に怯むないざ行け走れ 帰る部屋に灯はないのだ
きしむ手指は金平糖のような痛み 夏の白昼夢 水追いに溶けい
あなたの頭蓋骨きれい、目蓋、奥歯 てのひらの恋 まどのそと、あめ
言葉などいらない愛を最上と呼ばないで 背に呟くは、
現実は換気扇の音まわる山手線 立ちくらむ青
海抱かぬ大地に生まれ夢中に水の中をえがく いま日々生きる
三年忌祖父の戒名、耕雲院 梅雨空に鍬を握る手を見る
明鏡たる皐月の稲田あぜみちに佇めば平行世界の誘い
彼方より、うすみどりの水面溶けいる死をまつ 透きとおるような
AM7時またたきの後16時 汚れたリネン 痛む脳髄
恋人に歌ったフォーレなぞる夜 ふ、と愛されていたことに気づく
歌批評しよ クリアだの濁りだの早稲田ビールの夜7時半
予感す。雨は蝕む蜘蛛の糸 沈黙と小指 ぱつり、ぱつり、と
筆と病 僕の苦しみは青僕の悲しみは青喜びは青
「助けて」呟く自嘲リアリティをもたない誰かの青い碧い背
シリコンが埋め立てる僕の甘さヴィニルのつやめき オイルの先 独り
下校雨君にさしだす相合傘 問はず語らず発光する頬




叉旅猫目
右耳にせえのであけた丸い穴今はときどきじくじく痛み
したあとの湿った疲れぶつけ合いペットボドルがごとんと揺れる
散らばった契約書類の氏名欄には匿名匿名匿名希望
ハイジャック犯吸うHOPEの指先ピンク揺れる自意識無視する股間
屋上でおでんを食べる午前9時愛や希望は感光してる
アイスクリーム溶けた溶けて笑うまるで死体みたいな笑顔ね
キスしたらかちりと何か音がしてこれは始まり?何かの終わり?
復活の呪文が思い出せませんプラスチックで出来ていたのに
人を刺すためのナイフはこちらです可愛く包んで差し上げますね
夏服の透ける背中を目でなぞるノストラダムスよ力を貸せよ
夜が明けてキオスクで触れる指先が失くした温度を思い出してる
落下する日々がスライドショーのよう正しき光夕闇に消え
去り際に置いて残した真っ赤なトマト隣にメモを「不発弾です」
1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意
順番を間違えたまま朝がきて僕らの正しき愛が始まる




山田太郎
満開の舞い散る桜みて思う風に流されどこいく未来
満開のさくら飛び散る強い風私のさくらいついつ咲くか
吹雪のよう風に舞い散る桜たち「綺麗」そういう君が「綺麗」だね
桜の木今年咲いたら一年後来年もまたまたありがとう
風が舞い今年も桜咲きましたあのこも桜みれているかな
それでも星は輝くし太陽はまた昇るそれでいいいいんです
大手町スーツを着こみみな疲れ線路は続くよどこまでも
君は言うもう少しだけ開いたらそれでも私こもる貝殻
愛想尽かされても一向に構わない君が幸せならそれでいい
酔っぱらいホームで嘔吐三時間山手ぐるぐる我記憶なし
痛む膝青あざをみて思い出す昨夜のひとりボーリング大会
カーリング電話が鳴ってコーリング最近流行りのサイクリング




ゆるり
いい酒で触れそうで触れない肩ふたつ終電逃せと言いたいけれど
迫りくる三浦の海よ ああ海よ 思わず叫ぶ サーファー笑う
日が延びて西日が襲うキャンパスで輪をかけ眩しい新入生たち
眠れない夜に電話で泣いてみる きみも泣くからちょっと笑える
キューポラの黒い煙は夢のあと シャッター街は黙るばかりで
笑う声 放れば返る 眠る山 友のカメラと 埋もれる足と
四月の雨去って冷え込む夜の路 影をふみふみカレーの匂い
前を駆けるセーラー服のプリーツの伸びた少女にわが面影を
子育てはもう終わったと笑う母 声に混じった強がりは見ぬふり
ふと黙るきみのひび割れたくちびるをじっと睨めば世界が止まる
内ももの隙間の見えるスカートで街に繰り出せフリルを揺らせ
午後の二時あの胎児の頃のようにひとり布団で丸まっている
行く春に静かに沸いた憂鬱をグラスに注げば今宵も甘露
蛍光灯がトイレの鏡に映すのはわたしの顔の嫌いなとこばかり
腐れ縁切っても切っても切れぬもの切れたとたんに寂しくなるもの
踏み切りを転がるようにかけた夜あの日だけ君は恋人だった
あの日から寝ても冷めても胃を焦がすように痛むか失った愛
桃色のロングヘアーのダンサーは汗すら舞台衣装のようで
雨の日に狂おしく咲くツツジ花一斉にじっと我を見ている
ペディキュアのきらめく五月に手を振って梅雨のストーブを準備する夜
あの人は譲っちゃだめよと私に言う恋愛上手なアラ還*の美女 (*アラ還=アラウンド還暦)
東西につながる窓の道を吹く風が涼やか夕方の居間
全身を蟻が這い上がるのに似た絶望が今傍らに居る
壁越しに伝わる夜の雨音を強く激しく抱いて朝まで
脳内にいつかの声がこだまする。あの子は今は元気でいるか
君んちのプラスチックの急須には安い煎茶の平穏な味
スルスルと体に流れる鉄の音わずかに聞いた貧血の午後
サランへヨ。カムサハムニダ。チャン・ドンゴン。婆ちゃんに来た遅い春
11時汗の匂いのするスーツ脱いでそのまま翌日の朝
燃え尽きた蛍は塵になるのだろう疲れた胸がそっと呟く
藍色の空に浮かんだあの月のうさぎはいまだうさぎに見えず
半べそでギター抱えた弟よいいではないか歌え歌えよ
面白い?ねぇ面白い?と監視する君がそんなじゃ漫画も読めん
ご近所のオヤジもキミもそうですがどうして人は風呂で歌うの
この肺はまるで言葉の留置場そとにでたいと皆あらがうよ
息の音止まってどれだけたつかしら本を読んでる君の静寂
ふと思うSuicaに残る3円をどう処理しよう?どうでもいいね
疲れ果てそっと漂う寂しさにくしゃみをひとつ家に帰ろう
この広い世界ではみな主人公そんな大嘘ついたのは誰
秘密など窓が曇れば覆われる今夜は星がやたら多くて
にじりよる醤油ラーメンの香りと指がさまよう衣擦れの海
食われるか撃たれるかする猪の首は短く太く短い
青空と曇天色のパンツとのあいだに立った私緊張
夕闇のセピアに溶けて風景画と化すばぁばの背中は小つぶ
2000mm森の深部を仰ぐがごとく澄み渡りゆく喉仏かな
群青のパラグライダーの端っこに掴まってでも希望する飛翔
友人がハマりはじめたヨガの名は十二指腸のポーズだそうな
干したてのお布団みたく純情無垢の湯気たちのぼるあなたの匂い
8日目の洗わぬ靴下の悪臭に負けじ劣らずじ君のうそ
高くても困るが低血糖低血糖低血圧低気圧電話料金
揺れる。君のパルスと白い壁白い壁に一点のしみみっけ
悲しき酒飲みの口はライフルだっただった頃だだだだだだ駄々っ子
君の言うあなたのももの白き油脂それが好きだと口のほころぶ
あなたの言うあの子のももの白き油脂それが好きだと口のほころぶ
右が欠け左下欠け、メロンパンの表皮 ぼろり。 と黄色き星の砂
「ウーロンハイ!」「百年梅酒。」「生中ねー!!」カシスオレンジ乙女のしるし?
汗つたう広い背中の美しい(ワタシノモノヨ。)すするジャスミン茶
てぇつなご。差し出す彼の左手はいつもの2倍大きく見えた
大好きなあの人が振り向くのならやってやるとも核開発も
まっ黄色に染まる夜のカフェテラスさむいさみしい広重が好き
真夜中にひとりはさみしい声出さず壊して欲しい千切って欲しい
甘辛い赤い林檎の純情は18のよるけしとんじゃった
テキーラで酔うはずのない君のゆび胸に止まった蝶々みたい
テキーラで酔うはずのない君のゆび乳房にとまる蝶々みたい
おひとりで銀座京橋イタリアンとなりの席は駆け引き中ね
胸張って恋人のメッカお台場の女性お二人バンザイアタック
終電の田端改札キスをするスーツのふたりそっと眺める
ホントハネ あなたの睫毛すきだけどもっとだいじなあのこの笑顔
すべり込むぬくい潤んだくちびるが話とぎれてあいた隙間に






くれむつ和歌集(2009年春夏)  終