2009年6月20日土曜日

前期評価方法・第8週目制作・必読短歌9(富小路禎子・松平盟子・大滝和子)

1)前期の評価方法について

 前期の授業も残すところ4回ほどです。そこで前期評価方法の確認を。シラバスには、50首以上創作すること、と書いておきました。それに近づいている猛者たちもいますが、なかなか50首はきついという人も多いようです。当然。長く作っている人たちでも、4か月ほどで50首は作れないという人もたくさんいるのですから。自分の作品に厳しい人は、なおさらのこと。
 というわけで、ここらあたりで変更しておきましょう。とりあえず、10首以上作れば合格。あとは出来ぐあいで判定を上げていくということにします。いままで作っていない人も、これから頑張って投稿してください。また、どうしても短歌のかたちでは作れないという人は、内容自由のエッセーでも自由詩でもOKです。それらもここに投稿してください。他の人にも読めるというのが大事なところ。他人の文章などを見るのはけっこう楽しいものです。どうせなら、楽しましてくれるような詩文を載せてください。

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2)第8週制作作品(6月9日から6月16日までの提出作品)

 6月16日には第8週目の制作作品の読み合いをしました。6月16日2時頃までの投稿分を扱っています。先週に続き、これも横書きで試してみました。内容は以下の通り。
 もっとも、16日はこの途中までしか読めませんでしたので、次回はこれを継続して読み、検討していきます。


澁谷美香さんのコメント...
ぎりぎりですが投稿します。
今週はなんか色々あってストレスが溜まっていたのでそのイライラを短歌で吐き出してみました。でも短歌というよりほとんど日記になってしまいました。日記だけどフィクションもアリです。勢いで書きなぐった感じです。

六月二日 「みにきてよ」もらったライブのチケットは鞄の底でくしゃくしゃにする
六月三日 オツカレサマ 形式だけの言葉しか言えない私はファービー以下
六月四日 相手の立場考えないで行動する17才など卒業しました
六月五日 カレーがね、作りすぎててあまってて…ハートを盗む泥棒のはじまり
六月六日 弾くたび埃舞い散るレスポール 削れてくプレゼントだったピック
六月七日 添削済みおたおめメール 先生いわく1日遅れがミソらしい
六月八日 本当はお金も時間もあったのに チキンは当分肉食になれず
2009/06/09 15:11

炬燵さんのコメント...
こんばんは、炬燵です。前回の授業では自分の歌が色々と取り上げられて、たいへん楽しかったです。では今週も五首読みます。

君の横顔が見られるポジションをすぐに見つける習性みたい
いつからか君に貸すこと考えてから本を選ぶようになってた
そこ俺も一緒に行きたいって言えなくてまたその話題に戻りたいんだ
君が来る日覚えてから最近は曜日感覚はっきりしてる
「この恋がいいね」と君がいったからその漫画みて努力はじめた
2009/06/11 0:12

叉旅猫目さんのコメント...
叉旅猫目です。わわ、気づけば私めなんぞのうたにみなさんからのコメントが!ありがたやありあがたや(お返事遅れてすみません)。
>大沼さんご指摘の通り「1995年」は阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件を意識しています。9/11があの事件を想起させてしまうように、1995という数字の並びには単なるそれ以上の意味が望む、望まないは関係なく付与されてしまうと思うんですね。1999=ノストラダムス、みたいに。そういった記号が反射のように人に意味を伝達してしまうっていうのが面白いなーというか好きなので、このうたを作りました。で、そういった大きな事件からまだ立ち直れていない、そこから進んでいない何かもあるのでは、という想いから、その得体の知れない感じを「取り残された幼女の尿意」にこめてみました。
>炬燵さんお褒めの言葉ありがとうございます。ご指摘の通り「1995年」のフレーズとリズムで「勝った」と(何にだよ)思いました(笑)。私も時代性を感じる作品が好きですね。炬燵さんが好きかどうかはわかりませんが、私は穂村弘さんがとても好きです。サバンナの像のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしいとか涙が出るほど素晴らしいなぁと個人的に思います。それと(つけ足しみたいな言い方ですみません)、炬燵さんの「Re:Re:メール末尾の―END―が君からの本文よりも切なく光る」は傑作だと思います。少なくとも私はどんぴしゃでした。このうた3000円くらいで買いたいくらい(笑)で、以下、今週の作品です。巧くいかなかったので、一首のみです。

順番を間違えたまま朝がきて僕らの正しき愛が始まる
2009/06/15 21:34

ゆるりさんのコメント...
ゆるりです。先週の授業は色んな方の意見が飛び交ってすごかったですね。楽しませていただきました。搾り出した3首。

秘密など窓が曇れば覆われる今夜は星がやたら多くて
にじりよる醤油ラーメンの香りと指がさまよう衣擦れの海
食われるか撃たれるかする猪の首は短く太く短い

コメント今回もしたいんですけど、今日は寝落ちしそうです、またの機会に。
2009/06/15 23:07

SAI さんのコメント...
しばらくご無沙汰していました。SAIです。

蜜のように甘い微笑みこぼすだけ心を溶かす優しい調べ
木の精がニコリと笑った雨の日の静けさのなか小さな出会い
最近流行不満体質改善方季節限定感謝体質
シラサギさん今日の成果はどうですか?まだまだですよと長伸びる影
雨の日に「にゃお」と鳴かないで夜知らぬ自販機住まう傷ついた猫
眺めやる瞳はいつの日の光正午の日陰老人は待つ
缶蹴りのどこかに忘れていた缶のふた開けるって約束したね
離れてもいつでも共にあるのだと何かのはずみあのふたが開く
耳奥にかすかに残るざわめきを閉じ込め眠る落日の鐘
雨音に負けじと鳴いてる君思い六月雨の街をスキップ
朝もやの薄霧のたつ芝原は雫の奏でる目覚めの歌ね
2009/06/15 23:10

大沼貴英さんのコメント...
大沼です。
>叉旅猫目さん「取り残された幼女の尿意」の表現意図、なるほどと思いました。不可解だった部分が少し、すとんと納得できたというか。「幼女がそのまま大人になった」ことへの虚しさや悲しみが「取り残された幼女の尿意」という表現に、絶妙な具合に込められていると思います。論理的な言葉では表わしがたいけれど、たしかに「取り残された幼女の尿意」とせざるをえないような気分です、不思議なことに。 
それでは、今週の投稿です。   

あの音楽に寄せるうた七首
朝の駅ふいに和音を知った君アカペラでもおじけず歌えよ
十六分音符の裏の抜け穴に乳首の位置を透かし見る梅雨
俺たちのロックスターが愛を説き顰蹙を買うのもまたロック
冷え性の君が重ねた手の甲のうわべ掠めるポップンポップ
酸欠の渋谷クアトロ耳鳴りという免罪符もちかえる夜
臆病な友の後ろで発射台、モッシュにダイブさす仲直り
濡れ枕ふいに聞こえる弦楽を知ってしまった知ってしまったね
2009/06/16 0:26

渋谷 彰広さんのコメント...

水差しの湛える青に映る盆運ぶ思いはわだつみに注ぐ

まあるさんのコメント...
まあるです。コメントに参加したいところですが、眠くてしかたがないのでまた後日・・。
5首投稿します。

三年忌祖父の戒名、耕雲院 梅雨空に鍬を握る手を見る
明鏡たる皐月の稲田あぜみちに佇めば平行世界の誘い
彼方より、うすみどりの水面溶けいる死をまつ 
透きとおるようなAM7時またたきの後16時 汚れたリネン 
痛む脳髄恋人に歌ったフォーレなぞる夜 ふ、と愛されていたことに気づく
2009/06/16 2:03

渋谷 彰広さんのコメント...
すみません、2009年06月16日1時39分に提出したものを訂正します。

水差しの湛える青に映る盆運んでゆけばわだつみにつぐ
2009/06/16 2:11

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3)必読短歌9 ~富小路禎子・松平盟子・大滝和子

 今回は世代の違う女性歌人3名の歌を並べました。それぞれテーマも違うので、安易な比較はできませんが、どれも見事なものです。

◆ 富小路禎子(とみのこうじよしこ) 一九二六~二〇〇二◆


女にて生まざることも罪の如し秘かにものの種乾く季(とき)


ほのぼのと愛もつ時に驚きて別れきつ何も絆となるな

殻うすき卵かかへてゆく巷秋晴れなれば心うづけり

処女(をとめ)にて身に深く持つ浄き卵(らん)秋の日吾の心熱くす

急ぎ嫁(ゆ)くなと臨終(いまは)に吾に言ひましき如何にかなしき母なりしかも

白き砂漠の中に建てたき父母の墓長き家系の末に苦しむ

未婚の吾の夫にあらずや海に向き白き墓碑ありて薄日あたれる

自動エレベーターのボタン押す手がふと迷ふ真実ゆきたき階などあらず

ある暁(あけ)に胸の玻璃戸のひびわれて少しよごれし塩こぼれきぬ

母胎より彼岸に到るここの道いましばらくの緋なる夕映

抱擁をしらざる胸の深碧ただ一連に雁(かりがね)わたる

しばしの間地上をはしる電車より見し曼珠沙華 一生(ひとよ)のごとし

吾の後生(あ)れしものなきこの家にまた紫陽花は喪の色に咲く

八月の炎暑に吾を生まんとし母は一片の氷(ひ)を噛みしとぞ

共に餓ゑ耐へし昭和を送る夜半椿凛と咲き満つ

わがかつて生みしは木枯童子にて病み臥す窓を二夜さ敲く

核を持つ地球のどこかに咲き闌くる芥子畑不穏なれど麗し

焼跡に杙のごと立つ少女吾敗戦の日の白黒写真

◆ 松平盟子(まつだいらめいこ) 一九四九~◆

今日にして白金のいのちすててゆくさくらさくらの夕べの深さ


父と娘(こ)と待ち合はせゆうべ帰るさまウィンドの続くかぎり映れる

泳ぎ来てプールサイドをつかまへたる輝く胸に思想などいらぬ

宙(そら)へ地へ還るブランコこのゆふべ街は衛星のごとく寂しき

口うつされしぬるきワインがひたひたとわれを隈なく発光させゐる

未来とはまづ明日のこと珈琲を冥府のごとき胃に堕しつつ

梨をむくペティ・ナイフしろし沈黙のちがひたのしく夫とわれゐる

三十代日々熟れてあれこの夜のロゼワインわれを小花詰めにす

萩ほろほろ薄紅のちりわかれ恋は畢竟はがれゆく箔

やうやくに飼ひならしたる〝非と哀〟が〝火と愛〟に音(おん)かよふことあはれ

クレヨンに「肌色」という不可思議の色あり誰の肌とも違う

くちびるは柔らかきゆえ罪深し針魚(さより)の銀の細身を好む

人に言うべきことならねど床下に大槿(おおあさがお)が口を開けおり

ファスナーは銀の直線、みずからを断つ涼しさに引き下げており

ディスプレイの中には桜ふりつづき徒にながめせしまの四十歳(しじゅう)

遠くから飛び来て遠く去るものの一つか恋も首細き鶴も

垂れこむる冬雲のその乳房(ちちふさ)を神が両手でまさぐれば雪

馬の肌ゆびさきに辿るしずけさに秋は終わりぬ尾花ゆれおり

◆ 大滝和子(おおたきかずこ) 一九五八~◆

サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい


眠らむとしてひとすじの涙落つ きょうという無名交響曲

あおあおと躰を分解する風よ千年前わたしはライ麦だった

プラトンはいかなる奴隷使いしやいかなる声で彼を呼びしや

さみどりのペデイキュアをもて飾りつつ足というは異郷のはじめ

めざめれば又もや大滝和子にてハーブの鉢に水ふかくやる

うれしいときなぜ手を叩く祈るときなぜ手を合わす内野席にて

反意語を持たないもののあかるさに満ちて時計は音たてており

あじさいにバイロン卿の目の色の宿りはじめる季節と呼ばむ

猫の目にむかいてそっと聞いてみる「宇宙はなんがつなんにち生まれ?」

二千個の人形かざる博物館どの表情もみなわが心理

はるかなる湖(うみ)すこしずつ誘(おび)きよせ蛇口は銀の秘密とも見ゆ

スカートの影のなかなる階段をひそやかな音たてて降りゆく

ほの光るDNAをたずさえてわたしは恋をするわたしもり

ベッドからまた降りたちぬ八時間われなる海をさすらいてのち

12歳、夏、殴られる、人類の歴史のように生理はじまる

地球儀に唇あてているこのあたり白鯨はひと知れず死にしか

はてしない宇宙と向かいあいながら空瓶ひとつ窓ぎわに立つ