2009年12月4日金曜日

投稿作品7(12月1日までの分)

 毎回の投稿作品のアップにしても、名作短歌のアップにしても、じつはけっこう手がかかります。授業で配っているものをそのままコピーして投稿用の欄に張り付けると、改行がぜんぶ消えてしまって、コメントから短歌に至るまでひと続きになってしまうのです。このブログのソフトの性質ということなのでしょうか。ともかく、そういう文字のかたまりになってしまったものを、各作品に再改行することから始めないといけません。短歌の場合は、どこで切ればいいのか、だいたいはわかるものですが、それでもはじめから終りまでのすべてを細かく見直さねばならないし、紙に印刷したものを見ながら確認もするので、最終的にはかなり読み直すということになります。
 こんなことを毎週するというのも、勉強のうち。他人のものを平気でどんどんと読めなくなったら、文芸に関わる人は終わりだと感じます。外部情報を絶えず内部へ通過させ続ける透過性の高い文芸細胞膜を維持している必要があると思います。
 疲れたり、悪い意味で歳をとったりすると、文芸細胞膜はこわばりがちになるようです。ある年代以上になると、自分や自分の世代、あるいは昔のものばかりが「よいもの」であって、最近のものなど見るに値しないと言う知人が増えてきて、なんだか寂しくなりますね。自分のかたちを作っていくということと、悪くかたまっていくということ、このふたつはまったく別のことです。


◆投稿作品7(12月1日までの分)◆

青木さんのコメント...
前回の授業で、関係性が感じられる歌にチャレンジしてみようと思いました。

静かなる呼吸を乗せたきみの手が僕を掴んだ夜明けのダンス
暗がりで蔑められた目を開く涙はかくも美しきかな
キラキラと視線Xかわしつつ背後でそっとささやくような
口をつく「変態だね」という言葉寂しき二人の合い言葉にする
繋ごうと差しだした手をはねのけて明るく笑うバイバイまたね
気がつけば返さずにまだ持っている『リルケ詩集』に挟まれたメモ
2009/11/27 8:05

北寺瀬一さんのコメント...
こんばんは、北寺瀬一です。短歌以外の形式でもOKとのことですので今回の作品は、詩の最後に短歌が付いた作品を投稿します。()の中の文が短歌です。

終わりに向かってさまよう船の中で
薄い酸素が見せたスローモーションの物語も
そろそろ燃え尽きようとしているのに
こんな穏やかな気持ちで小さな窓の外を眺めている

いつ訪れるとも知れぬ断罪の時を待つ中で
「真実が常に僕にとって正しいとは限らない」
と言う君が
昔旅したという遠い星の
砂漠にある澄んだ泉の話を
もう何度も思い出したことだろうか

『その泉では、コブを湧水で満たしたラクダと
嘴の折れたハゲタカが暮らしていました。
先に死んだのはラクダです。さて彼らは幸せだったでしょうか?』

こんな謎かけで一体何を伝えたかったのか
答えをひとつ生むたびに君に近づけるような気がしていたけど
ありもしない希望を求めることにも飽きてしまった
どこまでも尽きることのないはずだったエンジンの
断末魔みたいな揺れに身を委ねているうち
遠退く

(モノローグのない物語は最終章へ光の速さで駆け抜けてゆく)




蒸気で白く煙ったバスルーム
曇った鏡に写る悲しい顔の君
何かを言おうとしたところを
シャワーを向けて消したら
残像と自分の姿が重なって流されて
何も残らなかった

眠れない夜の
逃げ場のない密室で
僕を苦しめる鏡像
どこで間違ったかももう思い出せない

頬を温い水が伝って
排水口へ絡めとられていく
湿った空気で
やっと呼吸ができる
君をなくした夜の乾いた風を
忘れて僕は
訪れるはずのない朝を迎えるだろう

(誰もいないはずの深夜のバスルーム家主はバイクの二ケツで死んだ)
2009/11/27 17:52

礒部さんのコメント...
こんばんは。いそべです。自分の感情を歌に入れて無理に作りこむことよりも、目で見た風景を自然に歌にするほうが、私には向いているようです。

頭だけきょろきょろ動く警官が街を見渡す交番の前
布団からすこしはみ出た足の指 夢を集めるアンテナのよう
水銀の体温計を振りながら額にそっと置かれる右手
行列の一番後ろ知らせてた看板遠く離れて見えず
「愛」よりも「哀」の言葉が先にある国語辞典を眺める夜は
金髪の男子生徒が手に握るやさしい色したいちごポッキー
鍵盤にゆっくり触れる調律師 音の狂いを拾い上げてく
2009/11/28 23:09

耳野さんのコメント...
こんにちは。耳野です。今回は寓話的な要素を入れてみようと思ったのですが 実際はあまり変わってないかも知れません。

  別訳・幸福概論
靴屋とは哀しき生業なりと云い木型研きし口は薄笑
靴屋より誂え靴を貰い来て二、三歩の挨拶我が浮舟よ
覚束ぬ我が足向きに苦笑せし君との喫茶でツイ脚を組む
右足の片側減った革靴で三日月灯下を滑ってもみるのだ
野分渦き藍染む夜更けは軽薄に滑空せよ我が脚我が背徳よ
綻びし革靴治しに来た我と廻り唄歌う靴屋の横顔
宙を舞う羊革のうつくし残像よ哀し幸福は確かに在りし
誕生日靴屋へ連れ立ちぼくと君ステキをひとつ誂えお呉れと

休日の午後 嗚呼、あの日のようだと
ぼくは思いつ きみを迎えに
靴はまわる 生き死にまわる
例い廻っても 君と居たらば 
ぼくは概ね 幸せ、なのだ
2009/11/29 12:53

うぐいすさんのコメント...
うぐいすです。寒くなってきましたが、まだ秋かなと黄葉を見ながら思います。

手相には未だ知りえぬ相手との破局の相が色濃く映り
皆が皆オアシス探し彷徨えり東京砂漠に住む吾もまた
川の面に洗い出したる大根のしずくきらめく秋の夕暮れ
駅前の商店街はいつの日かさびれて露地に風吹き抜くる
捨てること出来ず片付け滞る幼きころの絵画数枚
故もなく心重たく疲れたり今日の終わりにメガネを外す
2009/11/29 15:55

マルディさんのコメント...
こんばんは。私は今たいへん混乱した状態なのですが、その様子が歌にも表れているように思います。
うぐいすさん、手相はいくらでも変えられるじゃないですか。

さかしま。水たまりも杏ジャムも鏡になった水曜の午後
秋色がひかりのなかで燃えている もうじききみの記念日がくる
女たちはそわそわしてるよその晩になにを飲もうかどう騒ごうか(きみとね)
開けるまえから香しい、セザンヌの林檎たちより…、重いダンボール
名前たち、こんなとこにも付いてたの。修繕屋さんの靴クリーム瓶
ちょっとプルーストに訊いてくる!駆け込んだオスマン通りはただただ黒い
2009/11/30 0:23

大沼貴英さんのコメント...
大沼です。 忙しさにかまけてなかなか作歌モードになれないのですが、苦しいながらも絞り出した三首をこっそり投稿します。   

  誰かがマスクの裏で落とした言葉に寄せるうた三首
花も実もしょうもないヒマ耳年増ひねもすはねトビひもねすハモネプ
呟く。インターネットはさまざまな可能性を言い訳にして。
冬物は柄があるけど絵はないと主張してみるセンスもないのに
2009/11/30 0:40

うぐいすさんのコメント...
>手相はいくらでも変えられるじゃないですか。マルディさん、確かに手相は毎日刻々と変わっていきますよね。見方も考え方も色々ありますし…なにごともポジティブに考えたいものです。マルディさんも混乱状態を抜けたらゆっくりお休みになってください。私の方もゆるゆるといけたらと思います。
2009/11/30 15:34

青木さんのコメント...
>女たちはそわそわしてるよその晩になにを飲もうかどう騒ごうか(きみとね)>名前たち、こんなとこにも付いてたの。修繕屋さんの靴クリーム瓶の二首が好きです。二番目の、「名前たち」という表現がかわいい。名前に向かって呼びかけるような姿がよいです。
2009/11/30 15:56

SAI さんのコメント...
こんにちは、SAIこと、高橋大悟です。今期初投稿です。まずは、軽めに三首どうぞよろしく。

小さいなそんな自分でいいからさ言ってごらんよ「えいままよって」
燃え尽きた灰をそっとねかき集め灯を灯すからもう一度だけ
天と地を貫いて立つ大樹のように育てよ若木強く優しく
2009/11/30 19:05

叉旅猫目さんのコメント...
こんにちわ。叉旅猫目です。

・酩酊しふと見る鏡の中の吾列車待つ家出少女の如き
・男の子女の子たちただ外に出よ街は今××だから
・怪獣のルーティンワークは食べること飲むこと寝ること涙すること
2首目の「××」は無音であるのが望ましいのですが、音読する場合は「ぺけぺけ」とでも読めばよいかと思います(でも、「ぺけぺけ」だとちょっと間抜けですね……)。
2009/12/01 13:30