2009年6月9日火曜日

第7週目制作 (6月2日から6月9日までの提出作品)-今回は実況風、しかも横書きで― +石川啄木の短歌43首と歌論抄

 6月9日の授業では、ここに投稿された作品やコメントを時系列のままに並べて印刷し、あれこれと検討してみました。横書きのままで印刷しましたが、なかなかいい感じだったように思います。短歌の横書きについては賛否両論ですが、理屈の通った反対意見は少ないように思います。慣れているから縦書きがいいとか、昔から伝統的になされてきたから、とか。縦書きの味わいは大事にしたいと思いますが、横書きをちゃんと認めないと、短歌が今後の時代に広がっていくのは難しいとも思います。
 石川啄木の短歌もかなりの数、紹介しました。だれでも知っている歌人ながら、再読するとなかなか面白いのがわかると思います。明治の時代に、もうあれだけのことをやってしまっているのです。

◆第7週目制作 (6月2日から6月9日までの提出作品) ―今回は実況風、しかも横書きで― ◆

炬燵さんのコメント...
炬燵です。身内の不幸でばたばたして、少し間が空いてしまいました。
レプリカのエレクトロニカ聴き飽いてSHIBUYA-TSUTAYAでケッヘル番号(ナンバー)
自動的にビターヴァレーをゆれるきみJPEGにとじこめておいてよ
どうやったところで結局埋め尽くすオブセッションオブセッションオブセッションオブセッション
嘘に嘘を重ねてハートディスクまでハイクオリティなムービーで埋めてよ
また死んでるアート・アズ・アート商品性に負けたんでしょうと嘲笑う街
2009/06/02 21:47

ゆるりさんのコメント...
ゆるりです。6首
ご近所のオヤジもキミもそうですがどうして人は風呂で歌うの
この肺はまるで言葉の留置場そとにでたいと皆あらがうよ
息の音止まってどれだけたつかしら本を読んでる君の静寂
ふと思うSuicaに残る3円をどう処理しよう?どうでもいいね
疲れ果てそっと漂う寂しさにくしゃみをひとつ家に帰ろう
この広い世界ではみな主人公そんな大嘘ついたのは誰
2009/06/07 17:08

叉旅猫目さんのコメント...
叉旅猫目です。3首。
落下する日々がスライドショーのよう正しき光夕闇に消え
去り際に置いて残した真っ赤なトマト隣にメモを「不発弾です」
1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意
2009/06/07 23:47

時間さんのコメント...
あじさい祭り境内に賽銭箱一つ二つ三つ願いごとは宙を舞う
2009/06/07 23:52

藤原夏家さんのコメント...
ゆるりさんの歌。
〇ご近所のオヤジもキミもそうですがどうして人は風呂で歌うの
〇この肺はまるで言葉の留置場そとにでたいと皆あらがうよ
〇息の音止まってどれだけたつかしら本を読んでる君の静寂
〇ふと思うSuicaに残る3円をどう処理しよう?どうでもいいね
〇疲れ果てそっと漂う寂しさにくしゃみをひとつ家に帰ろう
〇この広い世界ではみな主人公そんな大嘘ついたのは誰 
 ユーモアがあって、やるせなくって、でもなかなかたくましくって、そう簡単には負けないから…という感じ。けっこう大事な作品群になっていると思います。いまの時代の詩歌がうまく把握して表現するべき地平を探知しあてたと感じます。この流れで、まだまだ作れるかな?できそうなら、続けてみてください。
2009/06/08 1:10

藤原夏家さんのコメント...
叉旅猫目さんの歌。
〇落下する日々がスライドショーのよう正しき光夕闇に消え
〇去り際に置いて残した真っ赤なトマト隣にメモを「不発弾です」
〇1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意 
 一首目は、「落下する日々」や「正しき光」の使われ方が抽象的で、どう読んだらいいか迷う読者もいるでしょう。そういう読者を無視するか、救うか。大いに考えてください。 二首目は梶井基次郎の『檸檬』ふうですね。トマトと爆弾というのは、よく考えつきそうでも、印象のつよいイメージ関連。でも、「不発弾」でいいのかな?もっと別のもののほうがいいのでは、と思っちゃいました。 三首目はおもしろい。名歌だとは思わないけれど、おもしろい。名歌だと思わせてくれない理由は、読者の意識のなかに、なにかをたなびかせてくれないから。余韻や慰撫が、もっとほしいところ。
2009/06/08 1:18

藤原夏家さんのコメント...
時間さんの歌。
〇あじさい祭り境内に賽銭箱一つ二つ三つ願いごとは宙を舞う 
 歌としてはいまひとつですが、魅力的な歌の種がいっぱい入ってますね。「あじさい祭り」、「境内に賽銭箱」、「願いごとは宙を舞う」など。最後の表現は、井上陽水の『少年時代』を思わせる。お祭りの時の、奇妙な夢見心地を捉えるのには良い表現になっています。「賽銭箱一つ二つ三つ願いごとは」と続けるあたり、「賽銭箱」の数から「願いごと」の数へと「一つ二つ三つ」を介して移っていくのがなかなか技巧的。
2009/06/08 1:25

大沼貴英さんのコメント...
大沼です。風呂で歌うのって気持ちいいですよね。適度なリバーブがかかるし、湯気のおかげで喉の状態は最高だし。そんな俺はいま、吉祥寺で行われている「風呂ロック」なるイベントに注目していたりします。もしご興味がありましたら検索してみてください。蔡忠浩のライブ、行きたいなあ。というわけで、今週は音楽をめぐっての連作です。 
  その音楽に寄せるうた七首
明日からボブ・ディランでも目指そうか夢の夢また夢に見た午後
病み上がり雨の日比谷の野音の「や、」すらない残響にしがみついている
噴水の先また先のとどめおく一瞬、夏をきらめきわたる
天高くリバーブかかる風呂屋にて浅黒い小田和正を聴く
二十四時だれの姿もない風呂でこっそり歌う、リバーブかかる
真夜中の路地に紛れてアイポッド爆音で聴く爆音で聴く
突然の三連符わすれてたたた男の不能さらけ出す夜

炬燵さんのコメント...
炬燵です。前回はうっかり1週前のエントリにレスをしてしまっていたようです。五首再掲とともに、新たに五首詠みます。
(再掲分)
レプリカのエレクトロニカ聴き飽いてSHIBUYA-TSUTAYAでケッヘル番号(ナンバー)
自動的にビターヴァレーをゆれるきみJPEGにとじこめておいてよ
どうやったところで結局埋め尽くすオブセッションオブセッションオブセッションオブセッション
嘘に嘘を重ねてハートディスクまでハイクオリティなムービーで埋めてよ
また死んでるアート・アズ・アート商品性に負けたんでしょうと嘲笑う街

(さらに五首)
簡単じゃないときもある親切じゃないときもあるそういう感じ
マジキモいってことは知ってるけど君が欲しいとか俺死ね♡♡♡俺うぜえ♡♡♡
Re:Re:メール末尾の―END―が君からの本文よりも切なく光る
あなたには無意味でも僕には強く響いたのです 強く強く強く
君が好きといった少女コミックの中では君が恋をしていた
2009/06/08 15:16

ゆるりさんのコメント...
ゆるりです。炬燵さんの感想。堅い文じゃないのに、すごくうまいなぁといつも思います。今回の歌は今まで出していた歌よりリアルな感じで、胸にドンとくるような不思議な説得力を受けます。パヴァーヌとかのふわふわしたパステルカラーのような作風もかわいいけど、こっちはこっちで好きです。恥ずかしいんですが、Re:ってどう読めばいいんでしょう?いつもわからないのです。小田和正の歌にも「Re:」って歌があるのですが。次の歌も楽しみにしています。
2009/06/08 18:28

炬燵さんのコメント...
炬燵です。ゆるりさんからの感想。お褒めの言葉、嬉しいです。いやあ、これはなかなか嬉しいものですね。Re:についてはWikipediaで詳述されています(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%94%E4%BF%A1)が、個人的には「リ」です。リプライの「リ」。ついでにですが「JPEG」は「ジェイペグ」ですね。ところで「今回の歌」というと(再掲)の五首と(さらに)の五首のどちらでしょう。両方なのか、後者のみなのか。前者と後者では、テーマというか方向性を変えました。というか、今までも大体そんな風に五首(一回の投稿)ごとに変えていたりします。そういえば参加者の中では大沼さんが毎回テーマをさだめて詠んでいますね。大沼さんの「その音楽に寄せるうた七首」が好きなので、このテーマ、もう一回やってほしいな、なんて。音楽や文芸、サブカルチャーについての歌もありですよね、勿論。せっかく表現芸術系専修に通う若い感性が集まっているんですから、もっともっと表現や作品にまつわるうたがあるといいなと思っています。
2009/06/08 22:03

ゆるりさんのコメント...
またまたゆるりです。こんなに書き込みしてたら、暇人てことがバレバレですが・・・炬燵さんへの返事。「今回の歌」というのは、アバウトに両方の意味で書きましたが、よくよく考えたら後者の歌で「リアルだなぁ。」と思った気がします。私が音楽や精密機械系に疎いもんで、前者は難しかったのです・・・たしかに、作品などにまつわる歌面白そうですね。近いうち作れたらと思います。
2009/06/08 22:48

大沼貴英さんのコメント...
同じく暇人の大沼です。 
>炬燵さん  ありがとうございます。個人的に、今回の「その音楽~」は「深夜特急~」以来の手応えがあったので、嬉しい限りです。 さて、炬燵さん今週の二首目「マジキモい~」がぶっ飛んでいて、とりわけ印象に残りました。それでいて自虐に走る自分を言わばテンプレ化して(俺死ねwww俺うぜえwwwというのは、ネット上でよく見かける言い回しですよね。そのwをハートマークにしたのも面白い!)どこか冷めた目で客観視しているところもニクいですね(的外れだったらすいません)。 それでは、リクエストにお応えして(?)来週もテーマ「音楽」で詠んでみようと思います。今度は表現や作品にまつわる歌も多く取り入れてみたいなと。これまでも、はっぴいえんど『風をあつめて』とか、ちょくちょく出してはいたんですけどね。 
>ゆるりさん  じつは、今週の拙作「その音楽~」は、ゆるりさんの短歌「ご近所のオヤジもキミもそうですがどうして人は風呂で歌うの」がきっかけで詠み始めたんです。「どうして」に答えようとしたわけで、あるいは返歌と呼べるのかもしれません。 ここに投稿される歌に対して、返歌を詠むってのもなんだか面白そうですね。 
>叉旅猫目さん 「1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意」を、何と言ったらいいのか、怖ろしさ(?)、悲しさ(?)を感じながら読みました。1995年って、たしか阪神大震災があった年ですよね。当時、俺は静岡に住んでいたのでニュースで見知っただけでしたが、それでも言い知れない戦慄を感じたものでした。あのとき思い描いた被災地の情景を、この歌は追体験させてくれたような気がします。 先生は「読者の意識のなかに、なにかをたなびかせてくれない」と仰っていましたが、俺には何かが「たなびいた」ような気がします。それはもしかしたら、1995年というどこか閉塞した年に(サリン事件も起きました)幼少時代を過ごしていたという同時代性にも因るのかもしれません。 と、勝手に解釈してみましたが、ぜんぜん的を射ていなかったならごめんなさい。
2009/06/09 0:48

炬燵さんのコメント...
夜更かし中の炬燵です。……明日バイトなのに早く寝ろ俺。大沼さんからもコメントをいただいた! 嬉しい!そうそう、その歌はもともと「www」で書いたんです。でもなんかつまらないなと思って、ケータイの絵文字の「ハート」にかえまして(実はケータイで短歌作ったりしてます)、ただここに投稿するのにケータイ絵文字が使えなかったので、機種依存文字ですが無理やりハートをいれました。あ、先生、印刷するときに困ったりしたらごめんなさい。横文字も縦書きに印刷するとき戸惑いそうだなー。そうそう、叉旅猫目さんの「1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意」は大変カッコイイですよね。時代性を感じる歌が僕は好きで、なので大沼さんの「アイポッド」もいやあこれはいいなと思ったりしたのですが(しかし個人的にはiPodと表記したく僕なら音も2音か3音扱いにしたい)、この「1995年」というフレーズチョイスはいいですよね。「せん・きゅー・ひゃく/きゅー・じゅー・ごねんの」というリズムが五・七にハマった途端にこの歌は完成したんじゃないかな。それに加えて、こういう「数字が意味を持つ」フレーズというのが僕は好きなんです。ゆるりさんの「11時汗の匂いのするスーツ脱いでそのまま翌日の朝」が好きなんですが、最後が「翌朝7時」とかになっていたらさらに僕の好みなんです。これは好みの問題なんですけど。あと霧島六さんの「バルコニーに誰の涙か五月雨のピリオド一つ、二つ、三つ四つ」。これ、他の霧島さんの歌となんだかひとつだけ毛色が違うような気がするんですが、僕はこれすごく好みです。1,2,3,4という規則的なカウントアップも楽しいんですけど、1,3,7,8みたいにずらすのも面白そうです。そういえば先日の授業で、澁谷美香さんの歌だったかな、漢数字とアラビア数字の表現の問題が取り上げられましたが、僕はアラビア数字を効果的に扱うフレーズが好きです。「1995年」も「一九九五年」だとツマンナイですよね。ちなみに大沼さんが実は結構数字の入った歌を読んでるんですが、彼は全部漢数字。大沼さんは漢数字が好きなんだろうなあ。
2009/06/09 2:08

空目さんのコメント...
こんにちわ、空目です。
まずは、自分の歌を。
指先にちょこんと触れるそれだけの熱で伝わるみっつめの欲
来年の今日も一緒にいられるように君の手帳に書き込んでおく
好きだから好きなのになぜ好きかしら 言葉遊びか恋の遊びか

みなさんが盛り上がってるのでちょっと参戦。炬燵さんがいう数字の面白さは、すごく共感できます!例えば数字だったり例えば炬燵さんのRe:や-END-だったりといった「音がはまったから出来ちゃった」(といったら誤解を招きそうですね、ごめんなさい)でもそんな音の感覚から作れるのが短歌ならではかなーと思います。逆に、まあるさんみたいな音を切り取ってるような歌も好きですが。短歌の前後にまだなにかがありそうな気がして気になってしまいます。
2009/06/09 12:28



◆ 石川啄木(いしかわ たくぼく 1886-1912)の歌43首+歌論抄 ◆


東海の小島の磯の白砂に          たらけど
われ泣きぬれて                はたらけど猶わが生活楽にならざり
蟹とたはむる                  ぢつと手を見る 

いのちなき砂のかなしさよ          打明けて語りて
さらさらと                    何か損をせしごとく思ひて
握れば指のあひだより落つ         友とわかれぬ

たはむれに母を背負ひて           死にたくてならぬ時あり 
そのあまり軽きに泣きて            はばかりに人目を避けて 
三歩あゆまず                  怖き顔する

いと暗き                      ある日のこと
穴に心を吸われゆくごとく思ひて        室の障子をはりかへぬ
つかれて眠る                   その日はそれにて心なごみき

いつも逢ふ電車の中の小男の         うすみどり
稜ある眼                      飲めば身体が水のごと透きとほるてふ
このごろ気になる                 薬はなきか

空家に入り                    人間のつかはぬ言葉
煙草のみたることありき             ひよつとして 
あはれただ一人居たきばかりに        われのみ知れるごとく思ふ日

やはらかに積れる雪に              友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
熱てる頬を埋むるごとき             花を買ひ来て
恋してみたし                    妻としたしむ

手も足も                       人がみな家を持つてふかなしみよ
室いつぱいに投げ出して             墓に入るごとく   
やがて静かに起きかへるかな          かへりて眠る

非凡なる人のごとくにふるまへる        人といふ人のこころに
後のさびしさは                   一人づつ囚人がゐて
何にかたぐへむ                  うめくかなしさ

一度でも我に頭を下げさせし         不来方のお城の草に寝ころびて
人みな死ねと                  空に吸われし
いのりてしこと                  十五の心   

誰が見てもとりどころなき男来て       学校の図書庫の裏の秋の草
威張りて帰りぬ                 黄なる花咲きし
かなしくもあるか                今も名知らず

夏休み果ててそのまま             汽車の旅
帰り来ぬ                     とある野中の停車場の    
若き英語の教師もありき           夏草の香のなつかしかりき

わがこころ                    人がみな
けふもひそかに泣かむとす          同じ方角に向いて行く。 
友みな己が道をあゆめり           それを横より見てゐる心。

ふるさとの訛なつかし              その親にも、
停車場の人ごみの中に             親の親にも似るなかれ――
そを聴きにゆく                  かく汝が父は思へるぞ、子よ。

かにかくに渋民村は恋しかり         猫を飼はば、
おもひでの山                  その猫がまた争ひの種となるらむ、
おもひでの川                   かなしきわが家。

やはらかに柳あをめる            ただ一人の
北上の岸辺目に見ゆ             をとこの子なる我はかく育てり。
泣けとごとくに                  父母もかなしかるらむ。

馬鈴薯のうす紫の花に降る          こみ合へる電車の隅に
雨を思へり                    ちぢこまる
都の雨に                     ゆふべゆふべの我のいとしさ

ふるさとの山に向ひて             こころよく
言ふことなし                   我にはたらく仕事あれ
ふるさとの山はありがたきかな        それを仕遂げて死なむと思ふ

雨に濡れし夜汽車の窓に           何もかも行末の事みゆるごとき
映りたる                     このかなしみは
山間の町のともしびの色           拭ひあへずも

札幌に                      水晶の玉をよろこびもてあそぶ
かの秋われの持てゆきし           わがこの心
しかして今も持てるかなしみ          何の心ぞ

子を負ひて
雪の吹き入る停車場に
われ見送りし妻の眉かな

さいはての駅に下り立ち
雪あかり
さびしき町にあゆみは入りにき

ゆゑもなく海が見たくて
海に来ぬ
こころ傷みてたへがたき日に


(参考)石川啄木詩論
 人は歌の形は小さくて不便だといふが、おれは小さいから却つて便利だと思つてゐる。さうぢやないか。人は誰でも、その時が過ぎてしまへば間もなく忘れるやうな、乃至は長く忘れずにゐるにしても、それを思ひ出すには余り接穂がなくてとうとう一生思ひ出さずにしまふといふやうな、内から外からの数限りなき感じを、後から後からと常に経験してゐる。多くの人はそれを軽蔑してゐる。軽蔑しないまでも殆ど無関心にエスケープしてゐる。しかしいのちを愛する者はそれを軽蔑することが出来ない。(…)
さうさ。一生に二度とは帰つて来ないいのちの一秒だ。おれはその一秒がいとしい。たゞ逃がしてやりたくない。それを現すには、形が小さくて、手間暇のいらない歌が一番便利なのだ。実際便利だからね。歌といふ詩形を持つてるといふことは、我我日本人の少ししか持たない幸福のうちの一つだよ。(…)おれはいのちを愛するから歌を作る。おれ自身が何よりも可愛いから歌を作る。
 (「一利己主義者と友人との対話」)

おれは初めから歌に全生命を託さうと思つたことなんかない。(…)何にだつて全生命を託することが出来るもんか。(…)おれはおれを愛してはゐるが、其のおれだつてあまり信用してはゐない。
 (「一利己主義者と友人との対話」)

 (食ふべき詩と)謂ふ心は、両足を地面(じべた)に喰つ付けてゐて歌ふ詩といふ事である。実人生と何等の間隔なき心持を以て歌ふ詩といふ事である。珍味乃至は御馳走ではなく、我々の日常の食事の香の物の如く、然く我々に「必要」な詩といふ事である。
 (「食ふべき詩」)


 すべて詩の為に詩を書く種類の詩人は極力排斥すべきである。無論詩を書くといふ事は何人にあつても「天職」であるべき理由がない。「我は詩人なり」といふ不必要な自覚が、如何に従来の詩を堕落せしめたか。
(「食ふべき詩」)

 詩は所謂詩であつては可けない。人間の感情生活の変化の厳密なる報告、正直なる日記でなければならぬ。従つて断片的でなければならぬ。
(「食ふべき詩」)

 我々の要求する詩は、現在の日本に生活し、現在の日本語を用ひ、現在の日本を了解してゐるところの日本人に依手歌はれた詩でなければならぬといふことである。
(「食ふべき詩」)

2009年6月8日月曜日

第5・6週目制作  5月20日から6月2日までの提出作品(2週間分)

 6月2日に教室で検討した提出作品です。4月から始めて、まだ2か月ほどですが、面白い作品が増えてきました。何年やっていても、このぐらいの歌も作れない人たちも、じつはいっぱいいるものです。いい歌や、傑作もありますね。ずっと作り続けていったら、この教室から何人も歌人が出るかもしれません。問題なのは、継続ということ。続けるかどうか、です。何事も。

霧島六
這う虫を信号待ちに哀れみてやはり轢かれて鯨幕かな
この口は何であろうか欠伸して我が生活圏人のいぬまま
バルコニーに誰の涙か五月雨のピリオド一つ、二つ、三つ四つ
我が部屋の小国家なる混沌に窓を放てば神の嘆息
思ひ出を売れば幾ばくなろうかと全財産百五十円也
屹然たる戸山の裏手の研究所パンデミックの威圧的様

ゆるり
踏み切りを転がるようにかけた夜あの日だけ君は恋人だった
あの日から寝ても冷めても胃を焦がすように痛むか失った愛
桃色のロングヘアーのダンサーは汗すら舞台衣装のようで
雨の日に狂おしく咲くツツジ花一斉にじっと我を見ている
ペディキュアのきらめく五月に手を振って梅雨のストーブを準備する夜
あの人は譲っちゃだめよと私に言う恋愛上手なアラ還の美女                      
                            ↑(アラ還=アラウンド還暦)
東西につながる窓の道を吹く風が涼やか夕方の居間
全身を蟻が這い上がるのに似た絶望が今傍らに居る
壁越しに伝わる夜の雨音を強く激しく抱いて朝まで
脳内にいつかの声がこだまする。あの子は今は元気でいるか

大沼貴英
眼鏡の君に寄せるうた六首
箱入りの看板娘、眼鏡屋の 眼鏡屋なのに盲目なんて
輪郭をひと撫で、あとは無駄話それで見立ては完璧な君
評判は良いのに当の本人は瓶底眼鏡、ずり落ちている
唯一の趣味はラジオ、ただ聴いているだけで完コピ、歌はプロ級
「どうしたらそんなに上手く歌えるの?」「普通に呼吸するのと同じ」
「産声をあげた昔に戻るだけ、私は筒であなたは水面」

空目
図書館で5月の陽だまり集めたようなあなたが私の初恋でした
清楚なる微笑みまるですみれ花つよき乙女は野道に咲くのか
物語食べちゃいたいほど愛してるあなたはそうだ文学少女
好きと言うならば殺したいほど焦がれてよ君は俺のサロメでしょうか

時間
五七五五七五五七五七五七七頭の中は俳句のことでいっぱい

まある
ひだり前ぬすみ見ている君の肩 ふと目があうことを切望している
好い声 耳は澄む ため息もひろえる 君は、遠くにありて聴くモノ
雷鳴に怯むないざ行け走れ 帰る部屋に灯はないのだ
きしむ手指は金平糖のような痛み 夏の白昼夢 水追いに溶けい

柏の葉公園
すっぴんを可愛いという君は近視がすすんで盲目ですね。
「じゅーろっこ。顔のほくろを数えてみました。」君嫌がることやりたがる私
ボルビッククリスタルガイザービッテルどれにも負ないじいちゃんちの水
青い筋ボーダー見ていて頭痛したそんな近くに寄ってこないでよ
ぐうの音も出ないと先生言うけれどおなか鳴ります鳴りやむまでは

本間武士
金曜日ぶつかり合った傘と傘笑いかけても顔すら見えず
月曜日ぶつかりあった傘と傘睨み付けても顔すら見えず
日曜日昼か夜かもわからずに荒いすりガラス遮光カーテン
お世辞だとわかっているのについ笑顔何回言ったの素敵な顔ね
お花見と言いつつ枝は緑一色過ごした時だけ何も変わらず
今日だけは渋滞さえも流れ星飛び込んでみた高速道路
押入れにしまったテレビ置くラジオただ声だけを聞いていたくて
帰ろうかそんな空気の三人組ここに自分をもひとり足せたら
捨てたらどう 守るためには今日とて分別憂鬱な声背で受けながら
なぜ走るただ立ち止まる日を追い続け岩流の荒野吐く息は黒く

ゆるり
君んちのプラスチックの急須には安い煎茶の平穏な味
スルスルと体に流れる鉄の音わずかに聞いた貧血の午後
サランへヨ。カムサハムニダ。チャン・ドンゴン。婆ちゃんに来た遅い春
11時汗の匂いのするスーツ脱いでそのまま翌日の朝
燃え尽きた蛍は塵になるのだろう疲れた胸がそっと呟く
藍色の空に浮かんだあの月のうさぎはいまだうさぎに見えず
半べそでギター抱えた弟よいいではないか歌え歌えよ
面白い?ねぇ面白い?と監視する君がそんなじゃ漫画も読めん

大沼貴英
鉄道の旅に寄せるうた七首
満員の急停車「窓、開けてくれ」叫ぶ親爺に「はめ殺しです」
どの海を荒川線は渡るのか聴きつつ想う、はっぴいえんど
宇都宮‐湘南つなぐ快速が浦和駅前高架上、飛ぶ
朝五時に十八きっぷ切りまして午後五時、黄金の瀬戸内海
土讃線「おおぼけ」「こぼけ」「ごめん」駅、余所者だけが珍しがる名
一両のワンマン運転オーバーラン、のっそり行き来する運転手
左手に時刻表、右手には傷、スケボー抱え舟こぐ少女

叉旅猫目
キスしたらかちりと何か音がしてこれは始まり?何かの終わり?
復活の呪文が思い出せませんプラスチックで出来ていたのに
人を刺すためのナイフはこちらです可愛く包んで差し上げますね
夏服の透ける背中を目でなぞるノストラダムスよ力を貸せよ
夜が明けてキオスクで触れる指先が失くした温度を思い出してる

まある
あなたの頭蓋骨きれい、目蓋、奥歯 てのひらの恋 まどのそと、あめ
言葉などいらない愛を最上と呼ばないで 背に呟くは、
現実は換気扇の音まわる山手線 立ちくらむ青
海抱かぬ大地に生まれ夢中に水の中をえがく いま日々生きる

匿名
ひとあし、
くずのはひらり
ふたあし、
くずのははらり
ああここはそら

ざわ、ざわ
澄んだお空が
さしこんだ
あるくちおしさ
こみあげてくる

だそうとも
いでこれずもの
然れども
にじみでるもの
ここにありや

わだかまり
はじけずとも、
くすぶるは
いつぞのいかり
あまたのおもい

土塊をほじくり
ふれる
かわいてる
貸し出す先も
枯れた土地なら

現れる
限界集落
次々と
ここは都か
姥捨て山か

ひしめいて
ぎゅうぎゅうと
風の音
おきなとおうな

たからかに
弱きをまもれ
うっかりと
よわきてのひら
ふみつける

転ぶちご
しかるははおや
おにのよう
ちごはしらずや
あいされている

きず滲む
つーっつーっと
こぼれおつ
ゆれるひだまり
うつるすがたは

やわらかな
まなざしといき
なでるよう
からめとられて
かせかきずなか

ひとり住む
四割こえた
ここはどこ
ここはうつつよ
こことうきょう

いつのよも
かたりつがれる
おやばなれ
まちどうしいな
しんやくエヴァ

ちごのかず
ペットのほうが
あまたをる
ちごに取立て
けもの払えず

たまごの値
ふつふつあがり
かすみたつ
デフレのさなか
ぶきみさかすむ

日たかだか
あかりあふれて
線消して。
ひかげ褪せゆく
こわい、こわい

ふとみると
異形の姿
ざら、ざら
べたりごつごつ
ハハこれわたし

父はよく
痛い痛いと
囁いて
こもれびのよう
かげふむわたし

大樹の
しなりぐあいが
まるでそう
父の腰沿う
かたちのようで

ハァハァァ
キュるるぐぐぐ
おいおまえ!
はぁなんだって?
え・・めしまだ!

かなしみが
その身を焦がし
やきつくす
燃えゆく瞳
眼そらせなくて

かわいそう
ことばあふれて
わずかだけ
なにもできない
わすれないひと