6月2日に教室で検討した提出作品です。4月から始めて、まだ2か月ほどですが、面白い作品が増えてきました。何年やっていても、このぐらいの歌も作れない人たちも、じつはいっぱいいるものです。いい歌や、傑作もありますね。ずっと作り続けていったら、この教室から何人も歌人が出るかもしれません。問題なのは、継続ということ。続けるかどうか、です。何事も。
霧島六
這う虫を信号待ちに哀れみてやはり轢かれて鯨幕かな
この口は何であろうか欠伸して我が生活圏人のいぬまま
バルコニーに誰の涙か五月雨のピリオド一つ、二つ、三つ四つ
我が部屋の小国家なる混沌に窓を放てば神の嘆息
思ひ出を売れば幾ばくなろうかと全財産百五十円也
屹然たる戸山の裏手の研究所パンデミックの威圧的様
ゆるり
踏み切りを転がるようにかけた夜あの日だけ君は恋人だった
あの日から寝ても冷めても胃を焦がすように痛むか失った愛
桃色のロングヘアーのダンサーは汗すら舞台衣装のようで
雨の日に狂おしく咲くツツジ花一斉にじっと我を見ている
ペディキュアのきらめく五月に手を振って梅雨のストーブを準備する夜
あの人は譲っちゃだめよと私に言う恋愛上手なアラ還の美女
↑(アラ還=アラウンド還暦)
東西につながる窓の道を吹く風が涼やか夕方の居間
全身を蟻が這い上がるのに似た絶望が今傍らに居る
壁越しに伝わる夜の雨音を強く激しく抱いて朝まで
脳内にいつかの声がこだまする。あの子は今は元気でいるか
大沼貴英
眼鏡の君に寄せるうた六首
箱入りの看板娘、眼鏡屋の 眼鏡屋なのに盲目なんて
輪郭をひと撫で、あとは無駄話それで見立ては完璧な君
評判は良いのに当の本人は瓶底眼鏡、ずり落ちている
唯一の趣味はラジオ、ただ聴いているだけで完コピ、歌はプロ級
「どうしたらそんなに上手く歌えるの?」「普通に呼吸するのと同じ」
「産声をあげた昔に戻るだけ、私は筒であなたは水面」
空目
図書館で5月の陽だまり集めたようなあなたが私の初恋でした
清楚なる微笑みまるですみれ花つよき乙女は野道に咲くのか
物語食べちゃいたいほど愛してるあなたはそうだ文学少女
好きと言うならば殺したいほど焦がれてよ君は俺のサロメでしょうか
時間
五七五五七五五七五七五七七頭の中は俳句のことでいっぱい
まある
ひだり前ぬすみ見ている君の肩 ふと目があうことを切望している
好い声 耳は澄む ため息もひろえる 君は、遠くにありて聴くモノ
雷鳴に怯むないざ行け走れ 帰る部屋に灯はないのだ
きしむ手指は金平糖のような痛み 夏の白昼夢 水追いに溶けいる
柏の葉公園
すっぴんを可愛いという君は近視がすすんで盲目ですね。
「じゅーろっこ。顔のほくろを数えてみました。」君嫌がることやりたがる私
ボルビッククリスタルガイザービッテルどれにも負ないじいちゃんちの水
青い筋ボーダー見ていて頭痛したそんな近くに寄ってこないでよ
ぐうの音も出ないと先生言うけれどおなか鳴ります鳴りやむまでは
本間武士
金曜日ぶつかり合った傘と傘笑いかけても顔すら見えず
月曜日ぶつかりあった傘と傘睨み付けても顔すら見えず
日曜日昼か夜かもわからずに荒いすりガラス遮光カーテン
お世辞だとわかっているのについ笑顔何回言ったの素敵な顔ね
お花見と言いつつ枝は緑一色過ごした時だけ何も変わらず
今日だけは渋滞さえも流れ星飛び込んでみた高速道路
押入れにしまったテレビ置くラジオただ声だけを聞いていたくて
帰ろうかそんな空気の三人組ここに自分をもひとり足せたら
捨てたらどう 守るためには今日とて分別憂鬱な声背で受けながら
なぜ走るただ立ち止まる日を追い続け岩流の荒野吐く息は黒く
ゆるり
君んちのプラスチックの急須には安い煎茶の平穏な味
スルスルと体に流れる鉄の音わずかに聞いた貧血の午後
サランへヨ。カムサハムニダ。チャン・ドンゴン。婆ちゃんに来た遅い春
11時汗の匂いのするスーツ脱いでそのまま翌日の朝
燃え尽きた蛍は塵になるのだろう疲れた胸がそっと呟く
藍色の空に浮かんだあの月のうさぎはいまだうさぎに見えず
半べそでギター抱えた弟よいいではないか歌え歌えよ
面白い?ねぇ面白い?と監視する君がそんなじゃ漫画も読めん
大沼貴英
鉄道の旅に寄せるうた七首
満員の急停車「窓、開けてくれ」叫ぶ親爺に「はめ殺しです」
どの海を荒川線は渡るのか聴きつつ想う、はっぴいえんど
宇都宮‐湘南つなぐ快速が浦和駅前高架上、飛ぶ
朝五時に十八きっぷ切りまして午後五時、黄金の瀬戸内海
土讃線「おおぼけ」「こぼけ」「ごめん」駅、余所者だけが珍しがる名
一両のワンマン運転オーバーラン、のっそり行き来する運転手
左手に時刻表、右手には傷、スケボー抱え舟こぐ少女
叉旅猫目
キスしたらかちりと何か音がしてこれは始まり?何かの終わり?
復活の呪文が思い出せませんプラスチックで出来ていたのに
人を刺すためのナイフはこちらです可愛く包んで差し上げますね
夏服の透ける背中を目でなぞるノストラダムスよ力を貸せよ
夜が明けてキオスクで触れる指先が失くした温度を思い出してる
まある
あなたの頭蓋骨きれい、目蓋、奥歯 てのひらの恋 まどのそと、あめ
言葉などいらない愛を最上と呼ばないで 背に呟くは、
現実は換気扇の音まわる山手線 立ちくらむ青
海抱かぬ大地に生まれ夢中に水の中をえがく いま日々生きる
匿名
ひとあし、
くずのはひらり
ふたあし、
くずのははらり
ああここはそら
ざわ、ざわ
澄んだお空が
さしこんだ
あるくちおしさ
こみあげてくる
だそうとも
いでこれずもの
然れども
にじみでるもの
ここにありや
わだかまり
はじけずとも、
くすぶるは
いつぞのいかり
あまたのおもい
土塊をほじくり
ふれる
かわいてる
貸し出す先も
枯れた土地なら
現れる
限界集落
次々と
ここは都か
姥捨て山か
ひしめいて
ぎゅうぎゅうと
風の音
おきなとおうな
たからかに
弱きをまもれ
うっかりと
よわきてのひら
ふみつける
転ぶちご
しかるははおや
おにのよう
ちごはしらずや
あいされている
きず滲む
つーっつーっと
こぼれおつ
ゆれるひだまり
うつるすがたは
やわらかな
まなざしといき
なでるよう
からめとられて
かせかきずなか
ひとり住む
四割こえた
ここはどこ
ここはうつつよ
こことうきょう
いつのよも
かたりつがれる
おやばなれ
まちどうしいな
しんやくエヴァ
ちごのかず
ペットのほうが
あまたをる
ちごに取立て
けもの払えず
たまごの値
ふつふつあがり
かすみたつ
デフレのさなか
ぶきみさかすむ
日たかだか
あかりあふれて
線消して。
ひかげ褪せゆく
こわい、こわい
ふとみると
異形の姿
ざら、ざら
べたりごつごつ
ハハこれわたし
父はよく
痛い痛いと
囁いて
こもれびのよう
かげふむわたし
大樹の
しなりぐあいが
まるでそう
父の腰沿う
かたちのようで
ハァハァァ
キュるるぐぐぐ
おいおまえ!
はぁなんだって?
え・・めしまだ!
かなしみが
その身を焦がし
やきつくす
燃えゆく瞳
眼そらせなくて
かわいそう
ことばあふれて
わずかだけ
なにもできない
わすれないひと
2009年6月8日月曜日
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炬燵です。
返信削除前回はうっかり1週前のエントリにレスをしてしまっていたようです。五首再掲とともに、新たに五首詠みます。
(再掲分)
レプリカのエレクトロニカ聴き飽いてSHIBUYA-TSUTAYAでケッヘル番号(ナンバー)
自動的にビターヴァレーをゆれるきみJPEGにとじこめておいてよ
どうやったところで結局埋め尽くすオブセッションオブセッションオブセッションオブセッション
嘘に嘘を重ねてハートディスクまでハイクオリティなムービーで埋めてよ
また死んでるアート・アズ・アート商品性に負けたんでしょうと嘲笑う街
(さらに五首)
簡単じゃないときもある親切じゃないときもあるそういう感じ
マジキモいってことは知ってるけど君が欲しいとか俺死ね♡♡♡俺うぜえ♡♡♡
Re:Re:メール末尾の―END―が君からの本文よりも切なく光る
あなたには無意味でも僕には強く響いたのです 強く強く強く
君が好きといった少女コミックの中では君が恋をしていた
ゆるりです。
返信削除炬燵さんの感想。
堅い文じゃないのに、すごくうまいなぁといつも思います。
今回の歌は今まで出していた歌よりリアルな感じで、胸にドンとくるような不思議な説得力を受けます。
パヴァーヌとかのふわふわしたパステルカラーのような作風もかわいいけど、こっちはこっちで好きです。
恥ずかしいんですが、Re:ってどう読めばいいんでしょう?いつもわからないのです。小田和正の歌にも「Re:」って歌があるのですが。
次の歌も楽しみにしています。
炬燵です。
返信削除ゆるりさんからの感想。
お褒めの言葉、嬉しいです。
いやあ、これはなかなか嬉しいものですね。
Re:についてはWikipediaで詳述されています(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%94%E4%BF%A1)が、個人的には「リ」です。リプライの「リ」。
ついでにですが「JPEG」は「ジェイペグ」ですね。
ところで「今回の歌」というと(再掲)の五首と(さらに)の五首のどちらでしょう。
両方なのか、後者のみなのか。
前者と後者では、テーマというか方向性を変えました。
というか、今までも大体そんな風に五首(一回の投稿)ごとに変えていたりします。
そういえば参加者の中では大沼さんが毎回テーマをさだめて詠んでいますね。
大沼さんの「その音楽に寄せるうた七首」が好きなので、このテーマ、もう一回やってほしいな、なんて。
音楽や文芸、サブカルチャーについての歌もありですよね、勿論。
せっかく表現芸術系専修に通う若い感性が集まっているんですから、もっともっと表現や作品にまつわるうたがあるといいなと思っています。
またまたゆるりです。
返信削除こんなに書き込みしてたら、暇人てことがバレバレですが・・・
炬燵さんへの返事。
「今回の歌」というのは、アバウトに両方の意味で書きましたが、よくよく考えたら後者の歌で「リアルだなぁ。」と思った気がします。私が音楽や精密機械系に疎いもんで、前者は難しかったのです・・・
たしかに、作品などにまつわる歌面白そうですね。
近いうち作れたらと思います。
同じく暇人の大沼です。
返信削除>炬燵さん
ありがとうございます。個人的に、今回の「その音楽~」は「深夜特急~」以来の手応えがあったので、嬉しい限りです。
さて、炬燵さん今週の二首目「マジキモい~」がぶっ飛んでいて、とりわけ印象に残りました。それでいて自虐に走る自分を言わばテンプレ化して(俺死ねwww俺うぜえwwwというのは、ネット上でよく見かける言い回しですよね。そのwをハートマークにしたのも面白い!)どこか冷めた目で客観視しているところもニクいですね(的外れだったらすいません)。
それでは、リクエストにお応えして(?)来週もテーマ「音楽」で詠んでみようと思います。今度は表現や作品にまつわる歌も多く取り入れてみたいなと。これまでも、はっぴいえんど『風をあつめて』とか、ちょくちょく出してはいたんですけどね。
>ゆるりさん
じつは、今週の拙作「その音楽~」は、ゆるりさんの短歌「ご近所のオヤジもキミもそうですがどうして人は風呂で歌うの」がきっかけで詠み始めたんです。「どうして」に答えようとしたわけで、あるいは返歌と呼べるのかもしれません。
ここに投稿される歌に対して、返歌を詠むってのもなんだか面白そうですね。
>叉旅猫目さん
「1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意」を、何と言ったらいいのか、怖ろしさ(?)、悲しさ(?)を感じながら読みました。1995年って、たしか阪神大震災があった年ですよね。当時、俺は静岡に住んでいたのでニュースで見知っただけでしたが、それでも言い知れない戦慄を感じたものでした。あのとき思い描いた被災地の情景を、この歌は追体験させてくれたような気がします。
先生は「読者の意識のなかに、なにかをたなびかせてくれない」と仰っていましたが、俺には何かが「たなびいた」ような気がします。それはもしかしたら、1995年というどこか閉塞した年に(サリン事件も起きました)幼少時代を過ごしていたという同時代性にも因るのかもしれません。
と、勝手に解釈してみましたが、ぜんぜん的を射ていなかったならごめんなさい。
夜更かし中の炬燵です。
返信削除……明日バイトなのに早く寝ろ俺。
大沼さんからもコメントをいただいた! 嬉しい!
そうそう、その歌はもともと「www」で書いたんです。
でもなんかつまらないなと思って、ケータイの絵文字の「ハート」にかえまして(実はケータイで短歌作ったりしてます)、ただここに投稿するのにケータイ絵文字が使えなかったので、機種依存文字ですが無理やりハートをいれました。
あ、先生、印刷するときに困ったりしたらごめんなさい。
横文字も縦書きに印刷するとき戸惑いそうだなー。
そうそう、叉旅猫目さんの「1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意」は大変カッコイイですよね。
時代性を感じる歌が僕は好きで、なので大沼さんの「アイポッド」もいやあこれはいいなと思ったりしたのですが(しかし個人的にはiPodと表記したく僕なら音も2音か3音扱いにしたい)、この「1995年」というフレーズチョイスはいいですよね。
「せん・きゅー・ひゃく/きゅー・じゅー・ごねんの」というリズムが五・七にハマった途端にこの歌は完成したんじゃないかな。
それに加えて、こういう「数字が意味を持つ」フレーズというのが僕は好きなんです。
ゆるりさんの「11時汗の匂いのするスーツ脱いでそのまま翌日の朝」が好きなんですが、最後が「翌朝7時」とかになっていたらさらに僕の好みなんです。これは好みの問題なんですけど。
あと霧島六さんの「バルコニーに誰の涙か五月雨のピリオド一つ、二つ、三つ四つ」。これ、他の霧島さんの歌となんだかひとつだけ毛色が違うような気がするんですが、僕はこれすごく好みです。1,2,3,4という規則的なカウントアップも楽しいんですけど、1,3,7,8みたいにずらすのも面白そうです。
そういえば先日の授業で、澁谷美香さんの歌だったかな、漢数字とアラビア数字の表現の問題が取り上げられましたが、僕はアラビア数字を効果的に扱うフレーズが好きです。「1995年」も「一九九五年」だとツマンナイですよね。
ちなみに大沼さんが実は結構数字の入った歌を読んでるんですが、彼は全部漢数字。大沼さんは漢数字が好きなんだろうなあ。
こんにちわ、空目です。
返信削除まずは、自分の歌を。
指先にちょこんと触れるそれだけの熱で伝わるみっつめの欲
来年の今日も一緒にいられるように君の手帳に書き込んでおく
好きだから好きなのになぜ好きかしら 言葉遊びか恋の遊びか
みなさんが盛り上がってるのでちょっと参戦。
炬燵さんがいう数字の面白さは、すごく共感できます!
例えば数字だったり例えば炬燵さんのRe:や-END-だったりといった
「音がはまったから出来ちゃった」
(といったら誤解を招きそうですね、ごめんなさい)
でもそんな音の感覚から作れるのが短歌ならではかなーと思います。
逆に、まあるさんみたいな音を切り取ってるような歌も好きですが。
短歌の前後にまだなにかがありそうな気がして気になってしまいます。
>炬燵さん
返信削除俺もほとんどの短歌はケータイで作ってますよ。ごくたまに手書きでも書きますけど。たしか公園の短歌は手書きでした。
いずれにせよ俺は縦書きになったところを意識して書いているので、基本的に数字は漢数字、短い横文字はカタカナになります(長い曲名『恋とは何でしょう?』はローマ字で付記しましたが)。もともと漢数字が好きっていうのも確かにありますが(^^;)、どちらかというと縦書きにしたとき映えるからという理由に大きく因っています。もともと小説を書いてきたからでしょうかね?
とはいえ、漢数字やカタカナだとどうしても堅さが出てしまうので、現代的な柔らかさ、軽妙さを出しづらいのが悩みです。アイポッドも、じつは最初ケータイ上では「iPod」と表記したんです。それを、考え直して「アイポッド」で行こうと。難しいところですね。
ぎりぎりですが投稿します。今週はなんか色々あってストレスが溜まっていたのでそのイライラを短歌で吐き出してみました。でも短歌というよりほとんど日記になってしまいました。日記だけどフィクションもアリです。勢いで書きなぐった感じです。
返信削除六月二日 「みにきてよ」もらったライブのチケットは鞄の底でくしゃくしゃにする
六月三日 オツカレサマ 形式だけの言葉しか言えない私はファービー以下
六月四日 相手の立場考えないで行動する17才など卒業しました
六月五日 カレーがね、作りすぎててあまってて…ハートを盗む泥棒のはじまり
六月六日 弾くたび埃舞い散るレスポール 削れてくプレゼントだったピック
六月七日 添削済みおたおめメール 先生いわく1日遅れがミソらしい
六月八日 本当はお金も時間もあったのに チキンは当分肉食になれず