4月14日に教室で鑑賞した歌を載せておきます。
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◆ 斎藤茂吉 (さいとうもきち) 1882~1951 ◆
しろがねの雪ふる山に人かよふ細ほそとして路見ゆるかな
死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる
のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり
あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり
ゆふされば大根の葉にふる時雨いたく寂しく降りにけるかも
壁に来て草かげろふはすがり居り透きとほりたる羽のかなしさ
ただひとつ惜しみて置きし白桃のゆたけきを吾は食ひをはりけり
くさぐさの実こそこぼるれ岡のへの秋の日ざしはしづかになりて
あららぎのくれなゐの実の結ぶとき浄けき秋のこころにぞ入る
沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ
秋晴れのひかりとなりて楽しくも実りに入らむ栗も胡桃も
うつせみのわが息息を見むものは窗にのぼれる蟷螂ひとつ
かくのごと雪は流らふものなべて真白きがうへになほし流らふ
をやみなく雪降りつもる道の上にひとりごつこゑ寂しかるべし
ほそほそとなれる生よ雪ふかき河のほとりにおのれ息はく
雪ふぶく丘のたかむらするどくも片靡きつつゆふぐれむとす
◆ 塚本邦雄(つかもとくにお) 1922~2005 ◆
革命歌作詞家に凭りかかられてすこしずつ液化してゆくピアノ
貴族らは夕日を 火夫はひるがほを 少女はひとで恋へり。海にて
炎天の河口にながれくるものを待つ晴朗な偽ハムレット
赤い旗のひるがへる野に根をおろし下から上へ咲くジギタリス
戦争のたびに砂鉄をしたたらす暗き乳房のために祷るも
海底に夜ごとしづかに溶けゐつつあらむ。航空母艦も火夫も
みづうみに水ありし日の戀唄をまことしやかに弾くギタリスト
夜会の燈とほく隔ててたそがるる野に黒蝶のゆくしるべせよ
裏側にぬれたひとでの絵を刷つて廻す――愛人失踪告知
かへりこぬ牡の鵞鳥をにくみゐし少女も母となり森は冬
雪の夜の浴室で愛されてゐた黒いたまごがゆくへふめいに
銃身のやうな女に夜の明けるまで液状の火薬填めゐき
ヴァチカンの少女らきたりひしめける肉截器械類展示会
夜のつぎにくるはまた夜、かなしげな魚の眼の中に燈ともせ
眼を洗ひいくたびか洗ひ視る葦のもの想ふこともなき茎太き
ここを過ぎれば人間の街、野あざみのうるはしき棘ひとみにしるす
◆ 初井しづ枝(はついしづえ) 1900~1976 ◆
弧をゑがき打ち水の飛ぶ林泉(しま)のかげ萩は涼しく花こぼすべし
しづかさをふと照り出でて夕日なり紅葉燃えたち地には庭苔
落ちてゐる鼓を雛に持たせては長きしづけさにゐる思ひせり
青磁瓶のひびきと思ひそそぎゐる水充ちゆきて水の音となる
向うむき雨中に咲ける日まはりの花を緊めたる真青のうてな
氷塊の透きとほるなかに紫の翳としてわれ行きすぎゐたり
鳴きかけてやみたる蝉の籠もりゐる槇の木かげを歩みてすぎぬ
白き鯉の泳ぐ水深は見えながら池のおもてに夕翳つどふ
空間のどこよりとなく降る雪の吾を囲みて加速ともなふ
わが胸にむきて飛びくる糸蜻蛉の翳の如きを手もて払ひぬ
湧くごとく暁を鳴き交ふ小鳥らの喜びもちて皆散りゆけり
カットグラスは透明少し濁りゐて「白瑠璃碗」といつの世名附く
渓流のたぎちに低く迫り咲く赤き椿は水に散るべし
あぢさゐの球花こもる夜の闇に見舞蛍の光止むなし
開きたるはづみに震ふ夜顔にみなぎり尽す花の白さは
目ざむれば水仙の花が活けてあり死を呼ぶごとき寂しき花や
2009年4月14日火曜日
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