2009年6月9日火曜日

第7週目制作 (6月2日から6月9日までの提出作品)-今回は実況風、しかも横書きで― +石川啄木の短歌43首と歌論抄

 6月9日の授業では、ここに投稿された作品やコメントを時系列のままに並べて印刷し、あれこれと検討してみました。横書きのままで印刷しましたが、なかなかいい感じだったように思います。短歌の横書きについては賛否両論ですが、理屈の通った反対意見は少ないように思います。慣れているから縦書きがいいとか、昔から伝統的になされてきたから、とか。縦書きの味わいは大事にしたいと思いますが、横書きをちゃんと認めないと、短歌が今後の時代に広がっていくのは難しいとも思います。
 石川啄木の短歌もかなりの数、紹介しました。だれでも知っている歌人ながら、再読するとなかなか面白いのがわかると思います。明治の時代に、もうあれだけのことをやってしまっているのです。

◆第7週目制作 (6月2日から6月9日までの提出作品) ―今回は実況風、しかも横書きで― ◆

炬燵さんのコメント...
炬燵です。身内の不幸でばたばたして、少し間が空いてしまいました。
レプリカのエレクトロニカ聴き飽いてSHIBUYA-TSUTAYAでケッヘル番号(ナンバー)
自動的にビターヴァレーをゆれるきみJPEGにとじこめておいてよ
どうやったところで結局埋め尽くすオブセッションオブセッションオブセッションオブセッション
嘘に嘘を重ねてハートディスクまでハイクオリティなムービーで埋めてよ
また死んでるアート・アズ・アート商品性に負けたんでしょうと嘲笑う街
2009/06/02 21:47

ゆるりさんのコメント...
ゆるりです。6首
ご近所のオヤジもキミもそうですがどうして人は風呂で歌うの
この肺はまるで言葉の留置場そとにでたいと皆あらがうよ
息の音止まってどれだけたつかしら本を読んでる君の静寂
ふと思うSuicaに残る3円をどう処理しよう?どうでもいいね
疲れ果てそっと漂う寂しさにくしゃみをひとつ家に帰ろう
この広い世界ではみな主人公そんな大嘘ついたのは誰
2009/06/07 17:08

叉旅猫目さんのコメント...
叉旅猫目です。3首。
落下する日々がスライドショーのよう正しき光夕闇に消え
去り際に置いて残した真っ赤なトマト隣にメモを「不発弾です」
1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意
2009/06/07 23:47

時間さんのコメント...
あじさい祭り境内に賽銭箱一つ二つ三つ願いごとは宙を舞う
2009/06/07 23:52

藤原夏家さんのコメント...
ゆるりさんの歌。
〇ご近所のオヤジもキミもそうですがどうして人は風呂で歌うの
〇この肺はまるで言葉の留置場そとにでたいと皆あらがうよ
〇息の音止まってどれだけたつかしら本を読んでる君の静寂
〇ふと思うSuicaに残る3円をどう処理しよう?どうでもいいね
〇疲れ果てそっと漂う寂しさにくしゃみをひとつ家に帰ろう
〇この広い世界ではみな主人公そんな大嘘ついたのは誰 
 ユーモアがあって、やるせなくって、でもなかなかたくましくって、そう簡単には負けないから…という感じ。けっこう大事な作品群になっていると思います。いまの時代の詩歌がうまく把握して表現するべき地平を探知しあてたと感じます。この流れで、まだまだ作れるかな?できそうなら、続けてみてください。
2009/06/08 1:10

藤原夏家さんのコメント...
叉旅猫目さんの歌。
〇落下する日々がスライドショーのよう正しき光夕闇に消え
〇去り際に置いて残した真っ赤なトマト隣にメモを「不発弾です」
〇1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意 
 一首目は、「落下する日々」や「正しき光」の使われ方が抽象的で、どう読んだらいいか迷う読者もいるでしょう。そういう読者を無視するか、救うか。大いに考えてください。 二首目は梶井基次郎の『檸檬』ふうですね。トマトと爆弾というのは、よく考えつきそうでも、印象のつよいイメージ関連。でも、「不発弾」でいいのかな?もっと別のもののほうがいいのでは、と思っちゃいました。 三首目はおもしろい。名歌だとは思わないけれど、おもしろい。名歌だと思わせてくれない理由は、読者の意識のなかに、なにかをたなびかせてくれないから。余韻や慰撫が、もっとほしいところ。
2009/06/08 1:18

藤原夏家さんのコメント...
時間さんの歌。
〇あじさい祭り境内に賽銭箱一つ二つ三つ願いごとは宙を舞う 
 歌としてはいまひとつですが、魅力的な歌の種がいっぱい入ってますね。「あじさい祭り」、「境内に賽銭箱」、「願いごとは宙を舞う」など。最後の表現は、井上陽水の『少年時代』を思わせる。お祭りの時の、奇妙な夢見心地を捉えるのには良い表現になっています。「賽銭箱一つ二つ三つ願いごとは」と続けるあたり、「賽銭箱」の数から「願いごと」の数へと「一つ二つ三つ」を介して移っていくのがなかなか技巧的。
2009/06/08 1:25

大沼貴英さんのコメント...
大沼です。風呂で歌うのって気持ちいいですよね。適度なリバーブがかかるし、湯気のおかげで喉の状態は最高だし。そんな俺はいま、吉祥寺で行われている「風呂ロック」なるイベントに注目していたりします。もしご興味がありましたら検索してみてください。蔡忠浩のライブ、行きたいなあ。というわけで、今週は音楽をめぐっての連作です。 
  その音楽に寄せるうた七首
明日からボブ・ディランでも目指そうか夢の夢また夢に見た午後
病み上がり雨の日比谷の野音の「や、」すらない残響にしがみついている
噴水の先また先のとどめおく一瞬、夏をきらめきわたる
天高くリバーブかかる風呂屋にて浅黒い小田和正を聴く
二十四時だれの姿もない風呂でこっそり歌う、リバーブかかる
真夜中の路地に紛れてアイポッド爆音で聴く爆音で聴く
突然の三連符わすれてたたた男の不能さらけ出す夜

炬燵さんのコメント...
炬燵です。前回はうっかり1週前のエントリにレスをしてしまっていたようです。五首再掲とともに、新たに五首詠みます。
(再掲分)
レプリカのエレクトロニカ聴き飽いてSHIBUYA-TSUTAYAでケッヘル番号(ナンバー)
自動的にビターヴァレーをゆれるきみJPEGにとじこめておいてよ
どうやったところで結局埋め尽くすオブセッションオブセッションオブセッションオブセッション
嘘に嘘を重ねてハートディスクまでハイクオリティなムービーで埋めてよ
また死んでるアート・アズ・アート商品性に負けたんでしょうと嘲笑う街

(さらに五首)
簡単じゃないときもある親切じゃないときもあるそういう感じ
マジキモいってことは知ってるけど君が欲しいとか俺死ね♡♡♡俺うぜえ♡♡♡
Re:Re:メール末尾の―END―が君からの本文よりも切なく光る
あなたには無意味でも僕には強く響いたのです 強く強く強く
君が好きといった少女コミックの中では君が恋をしていた
2009/06/08 15:16

ゆるりさんのコメント...
ゆるりです。炬燵さんの感想。堅い文じゃないのに、すごくうまいなぁといつも思います。今回の歌は今まで出していた歌よりリアルな感じで、胸にドンとくるような不思議な説得力を受けます。パヴァーヌとかのふわふわしたパステルカラーのような作風もかわいいけど、こっちはこっちで好きです。恥ずかしいんですが、Re:ってどう読めばいいんでしょう?いつもわからないのです。小田和正の歌にも「Re:」って歌があるのですが。次の歌も楽しみにしています。
2009/06/08 18:28

炬燵さんのコメント...
炬燵です。ゆるりさんからの感想。お褒めの言葉、嬉しいです。いやあ、これはなかなか嬉しいものですね。Re:についてはWikipediaで詳述されています(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%94%E4%BF%A1)が、個人的には「リ」です。リプライの「リ」。ついでにですが「JPEG」は「ジェイペグ」ですね。ところで「今回の歌」というと(再掲)の五首と(さらに)の五首のどちらでしょう。両方なのか、後者のみなのか。前者と後者では、テーマというか方向性を変えました。というか、今までも大体そんな風に五首(一回の投稿)ごとに変えていたりします。そういえば参加者の中では大沼さんが毎回テーマをさだめて詠んでいますね。大沼さんの「その音楽に寄せるうた七首」が好きなので、このテーマ、もう一回やってほしいな、なんて。音楽や文芸、サブカルチャーについての歌もありですよね、勿論。せっかく表現芸術系専修に通う若い感性が集まっているんですから、もっともっと表現や作品にまつわるうたがあるといいなと思っています。
2009/06/08 22:03

ゆるりさんのコメント...
またまたゆるりです。こんなに書き込みしてたら、暇人てことがバレバレですが・・・炬燵さんへの返事。「今回の歌」というのは、アバウトに両方の意味で書きましたが、よくよく考えたら後者の歌で「リアルだなぁ。」と思った気がします。私が音楽や精密機械系に疎いもんで、前者は難しかったのです・・・たしかに、作品などにまつわる歌面白そうですね。近いうち作れたらと思います。
2009/06/08 22:48

大沼貴英さんのコメント...
同じく暇人の大沼です。 
>炬燵さん  ありがとうございます。個人的に、今回の「その音楽~」は「深夜特急~」以来の手応えがあったので、嬉しい限りです。 さて、炬燵さん今週の二首目「マジキモい~」がぶっ飛んでいて、とりわけ印象に残りました。それでいて自虐に走る自分を言わばテンプレ化して(俺死ねwww俺うぜえwwwというのは、ネット上でよく見かける言い回しですよね。そのwをハートマークにしたのも面白い!)どこか冷めた目で客観視しているところもニクいですね(的外れだったらすいません)。 それでは、リクエストにお応えして(?)来週もテーマ「音楽」で詠んでみようと思います。今度は表現や作品にまつわる歌も多く取り入れてみたいなと。これまでも、はっぴいえんど『風をあつめて』とか、ちょくちょく出してはいたんですけどね。 
>ゆるりさん  じつは、今週の拙作「その音楽~」は、ゆるりさんの短歌「ご近所のオヤジもキミもそうですがどうして人は風呂で歌うの」がきっかけで詠み始めたんです。「どうして」に答えようとしたわけで、あるいは返歌と呼べるのかもしれません。 ここに投稿される歌に対して、返歌を詠むってのもなんだか面白そうですね。 
>叉旅猫目さん 「1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意」を、何と言ったらいいのか、怖ろしさ(?)、悲しさ(?)を感じながら読みました。1995年って、たしか阪神大震災があった年ですよね。当時、俺は静岡に住んでいたのでニュースで見知っただけでしたが、それでも言い知れない戦慄を感じたものでした。あのとき思い描いた被災地の情景を、この歌は追体験させてくれたような気がします。 先生は「読者の意識のなかに、なにかをたなびかせてくれない」と仰っていましたが、俺には何かが「たなびいた」ような気がします。それはもしかしたら、1995年というどこか閉塞した年に(サリン事件も起きました)幼少時代を過ごしていたという同時代性にも因るのかもしれません。 と、勝手に解釈してみましたが、ぜんぜん的を射ていなかったならごめんなさい。
2009/06/09 0:48

炬燵さんのコメント...
夜更かし中の炬燵です。……明日バイトなのに早く寝ろ俺。大沼さんからもコメントをいただいた! 嬉しい!そうそう、その歌はもともと「www」で書いたんです。でもなんかつまらないなと思って、ケータイの絵文字の「ハート」にかえまして(実はケータイで短歌作ったりしてます)、ただここに投稿するのにケータイ絵文字が使えなかったので、機種依存文字ですが無理やりハートをいれました。あ、先生、印刷するときに困ったりしたらごめんなさい。横文字も縦書きに印刷するとき戸惑いそうだなー。そうそう、叉旅猫目さんの「1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意」は大変カッコイイですよね。時代性を感じる歌が僕は好きで、なので大沼さんの「アイポッド」もいやあこれはいいなと思ったりしたのですが(しかし個人的にはiPodと表記したく僕なら音も2音か3音扱いにしたい)、この「1995年」というフレーズチョイスはいいですよね。「せん・きゅー・ひゃく/きゅー・じゅー・ごねんの」というリズムが五・七にハマった途端にこの歌は完成したんじゃないかな。それに加えて、こういう「数字が意味を持つ」フレーズというのが僕は好きなんです。ゆるりさんの「11時汗の匂いのするスーツ脱いでそのまま翌日の朝」が好きなんですが、最後が「翌朝7時」とかになっていたらさらに僕の好みなんです。これは好みの問題なんですけど。あと霧島六さんの「バルコニーに誰の涙か五月雨のピリオド一つ、二つ、三つ四つ」。これ、他の霧島さんの歌となんだかひとつだけ毛色が違うような気がするんですが、僕はこれすごく好みです。1,2,3,4という規則的なカウントアップも楽しいんですけど、1,3,7,8みたいにずらすのも面白そうです。そういえば先日の授業で、澁谷美香さんの歌だったかな、漢数字とアラビア数字の表現の問題が取り上げられましたが、僕はアラビア数字を効果的に扱うフレーズが好きです。「1995年」も「一九九五年」だとツマンナイですよね。ちなみに大沼さんが実は結構数字の入った歌を読んでるんですが、彼は全部漢数字。大沼さんは漢数字が好きなんだろうなあ。
2009/06/09 2:08

空目さんのコメント...
こんにちわ、空目です。
まずは、自分の歌を。
指先にちょこんと触れるそれだけの熱で伝わるみっつめの欲
来年の今日も一緒にいられるように君の手帳に書き込んでおく
好きだから好きなのになぜ好きかしら 言葉遊びか恋の遊びか

みなさんが盛り上がってるのでちょっと参戦。炬燵さんがいう数字の面白さは、すごく共感できます!例えば数字だったり例えば炬燵さんのRe:や-END-だったりといった「音がはまったから出来ちゃった」(といったら誤解を招きそうですね、ごめんなさい)でもそんな音の感覚から作れるのが短歌ならではかなーと思います。逆に、まあるさんみたいな音を切り取ってるような歌も好きですが。短歌の前後にまだなにかがありそうな気がして気になってしまいます。
2009/06/09 12:28



◆ 石川啄木(いしかわ たくぼく 1886-1912)の歌43首+歌論抄 ◆


東海の小島の磯の白砂に          たらけど
われ泣きぬれて                はたらけど猶わが生活楽にならざり
蟹とたはむる                  ぢつと手を見る 

いのちなき砂のかなしさよ          打明けて語りて
さらさらと                    何か損をせしごとく思ひて
握れば指のあひだより落つ         友とわかれぬ

たはむれに母を背負ひて           死にたくてならぬ時あり 
そのあまり軽きに泣きて            はばかりに人目を避けて 
三歩あゆまず                  怖き顔する

いと暗き                      ある日のこと
穴に心を吸われゆくごとく思ひて        室の障子をはりかへぬ
つかれて眠る                   その日はそれにて心なごみき

いつも逢ふ電車の中の小男の         うすみどり
稜ある眼                      飲めば身体が水のごと透きとほるてふ
このごろ気になる                 薬はなきか

空家に入り                    人間のつかはぬ言葉
煙草のみたることありき             ひよつとして 
あはれただ一人居たきばかりに        われのみ知れるごとく思ふ日

やはらかに積れる雪に              友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
熱てる頬を埋むるごとき             花を買ひ来て
恋してみたし                    妻としたしむ

手も足も                       人がみな家を持つてふかなしみよ
室いつぱいに投げ出して             墓に入るごとく   
やがて静かに起きかへるかな          かへりて眠る

非凡なる人のごとくにふるまへる        人といふ人のこころに
後のさびしさは                   一人づつ囚人がゐて
何にかたぐへむ                  うめくかなしさ

一度でも我に頭を下げさせし         不来方のお城の草に寝ころびて
人みな死ねと                  空に吸われし
いのりてしこと                  十五の心   

誰が見てもとりどころなき男来て       学校の図書庫の裏の秋の草
威張りて帰りぬ                 黄なる花咲きし
かなしくもあるか                今も名知らず

夏休み果ててそのまま             汽車の旅
帰り来ぬ                     とある野中の停車場の    
若き英語の教師もありき           夏草の香のなつかしかりき

わがこころ                    人がみな
けふもひそかに泣かむとす          同じ方角に向いて行く。 
友みな己が道をあゆめり           それを横より見てゐる心。

ふるさとの訛なつかし              その親にも、
停車場の人ごみの中に             親の親にも似るなかれ――
そを聴きにゆく                  かく汝が父は思へるぞ、子よ。

かにかくに渋民村は恋しかり         猫を飼はば、
おもひでの山                  その猫がまた争ひの種となるらむ、
おもひでの川                   かなしきわが家。

やはらかに柳あをめる            ただ一人の
北上の岸辺目に見ゆ             をとこの子なる我はかく育てり。
泣けとごとくに                  父母もかなしかるらむ。

馬鈴薯のうす紫の花に降る          こみ合へる電車の隅に
雨を思へり                    ちぢこまる
都の雨に                     ゆふべゆふべの我のいとしさ

ふるさとの山に向ひて             こころよく
言ふことなし                   我にはたらく仕事あれ
ふるさとの山はありがたきかな        それを仕遂げて死なむと思ふ

雨に濡れし夜汽車の窓に           何もかも行末の事みゆるごとき
映りたる                     このかなしみは
山間の町のともしびの色           拭ひあへずも

札幌に                      水晶の玉をよろこびもてあそぶ
かの秋われの持てゆきし           わがこの心
しかして今も持てるかなしみ          何の心ぞ

子を負ひて
雪の吹き入る停車場に
われ見送りし妻の眉かな

さいはての駅に下り立ち
雪あかり
さびしき町にあゆみは入りにき

ゆゑもなく海が見たくて
海に来ぬ
こころ傷みてたへがたき日に


(参考)石川啄木詩論
 人は歌の形は小さくて不便だといふが、おれは小さいから却つて便利だと思つてゐる。さうぢやないか。人は誰でも、その時が過ぎてしまへば間もなく忘れるやうな、乃至は長く忘れずにゐるにしても、それを思ひ出すには余り接穂がなくてとうとう一生思ひ出さずにしまふといふやうな、内から外からの数限りなき感じを、後から後からと常に経験してゐる。多くの人はそれを軽蔑してゐる。軽蔑しないまでも殆ど無関心にエスケープしてゐる。しかしいのちを愛する者はそれを軽蔑することが出来ない。(…)
さうさ。一生に二度とは帰つて来ないいのちの一秒だ。おれはその一秒がいとしい。たゞ逃がしてやりたくない。それを現すには、形が小さくて、手間暇のいらない歌が一番便利なのだ。実際便利だからね。歌といふ詩形を持つてるといふことは、我我日本人の少ししか持たない幸福のうちの一つだよ。(…)おれはいのちを愛するから歌を作る。おれ自身が何よりも可愛いから歌を作る。
 (「一利己主義者と友人との対話」)

おれは初めから歌に全生命を託さうと思つたことなんかない。(…)何にだつて全生命を託することが出来るもんか。(…)おれはおれを愛してはゐるが、其のおれだつてあまり信用してはゐない。
 (「一利己主義者と友人との対話」)

 (食ふべき詩と)謂ふ心は、両足を地面(じべた)に喰つ付けてゐて歌ふ詩といふ事である。実人生と何等の間隔なき心持を以て歌ふ詩といふ事である。珍味乃至は御馳走ではなく、我々の日常の食事の香の物の如く、然く我々に「必要」な詩といふ事である。
 (「食ふべき詩」)


 すべて詩の為に詩を書く種類の詩人は極力排斥すべきである。無論詩を書くといふ事は何人にあつても「天職」であるべき理由がない。「我は詩人なり」といふ不必要な自覚が、如何に従来の詩を堕落せしめたか。
(「食ふべき詩」)

 詩は所謂詩であつては可けない。人間の感情生活の変化の厳密なる報告、正直なる日記でなければならぬ。従つて断片的でなければならぬ。
(「食ふべき詩」)

 我々の要求する詩は、現在の日本に生活し、現在の日本語を用ひ、現在の日本を了解してゐるところの日本人に依手歌はれた詩でなければならぬといふことである。
(「食ふべき詩」)

9 件のコメント:

  1. こんばんは、炬燵です。
    前回の授業では自分の歌が色々と取り上げられて、
    たいへん楽しかったです。

    では今週も五首読みます。

    君の横顔が見られるポジションをすぐに見つける習性みたい
    いつからか君に貸すこと考えてから本を選ぶようになってた
    そこ俺も一緒に行きたいって言えなくてまたその話題に戻りたいんだ
    君が来る日覚えてから最近は曜日感覚はっきりしてる
    「この恋がいいね」と君がいったからその漫画みて努力はじめた

    返信削除
  2. 叉旅猫目です。
    わわ、気づけば私めなんぞのうたにみなさんからのコメントが!
    ありがたやありあがたや(お返事遅れてすみません)。
    >大沼さん
    ご指摘の通り「1995年」は阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件を意識しています。9/11があの事件を想起させてしまうように、1995という数字の並びには単なるそれ以上の意味が望む、望まないは関係なく付与されてしまうと思うんですね。1999=ノストラダムス、みたいに。そういった記号が反射のように人に意味を伝達してしまうっていうのが面白いなーというか好きなので、このうたを作りました。
    で、そういった大きな事件からまだ立ち直れていない、そこから進んでいない何かもあるのでは、という想いから、その得体の知れない感じを「取り残された幼女の尿意」にこめてみました。

    >炬燵さん
    お褒めの言葉ありがとうございます。ご指摘の通り「1995年」のフレーズとリズムで「勝った」と(何にだよ)思いました(笑)。私も時代性を感じる作品が好きですね。炬燵さんが好きかどうかはわかりませんが、私は穂村弘さんがとても好きです。

    サバンナの像のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい

    とか涙が出るほど素晴らしいなぁと個人的に思います。
    それと(つけ足しみたいな言い方ですみません)、炬燵さんの
    「Re:Re:メール末尾の―END―が君からの本文よりも切なく光る」
    は傑作だと思います。少なくとも私はどんぴしゃでした。このうた3000円くらいで買いたいくらい(笑)


    で、以下、今週の作品です。
    巧くいかなかったので、一首のみです。

    順番を間違えたまま朝がきて僕らの正しき愛が始まる

    返信削除
  3. ゆるりです。

    先週の授業は色んな方の意見が飛び交ってすごかったですね。
    楽しませていただきました。


    搾り出した3首。

    秘密など窓が曇れば覆われる今夜は星がやたら多くて
    にじりよる醤油ラーメンの香りと指がさまよう衣擦れの海
    食われるか撃たれるかする猪の首は短く太く短い

    コメント今回もしたいんですけど、今日は寝落ちしそうです、またの機会に。

    返信削除
  4. しばらくご無沙汰していました。SAIです。

    蜜のように甘い微笑みこぼすだけ心を溶かす優しい調べ

    木の精がニコリと笑った雨の日の静けさのなか小さな出会い

    最近流行不満体質改善方季節限定感謝体質

    シラサギさん今日の成果はどうですか?まだまだですよと長伸びる影

    雨の日に「にゃお」と鳴かないで夜知らぬ自販機住まう傷ついた猫

    眺めやる瞳はいつの日の光正午の日陰老人は待つ

    缶蹴りのどこかに忘れていた缶のふた開けるって約束したね

    離れてもいつでも共にあるのだと何かのはずみあのふたが開く

    耳奥にかすかに残るざわめきを閉じ込め眠る落日の鐘

    雨音に負けじと鳴いてる君思い六月雨の街をスキップ

    朝もやの薄霧のたつ芝原は雫の奏でる目覚めの歌ね

    返信削除
  5.  大沼です。
     
    >叉旅猫目さん
     
    「取り残された幼女の尿意」の表現意図、なるほどと思いました。不可解だった部分が少し、すとんと納得できたというか。「幼女がそのまま大人になった」ことへの虚しさや悲しみが「取り残された幼女の尿意」という表現に、絶妙な具合に込められていると思います。論理的な言葉では表わしがたいけれど、たしかに「取り残された幼女の尿意」とせざるをえないような気分です、不思議なことに。
     
     それでは、今週の投稿です。
     
      あの音楽に寄せるうた七首
     
     朝の駅ふいに和音を知った君アカペラでもおじけず歌えよ
     
     十六分音符の裏の抜け穴に乳首の位置を透かし見る梅雨
     
     俺たちのロックスターが愛を説き顰蹙を買うのもまたロック
     
     冷え性の君が重ねた手の甲のうわべ掠めるポップンポップ
     
     酸欠の渋谷クアトロ耳鳴りという免罪符もちかえる夜
     
     臆病な友の後ろで発射台、モッシュにダイブさす仲直り
     
     濡れ枕ふいに聞こえる弦楽を知ってしまった知ってしまったね

    返信削除
  6. 渋谷 彰広2009年6月16日 1:39

    水差しの湛える青に映る盆運ぶ思いはわだつみに注ぐ

    返信削除
  7. まあるです。
    コメントに参加したいところですが、眠くてしかたがないのでまた後日・・。
    5首投稿します。

    三年忌祖父の戒名、耕雲院 梅雨空に鍬を握る手を見る
    明鏡たる皐月の稲田あぜみちに佇めば平行世界の誘い
    彼方より、うすみどりの水面溶けいる死をまつ 透きとおるような
    AM7時またたきの後16時 汚れたリネン 痛む脳髄
    恋人に歌ったフォーレなぞる夜 ふ、と愛されていたことに気づく

    返信削除
  8. 渋谷 彰広2009年6月16日 2:11

    すみません、2009年06月16日1時39分に提出したものを訂正します。

    水差しの湛える青に映る盆運んでゆけばわだつみにつぐ

    返信削除
  9. ゆるりです。
    16日の授業はどうでしたか?行けなかったので残念です。

    今回はいっぱい出します。

    青空と曇天色のパンツとのあいだに立った私緊張
    夕闇のセピアに溶けて風景画と化すばぁばの背中は小つぶ
    2000mm森の深部を仰ぐがごとく澄み渡りゆく喉仏かな
    群青のパラグライダーの端っこに掴まってでも希望する飛翔
    友人がハマりはじめたヨガの名は十二指腸のポーズだそうな
    干したてのお布団みたく純情無垢の湯気たちのぼるあなたの匂い
    8日目の洗わぬ靴下の悪臭に負けじ劣らずじ君のうそ
    高くても困るが低血糖低血糖低血圧低気圧電話料金
    揺れる。君のパルスと白い壁白い壁に一点のしみみっけ

    ↓大沼貴英さんの3連符たたたの歌にインスパイアされた歌。
    悲しき酒飲みの口はライフルだっただった頃だだだだだだ駄々っ子

    ↓未完の歌。
    君の言うあなたのももの白き油脂それが好きだと口のほころぶ
    あるいは
    あなたの言うあの子のももの白き油脂それが好きだと口のほころぶ
    いつもこういう微妙なニュアンスに悩みます。

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