2010年2月27日土曜日

くれむつ和歌集・続(2009年秋冬)

 二〇〇九年九月から二〇一〇年一月、前期に引き続き、早稲田大学第二文学部表現芸術系演習三十四の参加者たちは、ネット短歌会KUREMUTU CLUB(http://kuremutu.blogspot.com/)に作品投稿を続けた。やはり、初めて作歌に手を染めた人たちばかりにもかかわらず、作品は五〇〇首近くに達し、質的に高度なものも多く、斬新な挑戦も少なくなかった。大学の演習での実作としては慶賀すべき稀な事態であったといってよい。詩歌の道は経済的繁栄に遠く、地味で報われることも少ないものだが、これらの歌の数々に明らかな才能の可能性を示し得た人たちは、今後の生の中でも、ぜひ詩歌にかかわり続けていってもらいたい。今回の成果を記念し、歌を作者別に並べ直し、全作品をここに集成する。配列は作者名によるあいうえお順とした。 なお、著作権は個々の作者たちに存する。著作権に関わる事務は制作者・駿河昌樹が担当する。

二〇一〇年二月二十七日                          

編者   藤原夏家
制作    駿河昌樹




くれむつ和歌集・続(秋冬)

青木佑太
イパネマで CIDADE DE DEUS のバス見たり オレンジの文字がくっきり光って
イパネマの娘よりもアルゼンチンの娘の方が可愛いと云い
たまごごはん食べたい食べたい食べたいたまごを買いに行く夜の二時
燃えるトマトラーメンのスープをもってここから始まる、今日、不死の歌
嵐吹く東京の空に訪れる一つや二つの命など知らぬ
左耳耳鳴りのする母親の右耳に告ぐ最終告知
真夜中のローソクをすべて切り捨てて、サンバを踊れば見える見える
北東の土より来たれカリオカのリズムに揺れる第八ポスト
冬夜から帰った部屋でいつ聞きし雨粒の音は今でも響くか?
塩を入れパスタをゆでる境地からダンスが生まれる私の秘密
しっとりと石のくぼみに耳つけて反対側で鳴るカバキーニョ
新宿のすきま風を聞いているコンクリートの秘め事を見たり
Liberdade 隠された記憶の如く地球の反対で食うたこ焼き
ふわり軽くキャッチコピーのように空一つ、飛行機がすべって消えた
空(くう)を見て天とは何か考えて吸い込んだ息は僕だけのもの
風にひと筆書きで書いた夢散るも散らぬもとるに足らない
寂しさや右も左も人だらけ浮世の友を今日も忘れる
疑えば疑うごとに深くなるホワイトシチューの味を夢見る
究極のカレーのレシピを裏返しねつ造する夜はウピピピ
雨の音ひとつぶひとつぶ連なって減三和音がひびく午後の末
雨止んで雀がにわかに鳴くころに待ち人はふと来るのだろうか
夕焼けの色がそのたび違うこと誰にも言わずにひっそりと見る
雑踏のひときわ大きな声の主にも聞こえている日の暮れる音
外灯の明かりに吸いよせられて来た子どもたちの言う未来完了
ごめんねを言われてもごめん分からないそのときの気持ち忘れたから
冬凍る!きゅんきゅん甘い鉄橋で‘I love you’をネコたちが叫ぶ
恋の歌だって歌えない僕らでも百人そろえば奇跡は起こる?
情けない三桁台の死をぬけて恋の聖士(まだ生きている!)
虹色の鱗(うろこ)がキラキラ美しい君にあげたい恋スルチカラ
気がつけば濡れることなどへっちゃらで 夕立の中まりあを連れて
ほらaikoが歌っているよ木の上で(きっと僕のためなのだろう)
○今朝の君・笑った数:5
・寝た数:2
・僕を見た数:2かたぶん3
一瞬でつめたい水を浴びきって君のほっぺをつねりに行こう
「毎日が、自宅‐会社の往復で・・・」そんな彼らの妻たちに唄う
塾帰り森できのこを食べていた子どもらがまだ帰ってこない
探すのをやめてしまったオニの背を影からずっと見続けた冬
雪の降る聖夜新宿東口一人で食べるキムチリゾット
通勤のエスカレーター階段が希望者を乗せ空まで伸びる
六甲の『意外とおいしい天然水』飲んでけっきょく今日もがんばる
静かなる呼吸を乗せたきみの手が僕を掴んだ夜明けのダンス
暗がりで蔑められた目を開く涙はかくも美しきかな
キラキラと視線Xかわしつつ背後でそっとささやくような
口をつく「変態だね」という言葉寂しき二人の合い言葉にする
繋ごうと差しだした手をはねのけて明るく笑うバイバイまたね
気がつけば返さずにまだ持っている『リルケ詩集』に挟まれたメモ
突然の電話をずっと待っている誰も知らないブエノスアイレス
きみの手が素早く背骨をなでたとき時間は逆に流れ始めた
耳元で風が微かにゆれるたび後ろできみが話した気がする
つばを飲む音が聞こえてくるような台詞を言った三時間前
泣けばいい そのために皆屋根裏で生きのびてきたはずなのだから
ねえ速くもっと激しく回してよ ぐちゃぐちゃになる私は綺麗
もうすぐで夜が明けるから眠らずに朝焼けを見るために抜け出す
寂しいときみに向かってつぶやいたことを取り消すための電話
もう二度と会えない人を思い出す事ばかりしている訳じゃない
上がらない原稿ばかり増えてゆく 最後のプリンを食べたのは誰?
平気だよ達也がいなくても私ひとりで鐘をついてみるから
みんなみんな粉になってしまったね子供ごっこをしているうちに
髪型を同じにすれば同じ顔の兄弟姉妹がホームに並ぶ
ひそやかに寝息をたてるカリオカの肌にゆっくりロウソクを立てる
寝る前に睡眠薬を飲んでいる妻の殺意に子供の寝顔
五年目の皆勤賞を受け取った同僚のする離婚相談
本名も血液型も知っているきみに尋ねる「お名前は何?」
いつまでもタイミングばかり計ってる人生だったと最後の言葉
部屋中にレモンタルトを焼く香り溢れさせたら幸せになる
夜更けても返ってこないソナー波。油断してると涙が溢れる
すれ違う裸の心を寄せ合って一夜限りの星を見ている
教室の机の隙間に挟まってチョコを一緒に食べようよ
とめどなくNutellaを食べてしまう夜きみが突然尋ねてくる 夢
いいんだよ我慢しないで言っちゃえよfuck青春!fuck人生!
夢に出たギターを背負う女子高生 例えるならばティーンの匂い
高校の授業パスする二時間目 今日はきみとの青春ごっこ
帰りぎわメールアドレス聞けなくて戻ってこないブーメランする
いつまでもトライアングル鳴らしてる「何かあったの?」って聞いていい?
「すべて」とか「ぜんぶ」とかついまとめちゃう(でも、世界は単純かもね)





ゆっくりと流れる夜と日曜日ささやき止めない電光掲示板
強がりと派手なネオンが響かせる鋭い足音あぁ靴ずれした
白い手に固く握った通告書か弱い背骨に触れてみる
つぶやきさざなみさばの缶詰毎夜開催愛憎会議
真夜中に冷蔵庫の中オレンジ一つみずみずしい夢切ってみる
終電でむせる香水アルコール好きも嫌いも発車しちゃった
目がさめて朝日がやさしくなぞるのは君が残した枕のへこみ




礒部真実子
公園のベンチに座り手をつけばこの町は今朝雨降りと知る
靴投げて占う天気予報では晴れの確率九割七分
あくびして瞳を閉じている間にも伸びる飛行機雲の白線
窓際の席だけ埋まるファミレスで深夜零時の人影を見る
秋深し今年初めて耳にする西高東低冬型配置
足揃え爪切る母は丸くなる まるでサナギの抜け殻のよう
気の抜けたぬるいコーラの温度より生温かく頬伝う汗
マニキュアが乾くあいだに眺めてた地図の上から探す町の名
ふわふわの耳当てつけた少女らは雪降る国へゆくのだろうか
沸き上がるやかんの湯気が白くなる ひと足早く知る冬の色
温かいスープの缶を包み込むその指先が触れる北風
眠くても眠くなくても寄りかかる人が隣にいる冬の夜
サボテンを枯らしてしまう私でもできるのかしら 恋というのは
近寄って初めて気づく先生の黒い眼鏡のレンズの厚み
背中から少しはみ出たランドセル背負う子どもの振り向く笑顔
日が暮れて窓の外には寒空に響く子どもの「バイバイ」の声
夕暮れの街をせわしく交差する散りばめられたマフラーの色
口開けた通学かばんからのぞくふくらみ過ぎた赤い筆箱
終点の駅で降りゆく乗客を幾度見送る置き去りの傘
帰り道電車のなかで分けあった白いイヤホン片耳の音
君のこと忘れたくない忘れたい 触れてはならぬかさぶたのよう
電車から降りるあなたの背を見つつやさしく塗ったリップクリーム
居酒屋の忘年会の旗揺れる忘れたくない年もあるのに
すこし前最年少と言われてた選手を今はベテランと呼び
手を振るといつも後ろを確かめる 探してたのは君のことです
私より高いところのつり革をつかむその手に触れてみたくて
地下鉄の窓を見つめる人々は黒い景色に何を見るのか
手を伸ばし耳からそっと取る眼鏡 触れないように起こさぬように
ぴかぴかと点滅してる信号は君といる日は「止まれ」に変わる
足音が響く廊下をまっすぐにかかと踏んづけ駆け抜ける春
オレンジのお道具箱の底に住む羽をたたんだ折りかけの鶴
背もたれの上にはみ出る新聞の同じ文字追う朝の飛行機
図書館でひそひそ話す乙女らが両手広げて見せあう手相
私とは違うところでアクセント置く君が呼ぶ私の名前
「乾杯」と口にしてから近づけるグラスの先が触れるためらい
頭だけきょろきょろ動く警官が街を見渡す交番の前
布団からすこしはみ出た足の指 夢を集めるアンテナのよう
水銀の体温計を振りながら額にそっと置かれる右手
行列の一番後ろ知らせてた看板遠く離れて見えず
「愛」よりも「哀」の言葉が先にある国語辞典を眺める夜は
金髪の男子生徒が手に握るやさしい色したいちごポッキー
鍵盤にゆっくり触れる調律師 音の狂いを拾い上げてく
花束を抱いた男の行く先にどんな笑顔が待つのだろうか
透明なビーズの粒が弾け飛ぶ雲ひとつない芝生の上で
急行の止まらぬ駅で待つ人の時刻表にはのらない電車
黒猫が良い夢見せてくださいと魔法使いにおねだりしてる
水彩の絵の具が並ぶ画材屋で水平線の色を見つける
冬の朝眠たい顔に吹きつける地下鉄の風ぬるく気だるく
図書館に下巻が残る文庫本 遠い手のなか始まる話
乗りこんだバスの座席は前向いて今夜最後の主人を探す
無機質な茶封筒の左上 真っ赤な色の花咲く切手
グーの手と同じぐらいの柚子の実も冬をめがけて黄色く染まる
音たてて閉じる聖書の右ページ 昔誰かが語った奇跡
道端に続く行列追いかけて地下の世界の入口に着く
年末の本屋に並ぶカレンダー 暖簾のように吊り下げられて
意味なんて知らないけれど手をつなぎ歌うキャロルは聖夜に響く
店先で告げる時刻にあらわれる時間通りの焼きたてのパン
玄関で整列してる雪だるま 「ただいま」の頃また会えるかな
マス目から飛び出しそうなひらがなで夢が書かれた作文用紙
境内のいたるところに飾られた絵馬の数だけ願いは揺れて
沈黙のエレベーターに乗る人の視線集める階数表示
町はずれ閉店近いケーキ屋の前を過ぎれば目につく苺
いつからか切符売り場の前に立ち運賃表を見上げなくなり
今ここに私がいないこと示す宅配便の不在届けよ
目の前でスポーツ新聞めくりだし男は読めと言わんばかりに
替え歌を披露している通学路並んで帰る冬の夕暮れ
片手にはのらない数の歳になる節分の日の豆を見ながら
春近し口をとがらせ子どもらが口笛吹いて真似るうぐいす
新学期最前列で披露する美脚自慢の集合写真
身長を測るみたいに背を伸ばし壁にもたれて口づける夜
終電で家に着くころオリオンは屋根の真上の夜空にあって
言い訳を考えながら乗るバスは今日に限って各駅停車
取れそうでぶらぶらしてる右腕のボタン気にしてつかむつり革
ペン並ぶ売場で残す試し書き誰かの「あい」に付け足す「してる」
もうすぐで電車が入るホームにて鳩が並んだ白線の上
押しつけた本を光が飲み込んで機械は紙に写し吐き出す
手芸屋のボタン売場の引き出しをすべて開けたし冬の日の午後
開かない自動扉の前にいてとっさに浮かぶ呪文のことば
真夜中の公園にあるブランコを自由に揺らす冷たい夜風
子どもから大人に変わり増えるのは心のなかの疑問符ばかり




うぐいす
朝一にパソコンつけてテレビつけ機械に追われ時間に追われ
暇見つけメールの返信いそしむも打てば友から暇人だねと
食欲なく虚脱感あり暮れてゆく今日も一日無為に過ごせリ
人恋し秋のしづけき夜長にはメールのやりとり尽きることなく
定刻の来ぬバスを待つ十月の陽射し厳しき駅前のバス停
青き空広がる秋のさやけさを仰ぎて歩む夕暮れの道
ダイエットさらさらする気はないけれど今日も今日とてバナナ一本
太極拳無駄な動きを省きをりリラックスして呼吸をつなぐ
軽妙にうつす重心運ぶ足慣れとは言うがたやすくはなく
風邪をひき分かる自分の脆弱さ元気のないのは心の方だ
誘われてまんまと罹るインフルの猛威をしばし抑えよタミフル
熱が引きふしぶし痛む関節も徐々にやわらぎ咳も落ち着く
木も草も生きる力に前向きで愚痴も言わずに育っていく
爽秋の胸張る空に白い雲銀杏並木ゆるりとすすむ
ラッシュアワー三ヶ国語が軋みあい談話が走り文化が揺れる
           (西武線の混雑時、仏語に英語に韓国語が飛び交っていました)
暖房のめっきり恋しき朝夕は冬の到来吾に知らしむ
銀杏の匂ひ好まぬ君なれど暮らしの糧と拾ひ歩けり
儚くも紅葉といふ退廃は朽ちてゆくたび艶めきを増す
色づいて妖しく踊るイチョウの葉 秋の遺言その身で奏で
「北風と太陽」寓話思ひ出す十一月の日陰と日向
巡りゆく季節の中の一舞台 落ち葉の輪舞曲(ロンド)輪廻の催事
ゆるゆるとブランコ揺すれば軋む音ただ懐かしく園に響けり
門前で吾を見据える番犬の威嚇のかまへ微動だにせず
不思議にも帰宅がわかる飼い犬の喜び勇む影に和みぬ
仄かなる甘栗の香の誘惑に尻尾で応ふる犬の正直
怠惰なる生活リズムしみついて冬の多忙をおそれつつをり
手相には未だ知りえぬ相手との破局の相が色濃く映り
皆が皆オアシス探し彷徨えり東京砂漠に住む吾もまた
川の面に洗い出したる大根のしずくきらめく秋の夕暮れ
駅前の商店街はいつの日かさびれて露地に風吹き抜くる
捨てること出来ず片付け滞る幼きころの絵画数枚
故もなく心重たく疲れたり今日の終わりにメガネを外す
見え透いた嘘をつきつつ生きる日々誠意はあるか誇りはあるか
吾が夢を語る友なく一人ただ牛丼かきこみ店をあとにす
意地っぱり素直になれぬ親の前「見合いせよ」との声を無視して
恋をする回路が壊れ幾年も復旧させず「そのままでよし」
眠るだけそれが出来ずに悩みをり犬の寝顔をじっと見つめる
濁り無き澄んだ犬の眼見通せり吾の孤独の深きなること
自殺とは涅槃の最期欲捨てて来世に堕ちる甘き業なの
「いつ死のう」答えなき問い空に消え枯れし涙は今日も応えず
一過性人身事故は他人事舌打ちされる命の尊さ
籠揺れる色んなものを抱きながら 時には命ひきずりながら
泣かないで精一杯に微笑んで生き急がずに吾は死にたい




大沼貴英
   大学最後の夏休みに寄せるうた十三首
起き抜けのラブホの部屋のカラオケで歌う自分の下手なこと下手なこと
俺はキス君はちゅーという認識が違っていたんだね甘かったね
二十二の命からがら誕生日どこへ行ったか知れぬ性欲
からだからだ愛せ愛せよ傷つけることしかできないどの道だから
窓枠をゴールポストに見立てては見はるかす過去のベランダから
ふるさとの訛なつかし駿河湾地震を指して「いーかん揺れた」
「驚ぇて卓袱台に潜っただけぇが、頭だけしかへぇらなかったや」
裏庭に灯籠の倒れたるを見て女系家族の男の肩身
就職を間近に控えた金曜日わりとマジ「あと二日の命」
世捨て人でもワーカホリックでも何でも。我らサーカス一座なり
右手をあげて左手をあげて万歳のかたちになりぬ死んでしまいぬ\(^o^)/
両手あげプロペラのごと回りつつ先輩「おまえ歯車になるのか」
「仕事は恋人」とか言ってるけど実際そうだけど、なぜ、いま恋なんか
  金木犀の季節に寄せるうた五首
知らぬ間に俺たち誰に負けたんだ? のぶれすおぶりじゅ五百万くれ
木犀の馥郁たるを聴きながら大宅壮一文庫への道
「この匂い、でんぷんのりに似てるね」「え?」平成生まれには通じぬか
「忘れ物ない?」って訊いたのに忘れた君の髪どめゴムの色気なさ
ラーメン屋のカウンターの隅に置かれた髪どめゴムの重なりつやめき
  恋愛の「でも」に寄せるうた七首
君からの一通目がきたら明日は俺から送っていい免罪符
「恋愛て変な字だよねでも読者(ひと)の目を引くんだよ」編集会議 
昨年のイヴに当時の恋人と行った銭湯が理想体重 
どうせ湯は別々なんだし独りでも今年も行ってみようか銭湯 
アイポッド爆音で聴くと時々ねステレオがウザくなる時々ね 
草食系男子が好きと言う君は森ガールゆえ去勢された僕 
昨年のスキニー履いたら履けちゃってまだいけるでも去勢された僕
   誰かがマスクの裏で落とした言葉に寄せるうた三首
花も実もしょうもないヒマ耳年増ひねもすはねトビひもねすハモネプ
呟く。インターネットはさまざまな可能性を言い訳にして。
冬物は柄があるけど絵はないと主張してみるセンスもないのに
  ゆりかもめに寄せるうた四首求めたら頬をすり寄せ何もせず夜が明けていく基礎知識とす
ゆりかもめ/妙に姿勢の良いサボり/ビルに移り気/空中散歩
リクルートスイーツ君とゆりかもめ夢を語ったっけなあ螺旋で
エクレアのなつかしい歌詞おもいだし、メルシー僕。メルシー雨。
  愛のかたち、あるいは撥音の正しい使いかたに寄せるうた四首 
エイズの日タダより高いゴムはなくセーフセックスレスはなおセーフ 
君の手で髪を撫でられる一瞬が不連続する微睡みのなか 
海外ですごいPK止めたって日本人選手の後頭部 
モーラ数 句の終わりの「ん」 はみ出した「ん」 前者は1で 後者ははんぶん
   卒業に寄せるうた四首 
日曜の夜にシュガーベイブを聴いて泣くなら感傷ごと愛せよ俺 
赤いカルボナーラとミルフィーユ。この相性も信じなきゃ嘘だよ。 
夏なんです。秋なんです。冬なんです。卒業なんです。春なんです。 
文学部四年が小学国語を教え「一番つまんないのが答え」




北寺瀬一
始めまして 季節外れの転校生です 残り短いですがよろしく
我先に 群がるクラスメイトの山の 隙間に見えたメタルフレーム
まさか君が 眼鏡でハイジャン?陸上部なんて 見下ろす放課後の教室ひとり
ごめん男とか女とかそういうの抜きにしたって きもちわるい
「かわいいと好きをごっちゃにしちゃダメですよ、先輩」そうかお前は
彼の言う「優しくしないで」は理解不能。無理矢理奪えば違うと言うし!
蝉の死体見つけて埋める背中に告げる「明日、かえるよ」 ジーツクツクホーシ
カッターシャツ開いた襟ぐり伝う汗項鎖骨肋骨その先
君からは聞きたくなかったそんな告白「明日の学祭までに俺は忘れる」
後悔は今更だって身に染みる十月の夜は思いの外冷える
火曜五限倫理のテーマは「愛について」ねぇ先生なら答えくれるの?
屋上給水タンクの影に隠されたい君と誰かが永遠の十七才
暗闇を好いことに生まれては消えるシートの間に白色矮星
隣席の灯初心な君には眩し過ぎ瞑る目澄んだ耳に
天声天上の彼の人が説く夏物語いけない逢瀬とミルキーウヱイ
教卓の真ん前の席で爆睡できる君の諸々うらやましいです
校長の「えー」の回数数えてる彼は今年で十九のウワサ
先生のイスで待たされ十五分底冷えのする理科準備室
並び立つ爪先の色が違うので先輩はやっぱり先輩ですね
「放課後、指導室へ来なさい」なんて期待するなという方がムリ!
F鳴らぬギター背負って音楽室へ(君はもうすぐ運命に出会う)
駅前でブレザー二枚押し込んで駆け抜ける真冬のシモキタ
レジメンタル元は規律を取るためのそれをゆるめて笑う三月
屋上のフェンスの向こうで踏み出す青 春終わらせぬための選択
ギターより君から借りたニルヴァーナ ケースのヒビ割れ撫でる指先
「俺ギター弾くからお前、アレ買えよ」僕がベースを始めた理由
柑橘の色と香りが通過した中央線と踊る黒髪
ブレザーじゃ第二ボタンに意味はなく、こころに近いなにか下さい
   (詩と反歌)
終わりに向かってさまよう船の中で
薄い酸素が見せたスローモーションの物語も
そろそろ燃え尽きようとしているのに
こんな穏やかな気持ちで小さな窓の外を眺めている


いつ訪れるとも知れぬ断罪の時を待つ中で
「真実が常に僕にとって正しいとは限らない」
と言う君が
昔旅したという遠い星の
砂漠にある澄んだ泉の話を
もう何度も思い出したことだろうか


『その泉では、コブを湧水で満たしたラクダと
嘴の折れたハゲタカが暮らしていました。
先に死んだのはラクダです。さて彼らは幸せだったでしょうか?』
こんな謎かけで一体何を伝えたかったのか
答えをひとつ生むたびに君に近づけるような気がしていたけど
ありもしない希望を求めることにも飽きてしまった
どこまでも尽きることのないはずだったエンジンの
断末魔みたいな揺れに身を委ねているうち
遠退く


モノローグのない物語は最終章へ光の速さで駆け抜けてゆく


*


蒸気で白く煙ったバスルーム
曇った鏡に写る悲しい顔の君何かを言おうとしたところを
シャワーを向けて消したら
残像と自分の姿が重なって流されて
何も残らなかった


眠れない夜の
逃げ場のない密室で
僕を苦しめる鏡像
どこで間違ったかももう思い出せない


頬を温い水が伝って
排水口へ絡めとられていく
湿った空気で
やっと呼吸ができる
君をなくした夜の乾いた風を
忘れて僕は
訪れるはずのない朝を迎えるだろう


誰もいないはずの深夜のバスルーム家主はバイクの二ケツで死んだ




クロ
だれもいない私の人生生きた人できるできないやるのは私
声を聞き気づく事実に息をのみ追ってみるけどわずかに及ばず
出るものは音水空気感じるは浮かぶ宇宙と1人の不在
りんかくをつかめていると思いこみ手がとけこんで初めて気づく
かくせない考え思い知ればこそわかっていたのに動かなかった
最後にはにおいが残る犬を見て思い出したはあの人の香




炬燵
どれくらい混ぜればひとつになれるのか自問に自答のホテルロビーで
がんばって素敵な呪文をとなえようとバレバレなのがさかさまな魔法
ああキミはキミのライフスタイルばっかりじゃない? もっと楽しめるパーフェクトミュージック
思い出に迷わないでポップコーンチョイスです 過去が変わっちゃう年ごろなので
会うときだけでいいじゃないって迂闊からフレグランスも準備不足ね
この恋は終わったってときの大掃除ブログに書いてた君をからかう
理想との差まで愛せるところからスタートしててスピードゆるめ
テクノロジーぼくらのさみしさテクノロジーうめてくれるのふさいでくれるの
プログラムの愛に「それでも愛する」がプラスされてもなにがたりない
タイミング次第でかみあう四次元の2ピースだけのパズルの名前
愛とよりよい生き方をぼくたちに伝えて愛するシニアワールド
ワークライフきりとっているパートタイムぼくたちがいて
きみたちがいるきみに恋しているときのスタイルが笑えるいまのコーヒータイム
少し無理してやる気ふるい起こしたら知らない人とランチしましょう




SAI
小さいなそんな自分でいいからさ言ってごらんよ「えいままよって」
燃え尽きた灰をそっとねかき集め灯を灯すからもう一度だけ
天と地を貫いて立つ大樹のように育てよ若木強く優しく
人知れず小高い丘の上に立つ若木はそっと風に憧れ
根を下ろしここに在るからできることふらつきながらももう逃げないと
さあ終わりさあ始まりさ何度でも永遠のうた永遠のうた
堅い殻種春宿すノックの音闇は光を隠せはしない
分かってる弱さだってね分かってるでも分かってる強さだってね分かってるんだ 
見てごらんもっと周りを今ここにまだ見ぬ一歩は窓の外眠る
悲しみを飼いならしたものたちは今ここに立つここに今立つ
悲しみよやっと逢えたね悲しみよ私はずっと待っていたんだ
愛はただ人の心を満たすだけ溢れるだけの清らかな水
死にたいと思うあなたの本当は生きたいんだと他の誰より
いいんだよ弱さは弱さのままでいてそれがあなたの花になるから
弱いから大切なものに気付くんだたった一つのいのちの果てに
まっすぐだだから挫けもするだろうでも開いてこう今のまんまで
不完全それがスタートいつだって永遠の歌探しに行こうよ
ビーイング支え合って生きてきたまなざしたちは見守り続ける
ありがとう出会ってくれたもの総て道に咲く花ともに生きよう




佐橋亘
今春に挙式する兄祝福す ポツリと我に「仮テンツモった…」 
メーテルが理想の女と言っていた 彼の背中は小さく見える
式あげる ただそれだけで300万 既に自分もマリッジブルー
酔い潰れ 病院起床でカテーテル そんな愚兄が家庭持つとは
葬式と結婚式の相違点 曰く「当事者の生き死にだけ」と
痣らしき 常は永久にぞ 右為の志士 寝ず見失しつる 冷めた抜き樺
(編者註~「アザラシ・キツネ・ハト・ワニ・ゾウ・イノシシ・ネズミ・ウシ・ツル・サメ・タヌキ・カバ」と読み得る)


時間
時ここに来てあらわに短く奪われたか長くも感じず流れ尽きてたゆたう
小松菜の根が重ねるように力強く寒さが地から這い上がる喜びと呼ぶか皮肉を感じて
ブロッコリー日に日に大きくなるのは冬かそれと同時に身体も浮くようになる
赤々と鮮やかな色に眼が冴えるずしりと重いトマトの色気よ
毎日が繰り返すように立ち去りて今日と昨日と明後日が漂いながれる
地に逆らうよう身体はずませ時の経過をおもんばからず前にだけ進めといった
夜更けて継続的に実をかじる指が求める怠惰に任せて
水を含む身体が洗われるが如く舞い上がりて中空へ放つ 
何もせず何も成されず辿り着いたは魚屋の面影吊るされた籠が気になる
目立つばかりを考えて朱色と銅像うなぎが二匹、只濃いだけでいいのか
葉がずしりと重くざわめく口にすると甘さ膨らむ緑の青さに吸い込まれゆく
雑草のような姿この黄色い花の少しの動物性をふくんで春になると際立つ
主として秀でるのではなく一つとして息ささやくそれとして意味深長となる
奇跡のカビかなにかの菌が形をふくんで形状と化すその歯ごたえは確かに
記憶は果てることなく回転すあるがままの姿はどこへ飛ぶのか
ふんわりとした甘さかそれとも繊維の密かすでにこの骨は知るのか
赤い鱗が綺麗にならぶ寒さに凍えてあざやかに光る昔のままでそこにいるのか
はちきれるほどの白さのなかに味噌がひそむ体の実は遥かにそれをこえる
三種類のそれぞれがほど良く合わさった皿にならぶと華やかなまで彩る
言葉はそこになくて音だけが箸を交じわす、わずかなわさびの香りがする 
茶の照りかかったその形の動きのない空とともに噛むと、現れるのは青
歩く足がそれぞれに進み、それぞれを進む、知らぬ所へとわからぬ時へ
同じように見える一つが束になって現れると、勢いをまして近づいてくる
虹が通りすぎたように揃えて三列となって眩しく、たんぽぽの花そこに咲くのか
下にいるのか上にいるのか、北から来たのか生きてるままに閉ざされた場所へは帰らず
部は想像をこえ全は見えず、そのままを見てそれとするのか遥かをのぞくか、足の形は現れるのか
同じように見える一つが大きくなって現れると、恐ろしいほどの物になる
包丁の音、冬の音、水の音、ざるの音、ビニールの音、葱の音、軽快な音、味の音
土のなか、足跡だけが増えていく、数が増すほど目がよろこぶ
真っ赤な鳥居を見あげると遠くに鳥の姿があった、見透かされたような気持ちになった
走っているようなオレンジ色が深い緑と色合いに見ている人を驚かす、夕方だった




澁谷美香
つくるだけ なれはしないと知ってるよ、カレーライスのようなひと
大学なんて行かないで叶わない夢追っている 君のほうがすごいよ
すてちゃえよ、童貞なんか 誰か言ってやってください
惚れたゼアンタのキューティクル!一緒にパフューム踊らないかい
ソーシキで死んだアイツが弾くギター ・・・死んだフリでしょ・・・?
黒人さんは笑いながら怒ります。つぶらなつぶらな瞳の奥で
23の夜に眠って25に起きるの、なんてナイスなアイデア!




シュクレ
「ほら ぴったり。あたしたち いっこだ。」 嘘ばっかり。ごめんね 私、君をだましてる。
通過する「特別快速 地獄行き」 乗らずに済んだ 武蔵小金井
強引にくちびる奪うウルトラCやっぱり君は魔法使いだ
「ここはどこ? あしたはどっち? 見えないの」「渋谷区松濤、世界の果てさ。」
インディゴに染まる葉月の空の下ジョッキの中は黄金世界
わかってる。きっとあなたはサイコパス。瞳がガラスで。映してあたしを
小雨降るトビリシ国際空港でトランジットの未だ見ぬ君よ




鈴木有
図書館を出たらすんげえ台風で石焼きビビンバ食べに行くのだ
小野小町で浮かべるものはなんですか ぼくは「遣唐使」と答えけり
小・中・高と授業のときに立方体ばかり書いてたノートのすみに




爆裂カレーライス
じゅぎょうちゅうせんせいにさされドストエフスキー流暢に言えなかったよ
電鉄の中で開いた携帯の首がぽろんと落ちてしもうた
「市川 という名字の人間は人を引っ張る力があるぜ」
朝食べるおぼんのなかで揺れていたネギをめがけてみそしるすする
二次会をどこでやるのかわからなくなってわたしは船にのってる




ほたるいか
台風の過ぎ去るのを待ち 麦茶から ミルクティでも沸かしての飲もうか
口紅も マスカラさえも 面倒だ 女の特権 面倒くさいだけ
キャラバンの らくだのような人生だ 休みたくても 荷物は重い
ぬくくって 満腹だって  さみしいの ぱんをほおばる ほほにも涙
クマの顔 鞄につけて 笑い合う 女子高生を 遠い目で見た
どうしてよ 死人に口なし 泣き言を おねえの墓前で 吐き出す自分
束縛と いう名の 入口結婚に あこがれ夢見る 一人の女
パリのカフェ シトロン水で 長居して フランスの風 髪をなびかす
見つからぬ 青い鳥を探すのも 気づけば幻 25の秋




マツクラ
釘を打ち続ける間脳内で君に釘付けなんてループさせ
座布団を腕に巻き付け枕です 王子の昼は昼寝で過ぎて
君の詠む君ってどこのクソヤロウ。僕の知らないコブ付きベイビー
ゴキちゃんを殺す道具はクイックルワイパーがベストと我開眼す
マッサージでいつも治らぬ肩痛を爆乳だからとおどけてみせ
水筒のお茶の代わりのお湯割りのアルコールが刺す目鼻の痛み
印籠を開始5分で出したなら残り時間でどーする黄門
隣から不良少女の声がする 雨粒程の声をしぼりて
どっかの部屋の水の音 垂直に落ちるエレベーター状の悲しみ
オレンジのバンダナ巻くとダサいけど蕎麦屋娘を蕎麦屋たらしめ
うつむくと泣いてるように見えるのを確かめもせず見つめてる




叉旅猫目
夏に日に置き去りにされたハブラシのふと見るとまるでひまわりのような
「いっせーの」二人で乗った方舟にあるのはカラータイマーみたいな永遠
12360402あなたがくれたまばたきの数
電気式ギターを初めて弾いたときから毛穴が息を息をしている
けどそれが?教室は今日も戦争ごっこわたしは見えない銃を手にして
酩酊しふと見る鏡の中の吾列車待つ家出少女の如き
男の子女の子たちただ外に出よ街は今××だから
怪獣のルーティンワークは食べること飲むこと寝ること涙すること
ℓのキッコーマンがぼくたちの間で揺れる日曜の午後
真夜中のスタッカートが合図八分音符は街を駆け抜け
ぼくたちは白いページを黒くするために生まれたわけじゃないもの




マナ子
年老いた女というわけでいじめられる会社の中の憎悪と白髪
「頭おかしいよな」男二人の陰口は喉をえがらせ足でにじって
透風に金木犀の甘香乗る花房探して振り仰ぐと空
蜜柑あげは蝶幼虫緑やわさに並ぶ棘があやうい
夏トカゲゴキブリわたしムカデクモ皆雄がおりまぐわう四畳
我知らずウッチャンナンチャン好きな友をセンスの無い奴と見下してゐる
「電車の中では話しかけないで」制服少女と「はいはい」と母
痛いのか憎いか辛いか悲しいか七十回目の死を死ぬ勇者
暇潰し流れて生きれば幾年か(早く人間になりたい!!)
ほの暗き臭気冷気のみ覚えおり休み時間の便所太宰の
                      (小説の内容は忘れました)
おかあさん父祖母弟友あなた 喜ばせたし傷つけたくなし
くたびれて愛する人の多きことに 夜道呟く「誰がわかるものか」
ちぢこまる幼虫がいる冬の流し 湯気をそちらに扇いであげよう
網戸なし暖冷房なし風呂もなし“貧乏ごっこ”のつもりで住めばよし
野良猫とお好み焼きパンわけて食べ また明日も会えたらいいね
雨の夜は窓を開け寝る雨の音溺れる夢を見られるだろか
誘惑が色とりどりの図書館で今日出会ったはイッパイアッテナ
                         (そういう名前の絵本のキャラクターです)
五股かよ!変わらずクズだねと笑えたり 別れてよかった元彼今友
                                  (むしろ仲良く)
カメレオンカツヲノエボシカナダガンくちに出したいカツヲブシムシ
                      (「ぶしむし」とか言いたいだけです)
新しい病名もらって強気なるいたわれいたわれ鬱病様だぞ
深夜二時、電話の向うで友が泣き半ば眠りつ相槌未練
名も知らぬ遠くの人が囁いている明けない夜を切り刻めツイート
           (webサービス「twitter」で発言することをツイートと言います)
姫林檎赤みを帯びて日に日にと我の届かぬ枝先に揺れ
起こしても夜中甘えてもうんざりとした顔見せるだけ猫の忍耐
鶏肉を切り分ける時ほど指先がかじかむ時は無いと思うの
カミソリは安全でない方がいい氷雨の夜にわたし眉剃る
はためいた瑠璃色砂絵もとうに散り運ばれていく冬の蝶の死
口笛の反響が痛い耳の奥 青春ドラマじゃあるまいしねぇ
凹凸が抱きあう二人の邪魔をする これが今夜のテイク・ファイブ
      (凹凸は「おうとつ」と「でこぼこ」とどっちがいいでしょうね。決めかねます)洋梨と五歳の君の「なーんだ?」優しいものとは答えは“ぼく”
紅玉の酸いも甘いも噛みわけて蜜は凍らぬ0°の朝も
闇の奥 星かと思えば手が届く おや、寝ていた やがて19時
桃色のくちびる左右吊りあげて香水瓶が乙女の形してる
逆光を背負った人が一人来る 似てはいるが待ち人と違う
さっきまで確かに覚えていた夢がもう気配もない白湯の冷める頃
早咲きの梅はめじろに啄ばまれ まだまだ咲くよまだ咲くよう
朝になる 喉がまたひび割れてゐる うすい粥をばのまねばならぬ
あたしのがずっとあいしてるんだからやさしくしなさいのぶれすおぶりじゅ
あの雲は竜のかたちと言う子供「今はカモメを食べているところ」
さみしさが溢れ過ぎててびしょ濡れで雫を撒き散らしてごめんね
春になってカメラもってお花畑へ駆けつけよ我が安直!
オレンジと白と黄色とやがて黒 溶ろけるチーズが餅の上
金色の光まっすぐ目を刺したネオン韻踏む学生ローン
出かけよう湿った髪もそのままで風が吹くのでもう帰らない




マルディ
骨壷に愛おしい骨溢れ出てトントンされておかしくもなり
可憐なる味トマトカレー興に乗ってモロヘイヤ入れおどろおどろし
このカフェは9:00amを過ぎるともうだめなの園ママたちが占拠するから
股ぐらに足下の犬来て丸まれば朝も来たこと思い出す朝
妊娠すカヒミカリィの憧れの華奢な身体が拡がっている
今宵またホロスコープに身投げして手繰る運命前世とか天職とか
数独を日がな一日窓辺にて解きたる君は鬱の最中に
三越のラデュレ窓際通されて眼下往く人/フレンチトースト
悪くなってカメラ重くて嫌になるよ“岸部四郎はウドンが重い”
来る来ない来る来ない来る今日は来ぬ、恋人は野良、来る来ない来る、
車窓映る酔狂の吾どうしても撮りたい首だケータイを出す
アスファルト埋まるオレンジの粒を見る 俯いている自分に気づく
カミーユが得意気に聞く教室で愛人の名は?「Elle s'appelle Camille(エルサペルカミーユ)」
美しき「受胎告知」が現前し 名前を、と男はつぶやいた
おめでとう、自分の声が耳に入って 受胎はやはり祝福と知る
哲人の墓地巡り楽し秋の夜『哲学者たちの死に方』今日はニーチェ
ベランダにのびるその枝百日紅(さるすべり)哀れくすんだ花を残して
示された番地丸めてそのままの冬のコートを奥よりいだす
カンパーニュ・プルミエール通りうろつけばフジタ?マン・レイ?住みびとが問う
どのようにここに居たのか我がきみの代替にする堀江敏幸
抱えた本に胸痛くなる箇所あって気付けば部屋に闇が来ており
ひらひらと舞い散る木の葉記憶にも言葉にもなり吾を惑わす
“『腕(ブラ)一本』1月2日の初夢”に吸われた午後の手写して遊ぶ
           (藤田嗣治『腕一本・巴里の横顔』講談社文芸文庫、2005年、246p)Rのためにきみが喉鳴らすたびに齧りたくなるそこの林檎を
人知れず太宰の墓にくちづける乙女のすがた茉莉が見ている
熱帯びるポケットの中握る鍵(キー)集約される今日の出来事
ただきみに五感捧げて果つ日々はまひるまにみるゆめに似ている
結婚の終始綯い交ぜ神無月黒紅白のお式があった
夕方は家庭の匂い嫌だわと言うお姉さまの手がきれい
駅前の書店2階のレジ裏にひっそりと在る“ニャンとかしよう会”
“バイアグラ”アーユルヴェーダの老医師の机の横にマグネット有り
冷蔵庫で干からびている切り抜きをつい諳んじる「自動エレベーターの…」
枝離れ土に転がるかりんの実 終の住処を定めるごとく
どうかしら?さしだす手の甲一瞬で愛の現場にかわるキッチン
さかしま。水たまりも杏ジャムも鏡になった水曜の午後
秋色がひかりのなかで燃えている もうじききみの記念日がくる
たちはそわそわしてるよその晩になにを飲もうかどう騒ごうか(きみとね)
開けるまえから香しい、セザンヌの林檎たちより…、重いダンボール
名前たち、こんなとこにも付いてたの。修繕屋さんの靴クリーム瓶
ちょっとプルーストに訊いてくる!駆け込んだオスマン通りはただただ黒い
リースないままクリスマス来ちゃうね笑う玄関の清清しさ
週末を迎えるために金曜の雨がしっとり街を緩める
グラビアで中谷美紀が眠ってる夜請け負うと言わんばかりの
思い出すことも忘れることもせずただきみ想う感情教育
息抜きの『正弦曲線』その紙に昇る朝陽で文字は揺らめく
わが胸ときみの腿にあるという傷の交歓いつの日か来る
クリスマス冥界からの電話待つあの娘が歌う主は来ませり
零れ落ちるピアノみたい 鳥たちが離れていった空の五線譜
ヘンリーが、~の、~は、アナイスの日記を満たすヘンリー・ミラー 恋っぽい熱で
なに求めなに恐れて我をただすの?きみ年若いヘンリー・ミラーね
なにひとつ望まぬ私のその横で日々立ち上がり消えていくもの
その線に従うように分解す鏡開きの日の空は透明
僕だって頑張ってると叫んでる黒南天の下でするキス
ポーズ(pose/pause)とる「苦しい時こそ深い呼吸」ヨガの教えをくり返す朝
人生は予兆、予兆に満ちている だから、いつも明日までは待って
2杯目のアルコール廻るときみたい我が身貫くきみのその声
隣りからサクランボ来た桜桃忌揺らし眺めつ回診を待つ(2009年6月の入院日記より)
すべてのきみ「きみしにたもうことなかれ」音は違えど私も晶子
きみ宿りわが教会に光射し 恋と信仰、学問を得る(2009年12月の日記より)




耳野
   連作・アンダー・ザ・レッドライト
札二枚忍ばせ浮き足覚束ず向くは赤き灯照らす異番地
箔入りし朱塗りの箸もペン軸も暗燈下では濡羽烏なり
暗橙の灯下で煙草更かしたるあの子もその子も影は歪物
彩声に囃され捻り出す万札見栄切る我の擦り切れ財布
赤燈の許に握りし白柔きその手に黒き血透けて見えたり
二十二の赤貧の描く愛などは薄紅桜と老人が云う
歪影に追われつ赤燈商店街逃亡疾走走馬灯のごと


うつくしき魑魅の棲む赤燈商店街
硬貨ひとつをひしと握りて
ぼくはウットリと青冷めていた
凛と鳴る冬の夜だった


田子ノ浦臨む工業地帯にて伸びゆきしぼくの灰色気管
我が咽に白熱光の迸り 嗚呼、グシャリ歪みし紅白煙突
竪堀駅高架下二時のササメキは白柔き脚より垂るる透液
月見草ひとつポッケに突き刺して機械めく宵の本栖湖を往く
灰色の硝子管を舌裏よりソッと突き刺す我が夜癖なり
東海道線降りて雪染む富士を背に我が胸にも貼る遺失物番号


    別訳・幸福概論
靴屋とは哀しき生業なりと云い木型研きし口は薄笑
靴屋より誂え靴を貰い来て二、三歩の挨拶我が浮舟よ
覚束ぬ我が足向きに苦笑せし君との喫茶でツイ脚を組む
右足の片側減った革靴で三日月灯下を滑ってもみるのだ
野分渦き藍染む夜更けは軽薄に滑空せよ我が脚我が背徳よ
綻びし革靴治しに来た我と廻り唄歌う靴屋の横顔
宙を舞う羊革のうつくし残像よ哀し幸福は確かに在りし
誕生日靴屋へ連れ立ちぼくと君ステキをひとつ誂えお呉れと


休日の午後 嗚呼、あの日のようだと
ぼくは思いつ きみを迎えに
靴はまわる 生き死にまわる
例い廻っても 君と居たらば 
ぼくは概ね 幸せ、なのだ


シベリヤを思わす耳帽顔埋め物思う東京はすべて吹雪く先
身にメスを入るる極寒哀惜にロマンチッカの焼き印捺して
紺制服纏う少年行進曲蜜脚でパチパチ空気を鳴らし
細密製巨大電波塔その許に磔刑となりし無数の冬よ
白昼の残響は音無閑々と幾ツ頃よりうつくしがらずや
臓物の黒陰は夜長のシリンダー目盛り浮く度疼き啼くなり
袖口より血と宝石とを滴らせ嗚呼我が瞼の少年仮面
白ケ空刺して聳ゆる新宿の伊勢丹は屈式ローマンス堂
蛍光三角二重にぶれて六芒星DJファウストの夜は輪廻し
白熱光のごとく枝垂れよ冬蜃気紅白煙突銜えるきみへ
靑印を捺した薬紙の幾重にも折られ縮れしノスタルジヤに、
詰襟を緩めし隣の襟足が我が心軸へと鉄杭討ちて
年毎にきみよ我が骨中埋むとも洞傷からは塵雪ばかり
天吊らる少年屍体と為りて猶我がキリストはいなかのじけん
密蔦に埋もれた喫茶の窓席でトロイカ鳴りし昔を知れり
今は亡き地下店でペン執る亡霊を訪ぬぼくもまた透明探偵
細工窓透かし視る黒きトレンチを纏いし彼の珈琲製血管
ダッフルの裾より伸びし白脚で駆くるきみに痴る午后の終わりを
薄氷色春一番を蹂躙し猫背少年の行列は往く
制服に拙ぬ唄声の横顔を仰ぐほど尊き我が情念よ
橙の窓辺より白き雪道と急くひと観て生きる今日は浮世絵
一瞬のセンタースポット浴びし後配送されしぼくは貸付屍体
緞帳色の泪だけ覆う仮面して肉曝すぼくらは青毒症だつた
声持たず食事せずとも息づいた乳肌のきみは創世主もどき
藍空に浮かぶ星採りては飴玉のよに呉れるきみよ成らなくていい




六等星
学校の感想文には載せられない彼女の尖った感性が好き
屋上に一番近い階段でスカートがあばくスカートの秘密
白髪もハゲも出っ歯も既婚者も校舎の中では花泥棒なの
放課後の渡り廊下に細長くスタッカートの異端の聖歌が
先生の気持ち悪さを笑う時、分け隔てなく皆豊かな少女
えっちゃんが日誌に引いた蛍光ペン今日の保体はセックスでした
英語科の二年のバド部のジャーマネがバド部の主将とデキてる速報
英語科のバド部の主将の本命はカナダに留学している続報
ソプラノのCからDが狂うのは朝練に来ない田村の所為でしょ
プリントを折る指の幹がまるで違う先生とずっと地図を折ってた
貝の端みたいな爪がチカチカと光ればあなたも不良のようです
先生が好きなあの子が昨夜未明、塾の男子と、ざわざわしました
シーユーと発音するK先生が勧める語学テキストのプリント
スカートの襞が散らばる春だから陰口もまるで木々のさわめき 
足音であなたが判ったあの子も主婦に、こめかみがきつく鳴るのね先生




くれむつ和歌集・続(2009年秋冬) 終

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