二〇〇九年四月から七月、早稲田大学第二文学部表現芸術系演習三十四の参加者たちは、ネット短歌会KUREMUTU CLUB(http://kuremutu.blogspot.com/)に作品投稿を続けた。初めて作歌に手を染めた人たちばかりにもかかわらず、作品は六〇〇首を上まわり、質的に高度なものも多く、斬新な挑戦も少なくなかった。大学の演習での実作としては慶賀すべき稀な事態であったといってよい。詩歌の道は経済的繁栄に遠く、地味で報われることも少ないものだが、これらの歌の数々に明らかな才能の可能性を示し得た人たちは、今後の生の中でも、ぜひ詩歌にかかわり続けていってもらいたい。今回の成果を記念し、歌を作者別に並べ直し、全作品をここに集成する。配列は作者名によるあいうえお順とした。
なお、著作権は個々の作者たちに存する。著作権に関わる事務は制作者・駿河昌樹が担当する。
二〇一〇年二月二十六日
編者 藤原夏家
制作 駿河昌樹
くれむつ和歌集
梓
目を閉じて ゆりかごの中 夢の中 遠い空に 記憶はかえる
真夜中に 冷蔵庫の中 オレンジ一つ みずみずしい夢 切ってみる
スカートに落ちた りんご飴 広がり染まる 私の恋は 嘘みたいな赤
もうダメと つぶやき鏡に 泣いてみる マスカラパンダ目 悲劇のヒロイン
岩田壮一郎
笑ってと約束交わした日暮里駅一人涙するスカイライナー
困窮し働く時間もありゃしない啄木のような生活つらし
二本ある歯ブラシ一本捨てました心は軽いがならない電話
目覚ましを増やし続けて三個目だそろそろ鶏飼っちゃおうかな
香水を久々に見たら空っぽだドライつけっぱゴメンね環境
苔球も一日半でカピカピだドライつけっぱゴメンねおもいで
単位無い金もないし友もないこんなはずじゃぁなかった大学
悲壮感漂い始める残高照会売るもの探す何も無い部屋
シャンプーを詰め替え気付く月日の経過昨日七夕だったらしいね
テレビがねえ新聞とってねニュースしらねえ勧誘電話で知った解散
ペアリング鈍くなるその輝きに反比例する二人の時間
今起きた寝る前に届く超えられえぬ時差地球は狭くなってるのかな
知らぬ間に切れたミサンガベットの下何かいいことおこったっけか
臼井慶太
アスファルト湿った匂い雨の兆し今年もゲリラひそんでいる
丸氷回していくと融けてゆく悩みも解ければと望んでみる
酩酊し傾いた首傾奇者日本経済傾いている
政治家の私利私欲で動かすな高い税金払っているのに
戦国の武将のようなカリスマが今となっては草食男児
大学は授業料と単位を交換する場所なのです
次こそは決めてやるぞと頭の中BGMは威風堂々
携帯にwasedaにグーグルに実は私も住所不定?
雨、突然フォルテッシモ指揮者の狂ってしまったオーケストラ
乱高下不安と期待終わりの無い崩れかけのジェットコースター
パソコンは難解複雑でも実際0と1の集合体
(以下は作者が完成を自認していないもの)気になって 無心になれず 寝れぬ日々 もう一週 まだ一週
後悔を する度思う あの頃に 遊び過ぎてた つけがきたのか
G1の ファンファーレ 新緑に 儀式のようだ 馬に託す夢
なぜだろう スーツを着ると 雨が降る 嫌な予感を 何度も感じた
あと一杯 飲んだら帰る と言いながら もう一杯飲んで 気分良くなる
ブレーキを かけずに進んだ 今までの 勢いはどこに 行ったのだろう
年数を 重ねるごとに 愛着が わいてきたかな
6年目六年間 通った校舎 取り壊し 村上春樹も 学んでいたのに
夕焼けで 赤く染まった 岩肌は 脳裏に焼きつく 美しき絶景
政治家の 私利私欲で 動かすな 高い税金 払っているのに
雨上がり 一服外に 出てみたら 蚊にさされた 今年もきたな
経済を 動かす者の 私利私欲 あまりに醜く 笑えてくるわ
突然の ゲリラ豪雨 吹きつける ビニール傘 また壊れた
パソコンは 難解複雑 でも実際 0と1の 集合体
弾く玉 回るデジタル 当たらない やってられるか パチンコなんか
戦国の 武将のような カリスマが 今となっては 草食男児
やってくる 忘れた頃に 今年も来た 住民税 高額過ぎる
大学は 授業料と 単位を 交換する 場所なのです
次こそは 決めてやるぞと 頭の中 BGMは 威風堂々
そびえ立つ 天に向かって 霊峰は 日本古来の 大和魂
針を置く 回るレコード プツプツと レコードプレーヤー アナログはいい
レバレッジ 膨れ上がり 破綻する 同じ過ち なぜ繰り返す
乱高下 不安と期待 終わりの無い 崩れかけの ジェットコースター
携帯に wasedaに グーグルに 実は私も 住所不定?
雨、突然 フォルテッシモ 指揮者の 狂ってしまった オーケストラ
80`s 流れていると 思い出す ギターを始めた 中学生を
もし今、 イエスとアラーが 出会ったら いったい何を するのだろう?
空目(うつめ)
春風に乗せて想いよどこまでも 飛んでしまえと呟いてみた
夢と希望決意に変えてしまうため 話し相手に呼んだの、君を
頭のさ、後ろに目があるのかしらね だって君は振り返らない
強さなど置き忘れたよどこかにさ だからここにいるのはわたし
繋がって溶ければいいと望むけど ずるりと離れて別々になる
左手をそっと開いてみてみれば 君の面影追えるはずかな
引き出しの奥へ奥へと仕舞いこむ 笑顔と思い出忘れた振りだよ
ギシギシと鳴らして歩く散歩道 君との会話つくるスカート
赤茶色、好みの色ではないけれど浮かぶ姿は笑顔の君で
桜花集めて飛ばして集めて飛ばす 恋する気持ちに例えられない
ずるりと離れ繋がり溶けぬ体がふたつ君笑みながら指絡みつく
恋人の愚痴を言い合う口元が緩んでいるのは自覚あります。
匂いたつ春が君とリンクして抱きしめたくてたまらないんだ
目がかすむ年齢のせいかと言う母よ 夜更かしパソコンゲームをやめんか
まんまるに少し足らぬと拗ねる君 膨らむほほを幾望が照らす
酒飲めば心の底の声聞ける出でてくるのは君の名ばかり
図書館で5月の陽だまり集めたようなあなたが私の初恋でした
清楚なる微笑みまるですみれ花つよき乙女は野道に咲くのか
物語食べちゃいたいほど愛してるあなたはそうだ文学少女
好きと言うならば殺したいほど焦がれてよ君は俺のサロメでしょうか
指先にちょこんと触れるそれだけの熱で伝わるみっつめの欲
来年の今日も一緒にいられるように君の手帳に書き込んでおく
好きだから好きなのになぜ好きかしら 言葉遊びか恋の遊びか
「出て行け」と言われないからここにいるそんな惰性が同棲3年
稼ぎありゃ結婚するよと午後のカフェいやそれ初耳だからいやまじで
真っ暗の窓に気がつき息つめる他人の君に似てる気がして
思い出をなぞる写真とゆびわとスカート君が触れた記憶は体に
大沼貴英
春の嵐に寄せるうた四首
「明日から小学生だよどうするよ?」問うと弟「やるしかないでしょ」
事由欄「一身上の都合にて」と書くとき我の狭さ感じる
電柱になびくブラジャーどピンクに映える空の青、春一番
男三十、独身、趣味はカメラ、残像ばかり追ってきました
美しい水に寄せるうた五首
「別れよう?」自分で言って泣いている女は勝手、俺は滑稽
別れぎわ借りた君の部屋のトイレそれでも立って用は足せない
閉まる戸に投げつけた傘、骨ひしゃげ 放置して去るとき雨、上がる
いつからか磨き上げられた便器を見るたび携帯で撮っている
別れると途端に君が凝ったこと スープコトコト、深層水で
戸山公園に寄せるうた五首
フェンスぎわ猫背のアルトサックスに野良猫だけが寄っていく夜
足もとの「きもち」と書いた空き箱に『ビッグイシュー』と煮干しが二匹
カップルはブランコを漕がないのです 風に問う『恋とは何でしょう?(What Is This Thing Called Love?)』
自販機でほんの「きもち」の「BOSS微糖」買って戻ると猫すらいない
遠方の彼女の母にいただいた「カンコーヒ代」三万だった
深夜特急に寄せるうた四首
色褪せた深夜特急のチケット「使わなかっただ」と祖父の言う
「ずいぶんと洒落た名前で呼ぶだぁね こいつぁただの夜汽車の切符」
あのころの僕には読めもしなかった夜汽車の向かう先の「指宿」
じいさんの夜汽車はついに出ただろか天国行きの切符ともなれ
円に寄せるうた四首
「受け取ってくれよ」「いやいや」「頼むから」「いいよ」「いいから」そんな間が好き
別れぎわ胸ポケットに突っ込まれ野口英世は笑っていたり
遠方の彼女の母にいただいた「カンコーヒ代」三万でした
くれるのは嬉しいけどね一万と二千円也、明日の食費
眼鏡の君に寄せるうた六首
箱入りの看板娘、眼鏡屋の眼鏡屋なのに盲目なんて
輪郭をひと撫で、あとは無駄話それで見立ては完璧な君
評判は良いのに当の本人は瓶底眼鏡、ずり落ちている
唯一の趣味はラジオ、ただ聴いているだけで完コピ、歌はプロ級
「どうしたらそんなに上手く歌えるの?」「普通に呼吸するのと同じ」
「産声をあげた昔に戻るだけ、私は筒であなたは水面」
鉄道の旅に寄せるうた七首
満員の急停車「窓、開けてくれ」叫ぶ親爺に「はめ殺しです」
どの海を荒川線は渡るのか聴きつつ想う、はっぴいえんど
宇都宮‐湘南つなぐ快速が浦和駅前高架上、飛ぶ
朝五時に十八きっぷ切りまして午後五時、黄金の瀬戸内海
土讃線「おおぼけ」「こぼけ」「ごめん」駅、余所者だけが珍しがる名
一両のワンマン運転オーバーラン、のっそり行き来する運転手
左手に時刻表、右手には傷、スケボー抱え舟こぐ少女
その音楽に寄せるうた七首
明日からボブ・ディランでも目指そうか夢の夢また夢に見た午後
病み上がり雨の日比谷の野音の「や、」すらない残響にしがみついている
噴水の先また先のとどめおく一瞬、夏をきらめきわたる
天高くリバーブかかる風呂屋にて浅黒い小田和正を聴く
二十四時だれの姿もない風呂でこっそり歌う、リバーブかかる
真夜中の路地に紛れてアイポッド爆音で聴く爆音で聴く
突然の三連符わすれてたたた男の不能さらけ出す夜
あの音楽に寄せるうた七首
朝の駅ふいに和音を知った君アカペラでもおじけず歌えよ
十六分音符の裏の抜け穴に乳首の位置を透かし見る梅雨
俺たちのロックスターが愛を説き顰蹙を買うのもまたロック
冷え性の君が重ねた手の甲のうわべ掠めるポップンポップ
酸欠の渋谷クアトロ耳鳴りという免罪符もちかえる夜
臆病な友の後ろで発射台、モッシュにダイブさす仲直り
濡れ枕ふいに聞こえる弦楽を知ってしまった知ってしまったね
定型の夜に寄せるうた五首
持ち越してゆく秒針に苛まれ切り刻む言葉の先は曇り
大丈夫だと責め立てるやつがぜんぶ繰り越していってしまった夜
窓のない部屋の壁すなわち痛み、ひとの心を吸って膨らむ
十六夜の月の明かりもご多分にもれず宵越しの気分は晴れ
思い過ごしだったというよ青春はぜんぶ、この夜そのままでいる
初夏の憂鬱に寄せるうた四首
クールビズじっと見つめていた虫の死なぬのをじっ、と見つめている
ネクタイを緩める音の音飛びし、ああ疲れたと言える言える日
物欲がぐらり頭をもたげてき、そうだ何とか生き延びたい夏
髪を染め一人称を変え好きだった君は消えた、歌声よおこれ
梅雨どきの恋に寄せるうた六首
降りしきる雨のなか夜の道を行く、あなたは想い出に傘さして
笑わない、けれどあなたはこの僕の諦め早いことを知ってる
濡れそぼる高田馬場にひとり立つ、あなたは想い出だけ手懐けて
恋は気を病むものですとものの本、ちくしょうすべて知っていやがったな
あかあかと燃える証しの灯を抱いてあかぎれた手であかつきを待つ
垢じみた昨日は捨てて明かしてよ、飽かず続いてゆく欲望を
七夕の熱帯夜に寄せるうた五首
コーヒーを飲むと疲れる、東京に七夕飾りの大放物線
朝四時に寝酒を飲んで七時まで眠って起きて
最終面接最終と知らされてはいなかったけど予感がしたんだ社長がいる
確信が強すぎて思った以上に嬉しないのがちょっと嬉しい
内定を貰って気づく「おめでとう」よりも欲しい言葉「頑張って」
一度きりの夜に寄せるうた四首
処女ではない君が気にする背の低さ乳輪の小ささこそを愛す
戦争は遠きにありて思ふもの寝取り寝取られ人生と知る
オーガズムの旅に出たいと言う君の物言わぬ荷物持ちになれたら
男三十、独身、趣味はカメラ、残像ばかり追ってきました
柏の葉
公園見ないふり きらきらひかる 薬指 どんな女(ひと)かと 思い巡らす
すっぴんを可愛いという君は近視がすすんで盲目ですね。
「じゅーろっこ。顔のほくろを数えてみました。」君嫌がることやりたがる私
ボルビッククリスタルガイザービッテルどれにも負ないじいちゃんちの水
青い筋ボーダー見ていて頭痛したそんな近くに寄ってこないでよ
ぐうの音も出ないと先生言うけれどおなか鳴ります鳴りやむまでは
むくどりのヒナは人をまだ知らなくてわたしはそっと窓をしめた
傘ふたつバスを待っている人がいて大人になってもトトロは来ます
梅の実をつぶしてかぶれた指先もいとしいものの一つならずや
道端のたそがれどきのねこじゃらし車のライトにぼうっと光る
コリアンダを摘んで匂う指先を不思議なもののようにもちいる
白雲が尾を曳きのぼる はじめたることどもなどを思いつつ来て
緑から赤らむまでの数日を黄金(きん)のりんごと呼んで恐れる
「よし」「よし」と運転手は言い 跳ねるように京浜急行緑を抜ける
表札の「江島」がオブジェの題になる気の向くままに樹々の茂れば
ちらっと見てあなたがいるのを確かめて自室に戻りにんまりとする
神澤一葉
他人の目の 張り付いた部屋 足元の 電源コードを 不意に手に取る
文字遊び 業深狂者の 排泄物 褒めよ讃えよ 大家が通る
美し富士の 懐深き 白樺は 何に食われて 腐って行きしか
人轢きて 遅れし列車に 苛立つ君よ 幾刻許すや 我が命なら
鎮痛剤 抗不安剤 睡眠薬 制吐剤 皮質ホルモン剤
アスピリン トリプタノール ハルシオン プレドニゾロン プリンペラン
アスファルト 飛び石 三和土 扇風機 古きラジオの ヤニのにおい
シャンパンに たかった銀バエ 殺したと にっこり振り向く 美しい君
代経れど 理想は同じと 人は歌ふが 毒蛾の一念 蝴蝶は知らず
ふるさとは 君ありてこそ 思ふもの 山河田園 いかでか恋はん
子らの側 躑躅は今も 咲けれども 蜜吸う我は いずくに居るらむ
十字架は 日ごとに重く 自らの 腹食い破りし 蟷螂の死より
温室の 花壇に溢れし 月見草より 葉桜似合ふ 逆さ富士かな
老ひし母の孫を呼ぶたび我が名呼ぶ赤子と変わらず泣くだけの我
夢に病んで魂は荒野を彷徨ひぬ38.9℃の肉塊
夢のごと光の瞳交ぜ交わし陰も知らずに戯れし頃
代掻きも頃合いなりやおだまきの伸びすぎたるに車輪の絡めば
導けと夢に言はれど羊の我も救えぬ君が血はや酸くなりし
バイクに寄せる三十六首
バイクと愉快な仲間たち
女性諸氏今よりもっとモテたくば釣り自衛隊バイクがいいよ
デザインと反比例するルックスよ夜でも外せぬミラーシールド
流行りモノよく知らないけどまず批判乗るとビグスク意外に便利
持つならば全てをなげうつ覚悟はあるかバイク・嫁・核・個人情報
キシャヤスデ轢いて転げる木曾道のライダーハウスの泡つき麦茶
視聴率天気予報は100%飛び出すやつはスリック野郎
薄れいく意識の中ではっきりと我を捕らえる保険の等級
那須/茂原/首都高/周遊/大垂水さらに2ちゃんで煽り煽られ
雨の日に笑顔溢れる見舞客止めれギプスにタイムを書くな
開けつつも周り気になる排気音シミシワタルミがこうさせるとふ
馬場口で擦ったエヌワン転けかけてた 真っ赤だったろ? あのコケリストかwwww
バイク、ライダー、自然
太陽の燃える季節にレプリカの我が懐に炎かかえつ
夏峠君にみとれし10R離るる緑に想い届かず
紫陽花と濡草香る点描の道 あばずれ単車(おんな)よ機嫌を直せ
奥山にもみじ蹴散らし泣くタイヤ声きく時ぞ秋は悲しき
ライダーと悪の組織との戦い
望むなら速さ味方に周遊はマスクパンダも趣味入ってる
オレ貧乏あいつ市原彼失業黙って支払うハゲの離婚者
白蠅のばらまく切符は警察署・簡裁経由の市原行き
交差するフルフェイスたちのピースサイン脅威障害オールグリーン
単車乗りの孤独
太陽を浴びずに枯れるは嫌だなと鎧の下の写真とお守り
蝉時雨ガソリンスタンド我も給油しばし楽しむ内股の涼
空仰ぐ少年でありし夏は遥か土下座バイクで今日しか見えない
すばらしさ教えたかったあの夏の若木の青さは目に焼き付いて
「嫁もらう」「会社に入る」奥多摩は世捨てオヤジとゆとりのみになり
宗教や芸術なくば生きられぬ人は解るかライダーズ・ハイ
この峠Uターンせず独り往けば行き着けるのに君の住む町
バイクと命
奥多摩にユメタマ駆りて逝き人の名をも知らねば顔も知らねど
スピードの向こう側とは言い得て妙 不運(ハードラック)とダンスを踊る
ビバンダム天使の輪なきZX-9R(ユメタマ)が逝ったは地獄かまだ二十歳とふ
攻めすぎて人馬は共にオーバーレブ カムな弾けそ死なば諸共
大治郎・ノリックの次を賭けながらふと黙り込む騎上の四人
心地よい疲労感じつ降りようかふと考える朝練のあと
速かった誰もがそう言うGSX(ジスペケ)の義足はそれでもなぜ走るのか
帰り来てシャワーを浴びてベッドに入り震え始めるああ生きている
数多なる憂い憾みもこの美しき天地(あめつち)の元に還ると思へば
神様へ今日を駆け抜くライダーの全てにどうか明日をください
アクセルを握った時の歌
池袋醜く群れる歩行者よトラックだったら轢き殺してるとこ
白バイよお前が死ぬたび酒がうまいから飛ばす背中がゾクゾクしちゃうの
原付でNINJA煽ったら転けちゃって高尾病院で反省する朝
原付に煽られ転けて血だらけの君の表情(かお)が忘れられないの
アクセルを握ると人間変わるって?いえいえこれが地なんですよ
アクセルを握っていないときの歌
寄りかかる防音壁で背を白くして僕はピアノなんて聞いてなかった
穴だらけの音楽室で背を丸くして君はピアノなんて弾いてなかった
お祈りをしてから走るの?あれはただバイザー下ろしただけだったのか
*バイザー:フルフェイスヘルメットの透明なシールドの部分。
やわらかにホワイトノイズを奏でる雨に耳塞いだのはいつの日からだろうか
黒板に張り付いた夏草いきれ目を刺す青空掴めぬ空白
火をまとい揚羽は紋様鮮やかに小指の先まで縮んでいった
溢れ出す都会の唸り尾を引いてテールライトがカーブに消える
頑張って良い奴買えよもう疲れたよ次こそ死ぬぞ次こそ死ぬよ
美味しくて安いワインは見つけたが水割りエタノールの充実感がない
岸辺露伴
暁の月の姿は寂しげで田舎の祖母を思い浮かべり
鶯の鳴く声響く早天に安心感を与えられたり
とおり雨からだ通じて心まで洗い流して欲しいと願う
江ノ島の夜明けの海を前にして寄せては返る夏の思い出
マイケルが死んだと聞いて動き出すアイポッドの中、眠るスリラー
政治家を情けないと言い放つ父の姿が滑稽に映る
六月の雨に打たれて黄昏れて君と別れた日々、思い出す
周りから草食男子と言われるがそれでも肉より草が好きです
これでもかと言わんばかりに聳え立つ都庁ビルに憧れ抱く
新宿のネオン街のまぶしさで人の寂しさ隠蔽してる
に慣れた仕草で火を点けるそんな姿を彼は知らない
人生がマラソンのようなものならば何時になるかなランナーズハイ
「ナマケモノは二十時間寝るらしい」「だったらキリンをもっと褒めなきゃ」
ナマケモノが二十時間寝ると聞きホッとしてしまう怠惰な気持ち
北村仁美
小説と現実世界をうろうろといつの間にやら時間旅行
満開の桜を見上げそれよりも美しくおもう 足元を見て
金髪に白い目を刺す電車内 老婆が近づく 彼、立ち上がる
今から帰る、と 突然放つわがままに 出来立てごはんのあたたかさ
三年目これでいいのと言い聞かせ 枯れた涙とウイスキーの味
まっさらな青いお空を底辺に あしぶみをするおおあくびをする
ほろ酔いの赤いほっぺた気分良く 肥えた月さえまるまる歌う
霧島六
夕暮れに冴え渡りしはチャルメラの豆腐売りさえ我より若し
目が覚めて桜吹雪の向こう側黒く蠢くリクルートスーツ
ひとり部屋日々を送りつ徒然と横目にバナナの黒ずんでゆくを
雀鳴く蒲団の外の大都会行かねばならぬ、離せ蒲団よ
鈍行を抜く特急に友の顔お前仕事か俺青春だ
幼子の旅立ち母の道しるべ、風よ吹かんやいま雪送り
騒がしき201号室の前にほこり被ったベビーカーひとつ
あの雲が魚に見えるか野良猫の髭を揺らすが日曜の風
帰省して夜も更けたれば猪口ふたつ白髪まじりの父に酌する
あの頃は何も知らずに済んだよねと幼馴染の吐いたマルボロ
冬服を仕舞う場所なく箱につめ実家の母とは無料通話を
ふと君が捨て紙で折った折り紙をもう何年も飾ってあるんだ
道端に仄香りたる濡れツツジ摘んで蜜吸うあの日は帰らず
食堂の中年女性に大盛りと注文めば彼女やけに笑顔で
午前二時マクドナルドで繰り返す男は「だから」女は「でも」と
新宿の昼下がりにハーモニカ吹く老人メガネ妖しく光れり
宝島探す話で盛り上がるいかにも我らが厭世同盟
プリントで切りし指舐め武器の味ぼくとあなたのホメオスタシス
這う虫を信号待ちに哀れみてやはり轢かれて鯨幕かな
この口は何であろうか欠伸して我が生活圏人のいぬまま
バルコニーに誰の涙か五月雨のピリオド一つ、二つ、三つ四つ
我が部屋の小国家なる混沌に窓を放てば神の嘆息
思ひ出を売れば幾ばくなろうかと全財産百五十円也
屹然たる戸山の裏手の研究所パンデミックの威圧的様
炬燵
取り替えたバケツの水の透明に絵筆を落とす彼をみている
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜は並んで歩く
君からの新着コメント赤文字をただ待つだけの生きものである
おそらくは彼に二物を間違って与えた間抜けな神様がいた
雨粒のようにこぼれる絵 涙のようにあふれる絵のような恋
クリスマスプロパガンダを秘密裏に指揮するのですセント・ニコラス
潮風と煙が染みた缶詰めに必要なだけ労働者たち
戦うと決めた者らを嘲笑うならそうやって朽ちてゆけ日々
両端の垂れた真白のバチストのネクタイに散る晩年の赤
彼が亡き王女のためのパヴァーヌにひっそり記したフォルテの理由
レプリカのエレクトロニカ聴き飽いてSHIBUYA-TSUTAYAでケッヘル番号(ナンバー)
自動的にビターヴァレーをゆれるきみJPEGにとじこめておいてよ
どうやったところで結局埋め尽くすオブセッションオブセッションオブセッションオブセッション
嘘に嘘を重ねてハートディスクまでハイクオリティなムービーで埋めてよ
また死んでるアート・アズ・アート商品性に負けたんでしょうと嘲笑う街
簡単じゃないときもある親切じゃないときもあるそういう感じ
マジキモいってことは知ってるけど君が欲しいとか俺死ね♡♡♡俺うぜえ♡♡♡
Re:Re:メール末尾の―END―が君からの本文よりも切なく光る
あなたには無意味でも僕には強く響いたのです 強く強く強く
君が好きといった少女コミックの中では君が恋をしていた
君の横顔が見られるポジションをすぐに見つける習性みたい
いつからか君に貸すこと考えてから本を選ぶようになってた
そこ俺も一緒に行きたいって言えなくてまたその話題に戻りたいんだ
君が来る日覚えてから最近は曜日感覚はっきりしてる
「この恋がいいね」と君がいったからその漫画みて努力はじめた
SAI
人ごみの内に映りし我が幻影 心苦しくともなお開きて歩む
はらはらと落つるよ花 君はゆく 我をおいていくな おいていくなと
星たちの夢 月のカーテン滲む入り江でまだ見ぬ宵を運ぶ船
風に吹かれてたなびいている 偽りを生きるのはもうやめた
旅すれど旅すれど変わらぬ内を抱えてどこぞ行く
移りゆく季節に咲きし永久の春 いのちめぐりてまたいつの日に
葉桜や散りし音等を敷き詰めて 君を踏み行く青々の道
青染める貫くようなスケールたたえ雄大世界展開する
しなやかに春風吹けば戯れて緑葉いのちのつややかなるを
ゆく船に積みし想いはいつの日の別の世界を旅し行きかう
太陽の裏 星たちの夢 隠されたストーリーは荒野を向かう
蜜のように甘い微笑みこぼすだけ心を溶かす優しい調べ
木の精がニコリと笑った雨の日の静けさのなか小さな出会い
最近流行不満体質改善方季節限定感謝体質
シラサギさん今日の成果はどうですか?まだまだですよと長伸びる影
雨の日に「にゃお」と鳴かないで夜知らぬ自販機住まう傷ついた猫
眺めやる瞳はいつの日の光正午の日陰老人は待つ
缶蹴りのどこかに忘れていた缶のふた開けるって約束したね
離れてもいつでも共にあるのだと何かのはずみあのふたが開く
耳奥にかすかに残るざわめきを閉じ込め眠る落日の鐘
雨音に負けじと鳴いてる君思い六月雨の街をスキップ
朝もやの薄霧のたつ芝原は雫の奏でる目覚めの歌ね
脱衣所のすっぱい臭い染み込んではるかなる日々湯気の向こうに
光もち母より出でてしばしの夜舞い散るいのち空かけてゆく
ひとつぶを重い口開けをつかみとる心の霞メロディになる
窓の外雨降りしきる灰色に遠くの音がはっきり聞こえる
砕け散る雨粒たちよどこへ行くこの降りしきる雨音の中
この場所に君はとどまり僕は行く呼吸し止まぬ海越えて
白き犬が海とたわむれる波打ち際にわれ昔友の逝くを見る
波の音思い出たちも一滴寄せては返す時の流れに
君の死はもうここにない血肉へと消えてしまったね共に生きよう
波際の寄せては返す音に入り命の呼吸に漂う泡か
靴底にいっぱいの夢すり減らしお姫様は大人になるの
ざわめきを靴底深くに閉じ込めてあの日を偲び眠るハイヒール
花々の散ってしまった残骸が大地を汚し蟲らは住まう
静寂の虚空を破る意志つぶて波緩やかに目覚める意識
雨滴たわむれた日は清らかに静かな音の空白残して
時間
バドミントン 勝っても負けても バドミントン 世に勝敗はなかりき
犬がいる 足 短いなと ひそかに思う つつじの花が綺麗だ
猫たくさん早稲田の街にはいるけれどすべての猫が皆親戚ではないのか
銭湯はとても気持ちがよいけれど年寄りばかりで眼の遊がせどころなし
五七五五七五五七五七五七七頭の中は俳句のことでいっぱい
あじさい祭り境内に賽銭箱一つ二つ三つ願いごとは宙を舞う
朝ごはん食べたら次は昼ごはん仕上げは夜の晩ご飯
六月は毎日メロンを食べました。七月はスイカだ。八月はなんだ。
アンデス タカミ クインシー アムスにアールス 六月メロン
吸ってないのに煙草臭い 八百屋の親父は超やばい 安全地帯はメロンだけ
六月は毎日メロンを食べたのか八百屋の煙草に慣れたのか
四方八方ギラギラ視線を放つゴキブリが見ているのは床
ありがとんぼ どういたしましてんとうむし ムシいないのに虫がいる
毎日毎日を日々平穏に過ごしていたら光が砕けた。マイケルが死んだ。
100円秋刀魚パサパサだ。500円秋刀魚はプリプリだ。同じ秋刀魚で何故こうも違うか
100円秋刀魚パサパサで500円秋刀魚はプリプリだ同じ秋刀魚で何故こうも違うか
人間を秋刀魚に置換えてみるならばやはり100円か500円か
私を秋刀魚に置換えてみるならばやはり100円か500円かいや、1000円か
100円秋刀魚プリプリで500円秋刀魚パサパサかも思い込めばそこは天国
500円秋刀魚に100円秋刀魚おれもプリプリ思い込みは世界を救う
5人と1人 5匹と1匹 イチローと俺 人間に区別があるないような不思議な気分
丑の日に蒲焼ばかり並んでる鰻の顔はどこへいった
丑の日に蒲焼ばかり並んでる鰻の顔はどこへやら
丑の日は牛食べないのにうっしうし鰻を前にうっしうし
捨てられ続ける鰻の頭いっそのこと身だけで養殖すればよし
夕暮れどき携帯に刺す茜色新宿の空は不気味に美しい
夕暮れどき鰻頭に刺す釘 身は不気味に光るにょろにょろ
夕暮れ時マンション屋上男女がふたり心震える高所恐怖症
美しい空をつくるは光化学スモッグ マンション屋上に男女心震える高所恐怖症
不気味な熱気渦巻く早稲田の街目立った者勝ちひげ、基本
早稲田の空不気味な熱気が籠ってるこれは人か犬か猫か天気か
どん どん どんどんどん どんどんどんどんどんどんどん 煙草をやめたら鰻のぼりのハイテンション
布団の匂い太陽の匂い良い匂いそれはノミダニの焦げたにおいだ
ばしゃばしゃばしゃ ばしゃバシャバシャ ばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃバシャバシャ 縦に泳ぎ続ける大人の集団
ばしゃばしゃ必死で泳いでる中年心が痛む青年
風もラジオもテレビもゆっくりしてる日曜日 自殺のための月曜をひかえて
風もラジオもテレビもゆっくりしてる日曜日 自殺の多い月曜をひかえて
おなかがすいたテーマは食べ物に自然と詩歌づくりは腹が減る一方
夕飯は何食べようかと考える秋刀魚に鰹ミョウガオクラとフルーツトマトデザートはメロンかスイカかこんなことでは詩歌は書けない
煙草くさいそれは自分が喫っていた大好きだった煙草の香り
スパスパと喫えば喫うほど喉イガイガ オエオエなくなる身体変化しつつ
カーペット洗濯するのは大変だ厚いし重いし乾かないし人生は汚れがたまる
半年ごとに汚れがたまる人生内臓は掃除することができない
半年前毎日楽しく過ごしてた半年後毎日楽しく過ごすだろうまたカーペットを洗いながら
暑苦しい汗が体中から流れ出るカキ氷で冷やす夏の内臓
暑苦しいオペラがラジオを流れるこいつは顔中ヒゲ面の獣だ夏の夜
暑苦しいほんとに顔が暑苦しい政治のイチロー
暑苦しい存在OS暑苦しいあの唇を少し削れ
ビデオ屋に行ったらいつもの顔がいっぱい俺の名前は新作だ
コンビニに行ったらいつもの顔がいっぱい俺の名前はたまごスープだ
100円が財布にいっぱい溢れてる言ったらアンマリ面白クナイと
リモコンがうちにはこんなにいっぱい動きたくないのか動きたいのか人間
クリネックススコッティセレナーデ食べてもないのにすぐなくなるティッシュたち
かき氷もうすぐ祭りが終わっちゃうこんなに暑苦しくて苦しいのにブルーハワイ
渋谷 彰広
ひとあし、くずのはひらり ふたあし、くずのははらり ああここはそら
ざわ、ざわ 澄んだお空が さしこんだ あるくちおしさ こみあげてくる
だそうとも いでこれずもの 然れども にじみでるもの ここにありや
わだかまり はじけずとも、くすぶるは いつぞのいかり あまたのおもい
土塊を ほじくりふれる かわいてる 貸し出す先も 枯れた土地なら
現れる 限界集落 次々と ここは都か 姥捨て山か
ひしめいて ぎゅうぎゅうと 風の音 おきなとおうな
たからかに 弱きをまもれ うっかりと よわきてのひら ふみつける
転ぶちご しかるははおや おにのよう ちごはしらずや あいされている
きず滲む つーっつーっと こぼれおつ ゆれるひだまり うつるすがたは
やわらかな まなざしといき なでるよう からめとられて かせかきずなか
ひとり住む 四割こえた ここはどこ ここはうつつよ こことうきょう
いつのよも かたりつがれる おやばなれ まちどうしいな しんやくエヴァ
ちごのかず ペットのほうが あまたをる ちごに取立て けもの払えず
たまごの値 ふつふつあがり かすみたつ デフレのさなか ぶきみさかすむ
日たかだか あかりあふれて 線消して。ひかげ褪せゆく こわい、こわい
ふとみると 異形の姿 ざら、ざら べたりごつごつ ハハこれわたし
父はよく 痛い痛いと 囁いて こもれびのよう かげふむわたし
大樹の しなりぐあいが まるでそう 父の腰沿う かたちのようで
ハァハァァ キュるるぐぐぐ おいおまえ! はぁなんだって? え・・めしまだ!
かなしみが その身を焦がし やきつくす 燃えゆく瞳 眼そらせなくて
かわいそう ことばあふれて わずかだけ なにもできない わすれないひと
水差しの湛える青に映る盆運ぶ思いはわだつみに注ぐ
水差しの湛える青に映る盆運んでゆけばわだつみにつぐ
いきずらき 飛び込んだ先 ジャパン。吐けど浸れど キックリターン
巷行く 文末泳ぐ 海馬 気づけば背伸び おもしろきかな
たつ霞 関所につけず 霧の中 どこか聞こえる まつりごとの音
焼けた肌 綺麗なうなじ ふふふ麩麩 特価品 美女木の店
水回り かまびすしきね じゃあじゃあ 子の口捻れば ぽとり、ゴメン
澁谷美香
一目惚れ はずしてほしいサングラス ガラスの奥の瞳が気になる
ステージででキミが歌ったラヴ・ソング 長澤まさみが好きなのね。
終わりだね 話すことばがもうないよ 残すはたった好きの二文字
エナメルのにおいが部屋からしてきたら 今夜の夕食準備はいいです
手紙ならすぐに返信くれるかな メール嫌いとつぶやくあなた
友達もその友達も知っている きみだけだって、気づいてないの
屋上から 高層ビルの隙間から同じブルーを見ている二人
新しい彼女が出来て就職した 劇団辞めた 君は変わった
角砂糖3つもいれたミルクティー アイツのことはもう忘れたわ
童顔の彼の残り香 汗 甘い香水 ラッキーストライク
君の顔照れてるように見えるんだけど 真っ赤な夕日のせいかなぁ
「みにきてよ」もらったライブのチケットは鞄の底でくしゃくしゃにする
オツカレサマ 形式だけの言葉しか言えない私はファービー以下
相手の立場考えないで行動する17才など卒業しました
カレーがね、作りすぎててあまってて…ハートを盗む泥棒のはじまり
弾くたび埃舞い散るレスポール 削れてくプレゼントだったピック
添削済みおたおめメール 先生いわく1日遅れがミソらしい
本当はお金も時間もあったのに チキンは当分肉食になれず
藍色のひと夏だけの浴衣着て 自分のためかあなたのためかなんて 考えたくない
水玉にインクを一滴落とすように今日をとじこめられたなら
左から右手にうつったピンキーリング みじかい夏よ さようなら
〝いつだって別々さ君がそう思うなら〟 死んでもそんな事思うもんか
拾語
いつからかタールのように噴き出したたったひとつの動的な何か
目の下の黒子と腕の宝毛は父親譲りの幸福の証
鏡台に並べた凱旋門とガスタンク引き出しの奥の野ばらの香水
雨が降る陽が降る葉が降る鉄が降る全部吸い込んで肺が膨らむ
君はなぜこんな夜更けに詩を吼える野犬の喉を刺す月、鋭利
君が君であるが故に破壊するダージリン香の残る揺り椅子
シュー皮の様なため息飛んで行く未だ幼い映写機の中
名も知らぬジンジャエールの銘柄を記したメモがどこかに消えた
君の頬の黒子が作る仔ぐま座を僕以外には誰が知り得る
日を追って高くなりゆくピンヒール厳つい街を踏み砕く赤
手鞠(てまり)
貴方の髪の 水玉掬う ドライヤーの 熱風が好き 布団寝転ぶ
牛蛙 蓮華 深池 貴方の声 ミルクみたいな 白い明方
藤岡文吾
色落ちて枝に残るは緑葉のみぬるい春風に揺られて漂う
人の渦 もまれてもつれて 一か月 抗いながらも 違う己に
地球紀行 行きたい自分は いるけれど 財布の中身 深いため息
眩しい空 きつい青さに 苦い笑顔 昨日の酒が 残る頭で
夕焼けに光る麦茶と水滴と赤茶に染まる君を見ている
いつだって私私は私私がなんで誰かになれるの
よる波が僕をさらって帰って行くぼくなんてもうどこにもいないのに
流れる雲を見ているとこう思うんだ世界なんて無くなれば良いのに
羽を割いたその感触は今も忘れないあの子が笑って踏みつぶした夏
誰かがいた電信柱に支えられた夜初めて知った人は優しい
あぁ蝉や声高らかに叫ばずともぬけがらはすべて潰してあげる
息をしないで身をよじり衣の上から触れ合えばああここにこそ人間を見たり
本間武士
この国で俺の家だけ石器時代何故か楽しげ笑う無精髭
約二分開け放たれた冷蔵庫貧相ながらも悩める喜び
狭い国自由気ままに飛び回り気づけば故郷ロシアより遠く
頭打ち歌を忘れて勉強家気づけば歩くことわざ辞典
成すは凡夫成さぬは英雄いつからかどこか狂った歩合制
しがみつき身を震わせるのは蝉よ明日の自分を思うのか蝉よ
清水に魚は住めずと知りつつも注ぎ込みたくなる漂白剤
雲を見て遠くへ往くと言った君動けないのは浮いた僕だけ
なるほどなこれはおそらく蜃気楼腕を伸ばさず理解した振り
もっと窓をもっともっと空気を!蟻塚で漏れた微かな呟き
金曜日ぶつかり合った傘と傘笑いかけても顔すら見えず
月曜日ぶつかりあった傘と傘睨み付けても顔すら見えず
日曜日昼か夜かもわからずに荒いすりガラス遮光カーテン
お世辞だとわかっているのについ笑顔何回言ったの素敵な顔ね
お花見と言いつつ枝は緑一色過ごした時だけ何も変わらず
今日だけは渋滞さえも流れ星飛び込んでみた高速道路
押入れにしまったテレビ置くラジオただ声だけを聞いていたくて
帰ろうかそんな空気の三人組ここに自分をもひとり足せたら
捨てたらどう 守るためには今日とて分別憂鬱な声背で受けながら
なぜ走るただ立ち止まる日を追い続け岩流の荒野吐く息は黒く
まある
夏風にざざめく稲葉の濃緑の海辺 汗にすける君の背をみていた
後輩がくれた別れのマグカップ茶渋の色に歳月を思う
梅粥の酸味に偲ぶふるさとの青梅つける祖母の手恋し
霧雨に相合傘をしてた秋 春の雨には2つ傘をさす
霧雨に濡れてあでやか赤松のさかむけた肌 哀れ女よ
「わかれよう」言うと決めた電話だけ 限ってとってはくれぬ君
高原でこのもや雲よと教えるとふわふわしてきたと笑う十八
銀座道 プラダ、シャネル、ルイヴィトン 「およびでないし」ツンとすまし顔
曇天に映える馬場道看板街 これもまた好き第二の故郷
おいときたい心のどこかにブルーレット おとしてくれぬか水底黒ずみ
五月晴れ春色スカートふくらまし風がはっぱとくるり輪を描く
蒔かぬ種の花の色を語るより固い大地に鍬いれる勇気
ひだり前ぬすみ見ている君の肩 ふと目があうことを切望している
好い声 耳は澄む ため息もひろえる 君は、遠くにありて聴くモノ
雷鳴に怯むないざ行け走れ 帰る部屋に灯はないのだ
きしむ手指は金平糖のような痛み 夏の白昼夢 水追いに溶けいる
あなたの頭蓋骨きれい、目蓋、奥歯 てのひらの恋 まどのそと、あめ
言葉などいらない愛を最上と呼ばないで 背に呟くは、
現実は換気扇の音まわる山手線 立ちくらむ青
海抱かぬ大地に生まれ夢中に水の中をえがく いま日々生きる
三年忌祖父の戒名、耕雲院 梅雨空に鍬を握る手を見る
明鏡たる皐月の稲田あぜみちに佇めば平行世界の誘い
彼方より、うすみどりの水面溶けいる死をまつ 透きとおるような
AM7時またたきの後16時 汚れたリネン 痛む脳髄
恋人に歌ったフォーレなぞる夜 ふ、と愛されていたことに気づく
歌批評しよ クリアだの濁りだの早稲田ビールの夜7時半
予感す。雨は蝕む蜘蛛の糸 沈黙と小指 ぱつり、ぱつり、と
筆と病 僕の苦しみは青僕の悲しみは青喜びは青
「助けて」呟く自嘲リアリティをもたない誰かの青い碧い背
シリコンが埋め立てる僕の甘さヴィニルのつやめき オイルの先 独り
下校雨君にさしだす相合傘 問はず語らず発光する頬
叉旅猫目
右耳にせえのであけた丸い穴今はときどきじくじく痛み
したあとの湿った疲れぶつけ合いペットボドルがごとんと揺れる
散らばった契約書類の氏名欄には匿名匿名匿名希望
ハイジャック犯吸うHOPEの指先ピンク揺れる自意識無視する股間
屋上でおでんを食べる午前9時愛や希望は感光してる
アイスクリーム溶けた溶けて笑うまるで死体みたいな笑顔ね
キスしたらかちりと何か音がしてこれは始まり?何かの終わり?
復活の呪文が思い出せませんプラスチックで出来ていたのに
人を刺すためのナイフはこちらです可愛く包んで差し上げますね
夏服の透ける背中を目でなぞるノストラダムスよ力を貸せよ
夜が明けてキオスクで触れる指先が失くした温度を思い出してる
落下する日々がスライドショーのよう正しき光夕闇に消え
去り際に置いて残した真っ赤なトマト隣にメモを「不発弾です」
1995年の真ん中に取り残された幼女の尿意
順番を間違えたまま朝がきて僕らの正しき愛が始まる
山田太郎
満開の舞い散る桜みて思う風に流されどこいく未来
満開のさくら飛び散る強い風私のさくらいついつ咲くか
吹雪のよう風に舞い散る桜たち「綺麗」そういう君が「綺麗」だね
桜の木今年咲いたら一年後来年もまたまたありがとう
風が舞い今年も桜咲きましたあのこも桜みれているかな
それでも星は輝くし太陽はまた昇るそれでいいいいんです
大手町スーツを着こみみな疲れ線路は続くよどこまでも
君は言うもう少しだけ開いたらそれでも私こもる貝殻
愛想尽かされても一向に構わない君が幸せならそれでいい
酔っぱらいホームで嘔吐三時間山手ぐるぐる我記憶なし
痛む膝青あざをみて思い出す昨夜のひとりボーリング大会
カーリング電話が鳴ってコーリング最近流行りのサイクリング
ゆるり
いい酒で触れそうで触れない肩ふたつ終電逃せと言いたいけれど
迫りくる三浦の海よ ああ海よ 思わず叫ぶ サーファー笑う
日が延びて西日が襲うキャンパスで輪をかけ眩しい新入生たち
眠れない夜に電話で泣いてみる きみも泣くからちょっと笑える
キューポラの黒い煙は夢のあと シャッター街は黙るばかりで
笑う声 放れば返る 眠る山 友のカメラと 埋もれる足と
四月の雨去って冷え込む夜の路 影をふみふみカレーの匂い
前を駆けるセーラー服のプリーツの伸びた少女にわが面影を
子育てはもう終わったと笑う母 声に混じった強がりは見ぬふり
ふと黙るきみのひび割れたくちびるをじっと睨めば世界が止まる
内ももの隙間の見えるスカートで街に繰り出せフリルを揺らせ
午後の二時あの胎児の頃のようにひとり布団で丸まっている
行く春に静かに沸いた憂鬱をグラスに注げば今宵も甘露
蛍光灯がトイレの鏡に映すのはわたしの顔の嫌いなとこばかり
腐れ縁切っても切っても切れぬもの切れたとたんに寂しくなるもの
踏み切りを転がるようにかけた夜あの日だけ君は恋人だった
あの日から寝ても冷めても胃を焦がすように痛むか失った愛
桃色のロングヘアーのダンサーは汗すら舞台衣装のようで
雨の日に狂おしく咲くツツジ花一斉にじっと我を見ている
ペディキュアのきらめく五月に手を振って梅雨のストーブを準備する夜
あの人は譲っちゃだめよと私に言う恋愛上手なアラ還*の美女 (*アラ還=アラウンド還暦)
東西につながる窓の道を吹く風が涼やか夕方の居間
全身を蟻が這い上がるのに似た絶望が今傍らに居る
壁越しに伝わる夜の雨音を強く激しく抱いて朝まで
脳内にいつかの声がこだまする。あの子は今は元気でいるか
君んちのプラスチックの急須には安い煎茶の平穏な味
スルスルと体に流れる鉄の音わずかに聞いた貧血の午後
サランへヨ。カムサハムニダ。チャン・ドンゴン。婆ちゃんに来た遅い春
11時汗の匂いのするスーツ脱いでそのまま翌日の朝
燃え尽きた蛍は塵になるのだろう疲れた胸がそっと呟く
藍色の空に浮かんだあの月のうさぎはいまだうさぎに見えず
半べそでギター抱えた弟よいいではないか歌え歌えよ
面白い?ねぇ面白い?と監視する君がそんなじゃ漫画も読めん
ご近所のオヤジもキミもそうですがどうして人は風呂で歌うの
この肺はまるで言葉の留置場そとにでたいと皆あらがうよ
息の音止まってどれだけたつかしら本を読んでる君の静寂
ふと思うSuicaに残る3円をどう処理しよう?どうでもいいね
疲れ果てそっと漂う寂しさにくしゃみをひとつ家に帰ろう
この広い世界ではみな主人公そんな大嘘ついたのは誰
秘密など窓が曇れば覆われる今夜は星がやたら多くて
にじりよる醤油ラーメンの香りと指がさまよう衣擦れの海
食われるか撃たれるかする猪の首は短く太く短い
青空と曇天色のパンツとのあいだに立った私緊張
夕闇のセピアに溶けて風景画と化すばぁばの背中は小つぶ
2000mm森の深部を仰ぐがごとく澄み渡りゆく喉仏かな
群青のパラグライダーの端っこに掴まってでも希望する飛翔
友人がハマりはじめたヨガの名は十二指腸のポーズだそうな
干したてのお布団みたく純情無垢の湯気たちのぼるあなたの匂い
8日目の洗わぬ靴下の悪臭に負けじ劣らずじ君のうそ
高くても困るが低血糖低血糖低血圧低気圧電話料金
揺れる。君のパルスと白い壁白い壁に一点のしみみっけ
悲しき酒飲みの口はライフルだっただった頃だだだだだだ駄々っ子
君の言うあなたのももの白き油脂それが好きだと口のほころぶ
あなたの言うあの子のももの白き油脂それが好きだと口のほころぶ
右が欠け左下欠け、メロンパンの表皮 ぼろり。 と黄色き星の砂
「ウーロンハイ!」「百年梅酒。」「生中ねー!!」カシスオレンジ乙女のしるし?
汗つたう広い背中の美しい(ワタシノモノヨ。)すするジャスミン茶
てぇつなご。差し出す彼の左手はいつもの2倍大きく見えた
大好きなあの人が振り向くのならやってやるとも核開発も
まっ黄色に染まる夜のカフェテラスさむいさみしい広重が好き
真夜中にひとりはさみしい声出さず壊して欲しい千切って欲しい
甘辛い赤い林檎の純情は18のよるけしとんじゃった
テキーラで酔うはずのない君のゆび胸に止まった蝶々みたい
テキーラで酔うはずのない君のゆび乳房にとまる蝶々みたい
おひとりで銀座京橋イタリアンとなりの席は駆け引き中ね
胸張って恋人のメッカお台場の女性お二人バンザイアタック
終電の田端改札キスをするスーツのふたりそっと眺める
ホントハネ あなたの睫毛すきだけどもっとだいじなあのこの笑顔
すべり込むぬくい潤んだくちびるが話とぎれてあいた隙間に
くれむつ和歌集(2009年春夏) 終
2010年2月26日金曜日
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返信削除mixiのほうにみんな書き込んでくれええええええ