2009年4月22日水曜日

必読短歌3 ~与謝野晶子1・岡井隆1・河野裕子

 4月21日に教室で読んだ歌を載せておきます。
 28日までの作品投稿やコメントは、この下にあるコメント欄から行ってください。


◆ 与謝野晶子 (よさのあきこ) 一八七八~一九四二 ◆

その子二十櫛に流るる黒髪のおごりの春の美くしきかな          

清水へ祇園をよぎる花月夜こよひ逢ふ人みな美くしき

やは肌のあつき血潮に触れも見でさびしからずや道を説く君

何となく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな

ゆあみして泉を出でし我が肌に触れるるは苦し人の世の衣

昨日をば千とせの前の世と思ひ御手なほ肩にありとも思ふ

春の夜に小雨そぼ降る大原や花に狐の出でてなく寺             

海恋し潮の遠鳴りかぞへてはをとめとなりし父母の家   

鎌倉や御仏なれど釈迦牟尼は美男におはす夏木立かな

誰が子かわれにをしへし橋納涼十九の夏の浪華風流

七たりの美なる人あり簾して船は御料の蓮きりに行く

水にさく花のやうなるうすものに白き帯する浪華の子かな

金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり岡の夕日に

夏のかぜ山よりきたり三百の牧のわか馬耳吹かれけり

夏まつりよき帯むすび舞姫に似しやを思ふ日のうれしさよ

うすいろを著よと申すや物焚きしかをるころものうれしき夕

あざやかに漣うごくしののめの水のやうなるうすものを著ぬ 


◆ 岡井隆 (おかいたかし) 一九二八~ ◆

母の内に暗くひろがる原野ありてそこ行くときのわれ鉛の兵

父よ その胸郭ふかき処にて梁からみ合うくらき家見ゆ

眠られぬ母のためわが誦む童話母の寝入りし後王子死す

掌のなかへ降る精液の迅きかなアレキサンドリア種の曙に

灰黄(かいこう)の枝をひろぐる林みゆ亡びんとする愛恋ひとつ

渤海のかなた瀕死の白鳥を呼び出してをり電話口まで

以上簡潔に手ばやく叙し終りうすむらさきを祀る夕ぐれ

薔薇抱いて湯に沈むときあふれたるかなしき音を人知るなゆめ

藻類のあはきかげりもかなしかるさびしき丘を陰阜とぞ呼ぶ

花から葉葉からふたたび花へゆく眼の遊びこそ寂しかりけれ

うたた寝ののちおそき湯に居たりけり股間に遊ぶかぎりなき黒

原子炉の火ともしごろを魔女ひとり膝に抑へてたのしむわれは

あぢさゐの濃きは淡きにたぐへつつ死へ一すぢの過密花あはれ

つきづきし家居(いへゐ)といへばひつそりと干すブリーフも神の仕事場

独楽は今軸かたむけてまはりをり逆らひてこそ父であること

蒼穹は蜜かたむけてゐたりけり時こそはわがしづけき伴侶

歌といふ傘をかかげてはなやかに今わたりゆく橋のかずかず


◆  河野裕子 (かわのゆうこ) 一九四六~ ◆

逆立ちしておまへがおれを眺めてた たつた一度きりのあの夏のこと

陽にすかし葉脈くらきをみつめをり二人のひとを愛してしまへり

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか

森のやうに獣のやうにわれは生く群青の空耳研ぐばかり

ゆふべぬるき水に唇まで浸りゐて性欲とは夏の黄の花のやうなもの

夏帽子すこしななめにかぶりゐてうつ向くときに眉は長かり

振りむけばなくなりさうな追憶の ゆふやみに咲くいちめんの菜の花

死の後にゆき逢ふごとき寂かさに水に映りて桜立ちゐき

今刈りし朝草のやうな匂ひして寄り来しときに乳房とがりゐき

言ひかけて開きし唇の濡れをれば今しばしわれを娶らずにゐよ

たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江と言へり

さびしさよこの世のほかの世を知らず夜の駅舎に雪を見てをり

象の鼻先が土すれすれに揺れてゐる寂しさを言ふは容易(たやす)からずも

会ふたびにらつきよのやうになりてゆく小さなあたまの人なり母は

長くてもあと三十年しか無いよ、ああ、と君は応ふ椋の木の下

露地裏に夕顔咲かせて前(さき)の世は小さな無口の婆さんであつた

12 件のコメント:

  1. ゆるりです。
    トップバッターか二番手は絶対やめようと思っていましたが、今週はそんな感じになってしまいました。

    急に歌うのも恥ずかしいので、先週の授業の感想もすこし。
    私は岡井隆が好きでした。男性の短歌は女性と違うベクトルで妄想力があるので、面白いですね。

    歌いきます。
    ふと黙るきみのひび割れたくちびるをじっと睨めば世界が止まる
    内ももの隙間の見えるスカートで街に繰り出せフリルを揺らせ
    午後の二時あの胎児の頃のようにひとり布団で丸まっている
    行く春に静かに沸いた憂鬱をグラスに注げば今宵も甘露
    蛍光灯がトイレの鏡に映すのはわたしの顔の嫌いなとこばかり
    腐れ縁切っても切っても切れぬもの切れたとたんに寂しくなるもの

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  2.  大沼です。
     そういえば、これは短歌ではなくて俳句の話なのですが。先月だったか、NHKで、有名人が「なんだこりゃ」な俳句を持ち寄って紹介しあうという、非常に興味深い番組を見ました。とりわけ個人的に印象深かった句を、ここでご紹介します。
     
     ○とととととととととと脈アマリリス (中岡敏雄)
     ○春は曙そろそろ帰ってくれないか (櫂美千子)
     ○夏みかん酸っぱしいまさら純潔など (鈴木しづ子)
     
     なんだこりゃ。
     閑話休題。
     以下、今週の投稿です。
     
      戸山公園に寄せるうた五首
       
     フェンスぎわ猫背のアルトサックスに野良猫だけが寄っていく夜
     
     足もとの「きもち」と書いた空き箱に『ビッグイシュー』と煮干しが二匹
     
     カップルはブランコを漕がないのです 風に問う『恋とは何でしょう?(What Is This Thing Called Love?)』
     
     自販機でほんの「きもち」の「BOSS微糖」買って戻ると猫すらいない
     
     遠方の彼女の母にいただいた「カンコーヒ代」三万だった

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  3. 叉旅猫目です。
    いつものように三首。

    ハイジャック犯吸うHOPEの指先ピンク揺れる自意識無視する股間

    屋上でおでんを食べる午前9時愛や希望は感光してる

    アイスクリーム溶けた溶けて笑うまるで死体みたいな笑顔ね

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  4. 空目です。
    先週の授業で先生にご指摘いただいた歌を自分なりに直してみました。
    それを含めて、3首。

    ずるりと離れ繋がり溶けぬ体がふたつ君笑みながら指絡みつく
    恋人の愚痴を言い合う口元が緩んでいるのは自覚あります。
    匂いたつ春が君とリンクして抱きしめたくてたまらないんだ

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  5. まあるです。
    先週ご指摘いただいて、細かい表現を考えてみたものの、見事に崩壊してしまいました。
    今回は難しいことを考えず、最近の心情でよんでみました。
    なかなか上手くいかないながら、今週も4首おねがいします。

    曇天に映える馬場道看板街 これもまた好き第二の故郷
    おいときたい心のどこかにブルーレット おとしてくれぬか水底黒ずみ
    五月晴れ春色スカートふくらまし風がはっぱとくるり輪を描く
    蒔かぬ種の花の色を語るより固い大地に鍬いれる勇気

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  6. こんばんはSAIです。

    今回は4首投稿させていただきます。


    青染める貫くようなスケールたたえ雄大世界展開する
    しなやかに春風吹けば戯れて緑葉いのちのつややかなるを
    ゆく船に積みし想いはいつの日の別の世界を旅し行きかう
    太陽の裏 星たちの夢 隠されたストーリーは荒野を向かう

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  7. ●バドミントン 勝っても負けても バドミントン
                      世に勝敗はなかりき


    ●犬がいる 足 短いなと ひそかに思う
                     つつじの花が綺麗だ

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  8. こんばんは、GWが待ち遠しい霧島です。
    前回先生から「生活詠というジャンルだ」とご指摘頂いた通り、自分は以前、日記を575に要約して書いていたことがありました。多分その時の感覚が抜け切れていないのでしょうか、相変わらず毎回そんな感じになってしまいます。次は趣向を変えて挑戦してみようかなぁ。


    道端に仄香りたる濡れツツジ摘んで蜜吸うあの日は帰らず
    食堂の中年女性に大盛りと注文めば彼女やけに笑顔で
    午前二時マクドナルドで繰り返す男は「だから」女は「でも」と
    新宿の昼下がりにハーモニカ吹く老人メガネ妖しく光れり
    宝島探す話で盛り上がるいかにも我らが厭世同盟
    プリントで切りし指舐め武器の味ぼくとあなたのホメオスタシス

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  9. うああああ、皆さんと躑躅ネタがダブった!
    さっさと書き込んでおけばorz
    先週お休みしてしまったので、いっぱい歌います。

    他人の目の 張り付いた部屋 足元の 電源コードを 不意に手に取る

    文字遊び 業深狂者の 排泄物 褒めよ讃えよ 大家が通る

    美し富士の 懐深き 白樺は 何に食われて 腐って行きしか
    *青木ヶ原に白樺は分布していませんので……。

    人轢きて 遅れし列車に 苛立つ君よ 幾刻許すや 我が命なら

    鎮痛剤 抗不安剤 睡眠薬 制吐剤 皮質ホルモン剤
    アスピリン トリプタノール ハルシオン プレドニゾロン プリンペラン

    アスファルト 飛び石 三和土 扇風機 古きラジオの ヤニのにおい

    シャンパンに たかった銀バエ 殺したと にっこり振り向く 美しい君

    代経れど 理想は同じと 人は歌ふが 毒蛾の一念 蝴蝶は知らず
    *夜学をなくしたら、我らあぶれ者の末裔たちはどうなるのでしょうか。

    ふるさとは 君ありてこそ 思ふもの 山河田園 いかでか恋はん

    子らの側 躑躅は今も 咲けれども 蜜吸う我は いずくに居るらむ

    十字架は 日ごとに重く 自らの 腹食い破りし 蟷螂の死より

    温室の 花壇に溢れし 月見草より 葉桜似合ふ 逆さ富士かな
    http://img.wazamono.jp/futaba/futaba.php?res=48181

    ↑なかなかアップできず苦心しました。必ず見てください。テストに出ます。

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  10. う、今気づきましたがスペース開けたまんま……
    申し訳ござりませぬ。

    ちなみに君君言ってますが、黄身ってなにそれ美味しいの?脳内から出てきてくれない君。

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  11. 遅くなったのに3首しかできませんでした。

    エナメルのにおいが部屋からしてきたら 今夜の夕食準備はいいです

    手紙ならすぐに返信くれるかな メール嫌いとつぶやくあなた

    友達もその友達も知っている きみだけだって、気づいてないの

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  12. 遅くなりましたが、投稿いたします。


    夕焼けに光る麦茶と水滴と赤茶に染まる君を見ている

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