2009年4月7日火曜日

必読短歌1 ~若山牧水・寺山修司・俵万智

 
 教室で今週読む必読短歌です。毎週、このようなかたちで此処にも掲載していきます。ひとりの歌人につき15首前後を紹介します。数が少ないのは残念ですが、時間とスペースの関係上やむを得ないところ。興味を持った歌人については、さらに進んで読んでみてください。
 この下方にコメント欄があります。そこに自分の作品を書いて、投稿してください。また、他の人の作品についての感想や批評、鑑賞なども書いてかまいません。必要がある場合には、さらに、それへの返答も書いてください。
 作品やコメントを書く時には、かならず名前を添えてください。本名でもペンネームでもかまいません。ペンネーム使用の際は、藤原夏家まで知らせておいてください。
 

◆ 若山牧水(わかやまぼくすい)  1885~1928 ◆

幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく     

白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

山ねむる山のふもとに海ねむるかなしき春の国を旅ゆく

われ歌をうたへりけふも故わかぬかなしみどもにうち追はれつつ

父の髪母の髪みな白み来ぬ子はまた遠く旅をおもへる

春白昼ここの港に寄りもせず岬を過ぎて行く船のあり

おもひやるかのうす青き峡のおくにわれのうまれし朝のさびしさ

摘草のにほひ残れるゆびさきをあらひて居れば野に月の出づ

白玉の歯に染みとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ

かんがへて飲みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ

さうだ、あんまり自分のことばかり考へてゐた、四辺は洞のやうに暗い

朝酒はやめむ昼ざけせんもなしゆふがたばかり少し飲ましめ

うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山ざくら花

足音を忍ばせて行けば台所にわが酒の壜は立ちて待ちをる

酒ほしさまぎらはすとて庭に出でつ庭草をぬくこの庭草を

◆ 寺山修司(てらやましゅうじ)  1935~1983 ◆

海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり

夏川に木皿しずめて洗いいし少女はすでにわが内に棲む

煙草くさき国語教師が言うときに明日という語は最もかなし

夏帽のへこみやすきを膝にのせてわが放浪はバスになじみき

ころがりしカンカン帽を追うごとくふるさとの道駈けて帰らむ

灯台に風吹き雲は時追えりあこがれきしはこの海ならず

日あたりて雲雀の巣藁こぼれおり駈けぬけすぎしわが少年期

わが夏をあこがれのみが駈け去れり麦藁帽子被りて眠る

わが胸を夏蝶ひとつ抜けゆくは言葉のごとし失いし日の

海よその青さのかぎりないなかになにか失くせしままわれ育つ

空のなかにたおれいるわれをめぐりつつ川のごとくにうたう日々たち

駈けてきてふいにとまればわれをこえてゆく風たちの時を呼ぶこえ

一粒の向日葵の種まきしのみに荒野をわれの処女地と呼びき

冬の斧たてかけてある壁にさし陽は強まれり家継ぐべしや

夏蝶の屍をひきてゆく蟻一匹どこまでゆけどわが影を出ず

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

◆ 俵万智 (たわらまち)  1962~ ◆

砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている

寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら

思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ

「また電話しろよ」「待ってろ」いつまでも命令形で愛を言う君

落ちてきた雨を見上げてそのままの形でふいに、唇が欲し

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

愛人でいいのとうたう歌手がいて言ってくれるじゃないのと思う

潮風に君のにおいがふいに舞う 抱き寄せられて貝殻になる

「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

愛された記憶はどこか透明でいつでも一人いつだって一人

地ビールの泡(バブル)やさしき秋の夜ひゃくねんたったらだあれもいない

水蜜桃の汁吸うごとく愛されて前世も我は女と思う

焼き肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き

シャンプーを選ぶ横顔見ておればさしこむように「好き」と思えり

30 件のコメント:

  1. ペンネーム・炬燵(こたつ)です。
    さっそくですが、作品を投稿します。

    取り替えたバケツの水の透明に絵筆を落とす彼をみている
    あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜は並んで歩く
    君からの新着コメント赤文字をただ待つだけの生きものである
    おそらくは彼に二物を間違って与えた間抜けな神様がいた
    雨粒のようにこぼれる絵 涙のようにあふれる絵のような恋

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  2.  炬燵さんの五作品(2009/04/08 0:54)。短歌に馴染んでいる人の作品ですね。どれも恋愛感情の初々しい時期をとらえていて、よくわかる。
     五首目の「雨粒のようにこぼれる絵 涙のようにあふれる絵のような恋」などはこちらの心に染みてくるようで特にいいなぁ。「ように」を三回も使っているのは、短い形式の短歌ではよく注意されるところですが、この場合は目立ちませんね。いいんじゃないかと思います。「ように」を多用することで表現されてくる感情ってありますものね。
     二首目なんかは、「ながながし夜を並んで歩く」とか「ながながし夜も並んで歩く」としたほうが、音は滑らかに連なっていくかなと感じます。ちょっと意味がかわってしまいますが、詩歌というのは、最初に発想した時の意味にこだわらないのも必要です。作りながら、音韻や単語などの影響を受けて作者自身が変身していくのが短歌の創作です。
     

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  3. 霧島六と申します。
    随分暖かくなってきましたね。昼間は暑いくらいです。
    さて、二番手で恐縮ですが、六つ投入させて頂きます。

    夕暮れに冴え渡りしはチャルメラの豆腐売りさえ我より若し
    目が覚めて桜吹雪の向こう側黒く蠢くリクルートスーツ
    ひとり部屋日々を送りつ徒然と横目にバナナの黒ずんでゆくを
    雀鳴く蒲団の外の大都会行かねばならぬ、離せ蒲団よ
    鈍行を抜く特急に友の顔お前仕事か俺青春だ
    幼子の旅立ち母の道しるべ、風よ吹かんやいま雪送り

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  4. ゆるりといいます。
    よろしくお願いします。早速ですが、いきます。

    いい酒で触れそうで触れない肩ふたつ終電逃せと言いたいけれど
    迫りくる三浦の海よ ああ海よ 思わず叫ぶ サーファー笑う
    日が延びて西日が襲うキャンパスで輪をかけ眩しい新入生たち
    眠れない夜に電話で泣いてみる きみも泣くからちょっと笑える

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  5. こんばんわ。
    皆さん感じ入る歌ですね。
    後でまたゆっくり拝読します。

    では4番手空目(うつめ)と申します。

    春風に乗せて想いよどこまでも 飛んでしまえと呟いてみた
    夢と希望決意に変えてしまうため 話し相手に呼んだの、君を
    頭のさ、後ろに目があるのかしらね だって君は振り返らない
    強さなど置き忘れたよどこかにさ だからここにいるのはわたし
    繋がって溶ければいいと望むけど ずるりと離れて別々になる

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  6. 皆さん、お疲れ様です。
    ペンネーム、まあると申します。
    よろしくお願いします。
    全くよい出来ではないのですが、投稿させていただきます。

    夏風にざざめく稲葉の濃緑の海辺 汗にすける君の背をみていた
    後輩がくれた別れのマグカップ茶渋の色に歳月を思う
    梅粥の酸味に偲ぶふるさとの青梅つける祖母の手恋し
    霧雨に相合傘をしてた秋 春の雨には2つ傘をさす

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  7. 柏の葉 公園2009年4月13日 15:45

    こんにちは。
    柏の葉 公園と申します。
    最近毎日暖かいですねー!
    ひとつだけですが、投稿させていただきます。

    見ないふり きらきらひかる 薬指 どんな女(ひと)かと 思い巡らす

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  8.  霧島六さんの歌には、初句から結句までをしっかり繋いでいこうとする息の長さが感じられます。一首目と二首目に顕著です。こういうのを作っていくと、作歌において最後まで注意をめぐらす逞しさがついていくはず。
     自分より若い豆腐売りが働いている様子、目が覚めたらリクルートスーツが犇めいているのを見る図、仕事に向かう友に対して「俺青春だ」と言い放つあたり、世の中の大勢の流れとは違う自分の進み方への認識があるようですが、「ひとり部屋日々を送りつ徒然と」というのを見ると、現状をヨシとはしていないのでしょうか?詩歌には、しかし、絶好の精神状態にあるともいえます。
    「鈍行を抜く特急に友の顔お前仕事か俺青春だ」なんて、絶唱ですね。

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  9.  ゆるりさんの「いい酒で触れそうで触れない肩ふたつ終電逃せと言いたいけれど」。この「触れそうで触れない肩ふたつ」というのは、いいねぇ。いいところを見ているなぁ。読んでいる側も、実感できてくるような表現。ただ、四句と結句は「終電逃せと言いたいけれど」とすると、ちょっとハマリ過ぎかも、とも思うし、歌のすがたについて決着を急ぎ過ぎるように思います。「触れそうで触れない肩ふたつ」のいい感じをもう少し引っ張り続けて、なにか別の表現でなんとか「触れ」させてみるといいのでは?

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  10.  空目(うつめ)さんの歌は、今回のものについては、事物や風景などに触れていない点が特徴的。「春風」も抽象的な使われ方ですし。短歌では、花鳥風月という表現に表わされるように、風物を喚起して、それにことよせて思いを述べる場合が多いのですが、あえて、思いだけを連ねていけるのも短歌の可能性のうちです。心の探究。心の揺れ動きの探究。短歌の場合、ただ探究するだけでなく、同時にそれが癒しにもなりうることがあるのが面白いところ。
     空目さんの歌の場合、「よ」や「の」や「ね」や「さ」などの助詞が作者の思いの複雑さと孤独を表しており、同時に、それをとにかくも調整しようとする意志までもが表わされているようです。

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  11.  まあるさんの歌では、
      後輩がくれた別れのマグカップ茶渋の色に歳月を思う
      梅粥の酸味に偲ぶふるさとの青梅つける祖母の手恋し
      霧雨に相合傘をしてた秋 春の雨には2つ傘をさす
     これらはしっかりと短歌になっています。「2つ傘」というのは、アラビア数字ではなく、「ふたつ傘」か「二つ傘」というふうにしたほうがしっくり来るでしょう。
      夏風にざざめく稲葉の濃緑の海辺 汗にすける
      君の背をみていた
     この歌は、ちょっと欲張りすぎかも。印象のつよい表現が五つか六つほど入っていて、さすがに短歌に詰め込むには多過ぎです。夏風のなかの稲葉はふつう「濃緑」のはずなので、読者の想像に委ねていいのでは?微妙な恋心や淡いエロスの表現と読んでいいのだとすれば、
      汗に透くきみの背が欲し夏風に波打つ稲の海原のなか
     こんなふうに本歌取りしたくなっちゃいました。「透く」は古語。四段活用の連体形を使用しています。現代語や古語は、適宜使い分けると、リズムや雰囲気の調節に便利。古語のほうがキリッとする場合は多いですね。

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  12.  柏の葉 公園さんの
      見ないふり きらきらひかる 薬指 どんな女(ひと)かと 思い巡らす
     この歌は、どう読んだらいいでしょう?
     たとえば、電車内に座っていて、目の前に立っている女性の手だけが見える。その人の顔を見上げる勇気が、なんとなく持てない。薬指にきらきら光る指輪をはめているのだけを見ている。そうしながら、どんな人だろうと想像している…
     それとも、こうでしょうか?男の人の薬指に指輪がある。どんな女性との縁を、この指輪は表しているのかなと、女の立場から想像している… こちらの読みのほうが面白そうですね。
     こういう歌では、読者にこんなふうに考えさせる楽しさがある一方、もう少し状況をわかりやすくしてあげてもいいのでは、とも思います。作者としては、覚悟をきめて、方向性を選択しないといけないところです。
     

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  13. 北村仁美です。短歌をつくるのはほぼ初めてです。
    みなさん、よろしくお願いします。


    小説と現実世界をうろうろといつの間にやら時間旅行
    満開の桜を見上げそれよりも美しくおもう 足元を見て
    金髪に白い目を刺す電車内 老婆が近づく 彼、立ち上がる
    今から帰る、と 突然放つわがままに 出来立てごはんのあたたかさ

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  14. 藤岡文吾です。

    遅くなってしまいましたが、一首だけ投稿させていただきます。


    色落ちて枝に残るは緑葉のみぬるい春風に揺られて漂う

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  15. ペンネーム、岸辺露伴と申します。
    三首投稿させて頂きます。

    暁の月の姿は寂しげで田舎の祖母を思い浮かべり
    鶯の鳴く声響く早天に安心感を与えられたり
    とおり雨からだ通じて心まで洗い流して欲しいと願う

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  16. はじめまして。手鞠(てまり) です
     宜しくお願いします。

     皆さん 短歌をつくることに慣れておられるように感じました
     私も、授業を通して創作に慣れていきたいと考えています

    貴方の髪の 水玉掬う ドライヤーの 熱風が好き 布団寝転ぶ
    牛蛙 蓮華 深池 貴方の声 ミルクみたいな 白い明方

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  17.  北村仁美さんの歌。
    〇小説と現実世界をうろうろといつの間にやら時間旅行
    「うろうろと」が口語の雰囲気いっぱいなので、結句では音数をきりっと整えるといいかもしれません。「時間旅行」だと字余りで、口語っぽさを引きずっちゃいますね。
    〇満開の桜を見上げそれよりも美しくおもう 足元を見て
     行動を表す表現(動詞)がみっつ入っています。短歌では、ちょっと多過ぎ。慣れないうちは、どうしてもまとまらなくなりがちです。どれかに絞っていくといいのでは?
    〇金髪に白い目を刺す電車内 老婆が近づく 彼、立ち上がる
    〇今から帰る、と 突然放つわがままに 出来立てごはんのあたたかさ
     どちらも十分に意味はわかりますが、歌としての魅力を出す表現のしかたをもっと考えていきましょう。

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  18.  藤岡文吾さんの歌。
    〇色落ちて枝に残るは緑葉のみぬるい春風に揺られて漂う
     桜の花の散った後の様子でしょうか。「揺られて漂う」のは何かが、ちょっと曖昧。花びらかな、とも思いますが、「色落ちて」とあるので、ちょっとズレが残ります。
     短歌に向いている浪漫的な歌調があり、これからの季節の風物に心を乗せるようにして歌っていくといいと思います。藤や牡丹や紫陽花など、いろいろな花がこれから咲きます。積極的に外に出かけて、夏に向かっていく花や自然を詠んでみてください。和歌においては、身近な自然をよく見るのも勉強のうちです。

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  19.  岸辺露伴の歌。
    〇暁の月の姿は寂しげで田舎の祖母を思い浮かべり
    〇鶯の鳴く声響く早天に安心感を与えられたり
    〇とおり雨からだ通じて心まで洗い流して欲しいと願う
     どれも短歌の韻律に忠実に作られているところが、好ましいですね。もちろん、韻律から外れてもいいのですが、なるべく忠実に五七五七七を踏む作り方を続けてみると、短歌的な底力がついてきます。はじめのほうと後のほうとで、じつは主語が違っているのですが、そのあたりの移行もスムーズ。日本古典によくある移行のさせ方です。

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  20.  手鞠(てまり)さんの歌。
    〇貴方の髪の 水玉掬う ドライヤーの 熱風が好き 布団寝転ぶ
     水玉を掬うのは語り手でしょうか、ドライヤーでしょうか?「布団寝転ぶ」は、布団に寝転ぶのでしょうか?布団が寝転ぶ(?)のでしょうか?そこらへんをもっと指定できるような表現をしていくといいでしょう。「貴方の髪」から水玉が垂れている時に「貴方」の間近にいるわけで、なかなか大胆な光景をとらえた歌でもあります。
    〇牛蛙 蓮華 深池 貴方の声 ミルクみたいな 白い明方
     ふたりで夜をともにした際のきぬぎぬの歌?「牛蛙」や「深池」というのが、単なるロマンチック一方だけでない雰囲気を出します。印象のつよい言葉がいくつか歌い込まれているので、取りまとめるには、こういう歌ではけっこう力量が必要。単語をぽんぽんと置くだけではなくて、もう少し結びつける努力をしたほうがいいと思います。
     ふたつの歌とも、句ごとにひとマス空いているのですが、空けないで歌うのに慣れたほうがいいかな?空けてもいいのですが、ひとマス空けは、短歌においてはここぞ!という技法のひとつ。めったに使わない、というのがいいところ。
     

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  21. はじめまして、SAIと申します。
    短歌の心に早く近づいていきたいです。皆さんの胸を借りるつもりで、宜しくお願いします。


    人ごみの内に映りし我が幻影 心苦しくともなお開きて歩む

    はらはらと落つるよ花 君はゆく 我をおいていくな おいていくなと

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  22. 澁谷美香です。遅くなりましたが、よろしくお願いします。

    一目惚れ はずしてほしいサングラス ガラスの奥の瞳が気になる
    ステージでキミが歌ったラヴ・ソング 長澤まさみが好きなのね。
    終わりだね 話すことばがもうないよ 残すはたった好きの二文字

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  23. 山田太郎と申します。生まれて初めて作った短歌です。
    短歌というより詩みたいになってしまいました。
    よろしくお願いします。

    満開の舞い散る桜みて思う風に流されどこいく未来
    満開のさくら飛び散る強い風私のさくらいついつ咲くか
    吹雪のよう風に舞い散る桜たち「綺麗」そういう君が「綺麗」だね
    桜の木今年咲いたら一年後来年もまたまたありがとう
    風が舞い今年も桜咲きましたあのこも桜みれているかな
    それでも星は輝くし太陽はまた昇るそれでいいいいんです

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  24.  大沼貴英です。
     遅くなってしまい申し訳ありません。
     
      春の嵐に寄せるうた四首
     
    「明日から小学生だよどうするよ?」問うと弟「やるしかないでしょ」
     
     事由欄「一身上の都合にて」と書くとき我の狭さ感じる
     
     電柱になびくブラジャーどピンクに映える空の青、春一番
     
     男三十、独身、趣味はカメラ、残像ばかり追ってきました

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  25. 投稿ができていませんでした。申し訳ないです。
    以下、5編投稿致します。

    ・いつからかタールのように噴き出したたったひとつの動的な何か
    ・目の下の黒子と腕の宝毛は父親譲りの幸福の証
    ・鏡台に並べた凱旋門とガスタンク引き出しの奥の野ばらの香水
    ・雨が降る陽が降る葉が降る鉄が降る全部吸い込んで肺が膨らむ
    ・君はなぜこんな夜更けに詩を吼える野犬の喉を刺す月、鋭利

    拾語

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  26.  SAIさんの歌。
    〇人ごみの内に映りし我が幻影 心苦しくともなお開きて歩む
     どこかのガラスにでも自分の姿が映ったのか?それとも、本当に幻影の自分が見えた気がしたのか?だれにも、こういう時はあると思います。苦しい時の表現というより、意識の特性が発揮された瞬間を敏感にとらえた、とぼくは見たい。「心苦しくともなお開きて歩む」というところに、読者が逆に癒される気がします。 
    〇はらはらと落つるよ花 君はゆく 我をおいていくな おいていくなと
     これは、短歌というより、詩か歌謡曲の歌詞にするといいみたい。
       はらはらと落つるよ花 
       君はゆく 
       我をおいていくな 
       おいていくなと……
     こんなふうに書くと、いい感じでしょ?ここのブログはいちおう短歌中心ですが、他の形式がもっと似合いそうな場合は、違う書き方をしてもいいですよ。それに、和歌の中には、片歌(五七五)とか、旋頭歌(五七七、五七七)とか、仏足石歌(五七五、七七七)なんていうのもありましたし。短歌でなくっても、和歌でいく、っていう手もある。

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  27.  澁谷美香さんの歌。
    〇ステージでキミが歌ったラヴ・ソング 長澤まさみが好きなのね。
     この下の句にはマイリマシタ。「長澤まさみが好きなのね。
    」という、この八・五調。七・七であるべきところへ!ところが、これが癖になるような調子を出していて、面白いのだ。句点までついているし。今はやりの女優や歌手などの個人名を出すのも、けっこう面白いものですよね。
    〇終わりだね 話すことばがもうないよ 残すはたった好きの二文字
     「好きの二文字」を言うのも終わっちゃったら、どうするんだろ?と心配しちゃいます。

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  28.  山田太郎さんの歌。生まれて初めて作ったというにしては、かたちをうまくまとめています。短歌っていうのは、けっこうすごいものですね。意外とはやく作れてしまうんですから。
     桜というのは、しかし、古来からさんざん使われてきたテーマなので、本当に新しいいいものを作るのは大変。こういう視点はまだ誰もやっていないだろうというのを探し、狙って、歌人たちは作ろうとします。山田さんのは、とても素直に作っていて、逆にあまり出会えないような歌になった気がします。
     ちょっと細かいことをいうと、「満開の舞い散る桜」というのはよくない。満開という状態と舞い散る状態との間には、ちょっとズレがあるわけです。「満開のさくら飛び散る強い風」というのも問題。「満開のさくらを散らす強い風」のはず。主語や動詞の関係をきちっとさせておくのは必要です。

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  29.  大沼貴英さんの
    〇「明日から小学生だよどうするよ?」問うと弟「やるしかないでしょ」
     この弟はすごい。小学校入学以前から「やるしかないでしょ」と答えるなんて。でも、考えてみると、「どうするよ?」って聞く兄も兄だよね。
    〇電柱になびくブラジャーどピンクに映える空の青、春一番
     そこらの電柱にはあまりこういうのはなびいていないような気もするけれど… 「どピンク」っていう表現は楽しい。いわゆる歌語ではないですね。「空の青」や「春一番」がさわやかに出てくるので、アクドクナイ。使い方の問題ですね。
    〇男三十、独身、趣味はカメラ、残像ばかり追ってきました
     「どピンク」の後で、「男三十、独身、趣味はカメラ」と来ると、なんだか怪しげな雰囲気でしたが、「残像ばかり追ってきました」で救われる。自己批判やせつなさや寂しさが混じって表現されていて、言うに言われぬ人生の影が感じられてきます。

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  30.  拾語さんの歌は、今週、もっとも独自なものでした。どれも面白かった。短歌では扱いも楽でない単語をあえてたくさん使って、それなりの相互関係を単語どうしにつけている。ふつうの情緒の表現に満足しない、もっと構築的な方向性を秘めている。今後の進み方に期待します。
    〇いつからかタールのように噴き出したたったひとつの動的な何か
     この「動的な何か」という、ぜんぜん短歌的でない表現がとてもよい。
    〇鏡台に並べた凱旋門とガスタンク引き出しの奥の野ばらの香水
     ここでは、鏡台の上に並べられた凱旋門とガスタンクをイメージした読者を、引出しの奥の野ばらの香水に強引に、しかし無理なく出会わせていのが見事。「野ばら」は、ここでは「野薔薇」でもいいかも。

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